リステリア感染症

内科学 第10版 「リステリア感染症」の解説

リステリア感染症(Gram 陽性悍菌感染症)

(3)リステリア感染症(listeria infection)
定義・概念
 リステリア菌(Listeria monocytogenes)によるリステリア感染症は,ヒトのほか鳥類,家畜,野生動物にも認められる人獣共通感染症である.本菌をウサギに接種すると単球が増加することから“monocytogenes”という菌種名がつけられた.
病理・病態生理
 L. monocytogenesは通性嫌気性のGram陽性非芽胞単桿菌で,土壌,水,動物(家畜)の腸管内などに分布しており,健常人の糞便からもまれに検出される.感染経路としては新生児では母親からの垂直感染が,新生児以外の症例では汚染された肉類乳製品などからの経口感染が考えられている.母子間の垂直感染,新生児病棟内での交差感染を除いてヒト-ヒト感染は起こらないとされている.
 本菌の感染により新生児では髄膜炎敗血症胎児敗血性肉芽腫症をきたす.わが国における小児細菌性髄膜炎のうちL. monocytogenesが原因となるのは1~3%である.成人の場合は悪性腫瘍,糖尿病,膠原病,肝硬変などの基礎疾患を有する免疫能の低下した宿主において,やはり髄膜炎や敗血症が日和見感染のかたちで発症する.
 病理所見としては,肝,腎,肺,脳などにリンパ球,単球を主体とする粟粒大の結節性病巣や,灰白色の壊死性病巣が認められる.
臨床症状
 経口感染の場合の潜伏期間は11日から70日と幅広い.病型として最も多いのは髄膜炎で,ついで敗血症,胎児敗血性肉芽腫症である.まれに肺炎や膿胸を起こす.
1)髄膜炎:
基本的にはほかの一般細菌による細菌性髄膜炎と同様の臨床所見である.すなわち発熱に頭痛,嘔吐,項部硬直,Kernig徴候などの髄膜刺激症状を呈する.
2)敗血症:
ほかの一般細菌による敗血症と同様の臨床所見である.
3)胎児敗血性肉芽腫症:
妊婦が感染し,経胎盤的に胎児に垂直感染することにより,胎児が敗血症を起こし,流早産や出生後数日以内に死亡することの多い致死率の高い疾患である.出生した新生児では皮膚に膿痂疹様の発疹を認め,肝,脾をはじめとする全身の臓器に微小膿瘍や肉芽が形成されている.この場合母胎の症状は軽微である.
検査成績
 ヒトのリステリア感染症では単球の増加は認められない. 髄膜炎の場合の髄液検査所見はほかの一般細菌による髄膜炎の場合と同様で,多核球優位の細胞数増加,蛋白増加,糖減少が認められる.敗血症も含め血液生化学検査所見にもほかの一般細菌による感染症との違いは認められない.
 細菌学的検査で,髄液,血液,羊水胎便子宮頸管粘液などからL. monocytogenesを証明することが診断上最も重要である.本菌を塗抹標本を鏡検する場合,Gram陽性短桿菌であることから,Gram陽性球菌と見間違わないよう注意が必要である.
診断・鑑別診断
 特異的な臨床症状はないので,臨床症状のみからリステリア感染症を推定することは困難である.したがって確定診断のためには各種感染病巣からL. monocytogenesを証明することが必要である.
経過・予後
 胎児敗血性肉芽腫症の予後はきわめて悪く,ほとんどの場合致死的な経過をとる. 新生児の髄膜炎,敗血症の死亡率は20%,成人では基礎疾患が重篤なほど予後が悪く,早期診断,早期治療が重要である.
治療・予防
 抗菌薬が中心となるが,髄膜炎や敗血症の治療に頻用されるセフェム系薬は無効なので注意が必要である.アンピシリンが第一選択薬となり,ゲンタマイシンとの併用で相乗作用が認められる.ほかのペニシリン系薬やカルバペネム系薬も有効である. 特異的な予防法はないが,ハイリスクの宿主では,一般的に食肉や食肉製品,十分な殺菌が行われていない乳製品の摂取や取り扱いに注意する必要がある.[岩田 敏]
■文献
Bortolussi R, Mailman T: Listeriosis. In: Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 6th ed (Feigin RD, Cherry JD, et al eds), pp1420-1426, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
稲村陽子:リステリア症.感染症症候群Ⅰ(諏訪庸夫編),pp354-356,日本臨牀社,大阪,1999.
Lober B: Listeria monocytogenes. In: Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennett JE, et al eds), pp2707-2714, Churchill Livingstone, New York, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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