リウマチ性疾患の臨床検査

内科学 第10版 の解説

リウマチ性疾患の臨床検査(リウマチ性疾患総論)

 リウマチ性疾患のおもな病因は,自己に対する免疫寛容の破綻(自己免疫)とこれによる組織傷害である.自己免疫成立には,ほとんどの場合,過剰な免疫力が背景にあるため,自己免疫疾患患者には,①過剰免疫反応②自己組織破壊の原因となる免疫反応③自己組織破壊の結果として生じる免疫反応が,認められる. リウマチ性疾患では,広く多系統の臓器が傷害されうるので,これを反映する臨床検査異常が現れる.この項ではリウマチ性疾患に特徴的である上記3項目を反映する臨床検査を解説する.
(1)血清免疫グロブリン(serum immunoglobulin)
 過剰免疫反応を伴うリウマチ性疾患では,B細胞が非特異的に活性化され形質細胞となって抗体を産生する.そのため,血清ガンマグロブリブン,IgG,IgA,IgMが高値となる.免疫電気泳動によるクローン性評価では,非特異的活性化を反映して多クローン性増加が見いだされる.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)やSjögren症候群(SS)など,B細胞機能が亢進する病態でその傾向が著しい.なお,SSでは,悪性リンパ腫が合併すると単クローン性高ガンマグロブリン血症に移行する. ネフローゼ症候群蛋白漏出性胃腸症などの病態を合併して尿や糞便中へのグロブリン喪失が著しい場合や,ステロイド薬や免疫抑制薬による二次性免疫不全症の場合には,低ガンマグロブリン血症となる.
(2)免疫複合体(immunoconjugate)
 自己抗体と対応自己抗原とが結合して免疫複合体を形成することで病態が引き起こされる場合,血清中に免疫複合体が検出される.SLEや悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis:MRA)はその代表で,免疫複合体レベルは疾患活動性を反映する.前者は抗二本鎖DNA抗体とDNAの複合体,後者はIgG型リウマトイド因子がIgGと結合した免疫複合体である.
(3)血清補体価(serum complement level)
 免疫複合体が組織に沈着すると補体が活性化されて消費される.補体系には多くの蛋白がかかわるが,臨床では蛋白量の多い補体第3および第4成分(C3,C4)が測定される.C3は全補体経路で消費され,C4は古典経路のみで消費される.したがって,免疫複合体による補体活性化ではともに低値となる.総補体活性(CH50)は,すでに抗体が結合したヒツジ赤血球を50%溶血させる補体量として測定されるもので,いわば古典経路の総合力評価である.
 補体レベルは補体消費のマーカーであり疾患活動性を示す.しかし,炎症によって肝臓からCRPが産生されるような状況,すなわちCRP高値の場合には,補体産生も高まるのでマーカーとしての有用性が低下する.
(4)クリオグロブリン(cryoglobulin)
 血清を4℃以下で1時間以上冷却すると沈殿し,37℃に加温すると再溶解する蛋白のことで,単クローン性ないし多クローン性のガンマグロブリンである.前者は,リンパ増殖性疾患で,後者は,リウマチ性疾患,殊にB細胞活性化の顕著なSSや慢性ウイルス感染症,殊にC型肝炎ウイルスに続発する.C型肝炎ウイルス患者もクリオグロブリン量が多いと,関節炎,紫斑,血管炎,腎炎など,リウマチ性疾患としての症状をきたす.
(5)自己抗体(autoantibody)
 リウマチ性疾患では自己抗体が検出され,逆にその存在はリウマチ性疾患の原因が自己免疫である根拠にもなっている.多くは,細胞内成分に対する自己抗体である.
a.リウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)
 ほかの自己抗体と異なり,この自己抗体を産生するB細胞は健常人にも存在する.RFは,すべてのIgGの定常領域(Fc)部分と結合し,RFを産生するB細胞(RF陽性B細胞)は,脾臓のマントルゾーンに存在する.
 そもそも,B細胞の機能は,形質細胞に分化して抗体を産生すること,および,細胞表面の抗体によって抗原を捕捉し,細胞内での抗原プロセシング後,主要組織適合性複合体(major histocompatibility complexMHC)に搭載して細胞表面に表出し,T細胞に抗原提示することの2つである.RF陽性B細胞は,普段はIgGのみを捕捉して,T細胞に抗原提示するが,IgGは自己抗原なのでT細胞は反応しない.一方,IgGが病原微生物由来蛋白と結合して免疫複合体を形成する場合には,病原微生物由来蛋白をIgGとともに捕捉して,その蛋白をT細胞に抗原提示する.つまり,RF陽性B細胞は,病原微生物に対する免疫力の増幅機能を担う.
 この反応において,RF陽性B細胞は,もともとIgGに結合しやすい免疫グロブリンをもち,またこれを細胞外に放出する必要がない.そのため,①形質細胞には分化しない,②クラススイッチやIg遺伝子突然変異はしない,という2つの規則を遵守している.
 しかし,慢性的にB細胞が活性化されると,①が破られ,一部が形質細胞となり,血清RFが検出される.しかし,この場合も,②は遵守されるので,血清RFはIgMクラスである.巨大なIgMは,抗原であるIgGと結合して凝集するので,ラテックスや赤血球の凝集反応(RAPA,RAHA)や濁度測定で検出される.血清RFが陽性となるのは,B細胞が慢性的に活性化される場合なので,基礎疾患は多彩である(表10-1-7).リウマチ性疾患では,関節リウマチ(RA)で8割に陽性となるが,B細胞活性化の顕著なSSでも同程度が陽性となる. さらに,②も破られると,IgGクラスのRFが血清に現れる.これは,それ自身で免疫複合体を形成するために,大量に免疫複合体が形成され,血管に沈着して血管炎を起こす.この病態をわが国ではMRAとよぶ.そのメカニズムから推察される通り,通常,MRAはコントロール不良のRAが長期に続いた後に発症する. なお,RF測定の際に,ガラクトース付加修飾のないIgGを抗原とすると,陽性率が向上することも知られている(抗ガラクトース欠損IgG抗体).
b.抗核抗体(anti-nuclear antibody:ANA)
 細胞核成分に対する自己抗体であり,上咽頭癌由来HEp-2細胞をスライドグラスに固定し,患者血清を反応させ,続いて蛍光標識した抗ヒトIgG抗体を反応させて,核の蛍光染色パターンをみるという,古典的方法(蛍光抗核抗体:FANA)で検出される.染色が確認できる最大の血清希釈倍率で抗体価を表し,蛍光染色パターンを付記する.
 代表的染色パターンに,均質型(homogeneous),辺縁型(peripheral),斑紋型(speckled),離散斑紋型(discrete speckled)がある(図10-1-7).パターンで自己抗体の対応抗原はある程度推定することができる.均質型となるのは,DNAとヒストンが結合したヌクレオソームに対する抗体で,従来,LE細胞として末梢血スメアに認められた現象の原因抗体である.辺縁型は,抗DNA抗体,斑紋型は,U1RNP抗体などによることが多い.一方,離散斑紋型は,ほぼ必ず抗セントロメア抗体による.その他,核小体や細胞質が染色されることがあり,これも検査結果として報告される. 離散斑紋型を除き,FANA陽性例では,個々の細胞成分に対する抗体を調べる必要があり,FANAはリウマチ性疾患のスクリーニング検査として位置付けされている.
c.疾患標識自己抗体
 個々の細胞蛋白成分に対する自己抗体には,疾患特異性が高く,診療上有用なものがあり,疾患標識自己抗体とよばれる(表10-1-8).自己組織破壊の原因となるのは,SLEにおける抗二本鎖DNA抗体,血管炎におけるPR3-およびMPO-抗好中球細胞質抗体(ANCA),抗リン脂質抗体症候群における抗β2GP1抗体,ループスアンチコアグラントである.SLEや血管炎ではこの抗体による組織傷害を阻止する必要があり,活動性マーカーとして扱われる.その他の自己抗体は,むしろ自己組織破壊の結果として生じるものと考えられる.治療でその消失を目標とすることはなく,診断の補助となる診断マーカーである.
 疾患標識自己抗体の検出方法には,二重免疫拡散(DID)法と酵素免疫アッセイ(EIA)法とがある.EIAは,固相酵素免疫アッセイ(ELISA)法を含み,臨床検査上,DID法とELISA法の選択が可能な場合がある.DID法は,核抽出物を用いて,ゲル中における自己抗体と抗原の反応が沈降線をつくることを利用する古典的方法であり,陽性判定は,沈降線を作る最大希釈濃度で表される.一方,EIA法は,精製自己抗原をプラスチックプレートに固相化して,被験血清中の免疫グロブリンがこれに結合するかどうかを機器で計測する方法で,結果は数値(単位/mL)で表される.留意すべきは,DID法は各疾患診断への有用性が検証された標準法であり,後から現れたELISA法には偽陽性があることである.また,ELISA法で報告される数値は,自己抗体の濃度と直線的比例関係にない.初回検査では,DID法を優先すべきであろう.
 これらの疾患標識自己抗体のうち,抗SS-A抗体や抗RNP抗体は,SLEでも陽性になることが多い.混合性結合組織病では,抗RNP抗体が単独で高力価陽性であることに意義があるとされるものの,欧米ではこの診断名自体が用いられておらず,不明確な点が多い.抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体は,ペプチド内のアルギニン残基とシトルリン化した上で,N末端をC末端とつなげて環状にした人工ペプチドによって検出される抗体で,自己抗体と考えられるが,いまだに,対応自己抗原は確認されていない.しかし,RA診断において,RFと異なり特異度が高いため,広く臨床で使われている.
(6)ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)
 HLAはヒトMHCであり,抗原提示細胞は,抗原をクラスⅠ MHC(HLA-A,B,C)とともにCD8T細胞に,クラスⅡ MHC(HLA-DR,DQ,DP)とともにCD4T細胞に提示する.個人によってHLAタイプが異なることは,免疫学的個人差の基盤となり,そのため,特定HLAタイプが特定の疾患の感受性を増すことが知られている.リウマチ性疾患の臨床上で有用なのは,強直性脊椎炎などの血清陰性脊椎関節炎にHLA-B27が,Behçet病にHLA-B51保有者が多いことである.[上阪 等]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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