リウマチ性疾患と生物学的製剤

内科学 第10版 の解説

リウマチ性疾患と生物学的製剤(リウマチ性疾患総論)

(1)生物学的製剤が必要となった背景
 膠原病・リウマチ性疾患は,慢性に経過するとともに患者のQOLを著しく損なうため予後不良な疾患であり,ステロイドを含めた対症的治療の限界が浮き彫りにされていた.しかし,病態の中心的な役割を担う分子探索が積極的に進められ,それを標的とする治療薬が開発されるようになった.以下,生物学的製剤の概要について解説する.
(2)生物学的製剤とは
 生物学的製剤とは,表10-1-13に示すように,生物から産生される抗体などの蛋白質を治療薬として用いるもので,標的とする分子と強く反応するようにデザインされたものである.経口無機化合物が,代謝系の肝臓腎臓に対して副作用を生じやすいのに対して,生物学的製剤そのものによる臓器障害は少ないとされる.また,標的分子のみの活性を抑えることができることも利点である.バイオテクノロジーの技術を駆使して作り出されるため,バイオ医薬品ともよばれている.その構造は,抗体製剤と,受容体関連製剤の2つに大別される(図10-1-8).抗体製剤は,標的とする分子をマウスに免疫して作られたモノクローナル抗体を基に作られてきた.マウス成分を少しでも減らそうと工夫され,抗原結合部位のみを残してほかをヒト由来にしたマウス-ヒトの“あいの子(キメラ)”,キメラ型抗体,抗原結合部位の中でも結合にかかわる超可変部位のみを残してほかをヒト由来にしたヒト化型抗体がある.キメラ抗体は,約25%マウス蛋白を含むのに対し,ヒト化型は約10%とされる.さらに最近では,ヒト抗体遺伝子から得られた完全ヒト抗体も開発され,使用されている.また,半減期を延ばすためにポリエチレングリコールPEG)を付加し,抗体フラグメントと結合させたPEG化製剤も欧米では承認され使用されている.一方,標的とする分子の受容体や表面分子と免疫グロブリンFc部位を結合させたIgFc融合蛋白製剤も開発され,臨床応用されている.現在,日本においては,RAをはじめとして,小児特発性関節炎,強直性脊椎炎,乾癬性関節炎など種々のリウマチ性疾患,炎症性疾患に適応がある生物学的製薬は6種類に上り,セルトリズマブ・ペゴールのRAに対する承認も期待されている(表10-1-14).
(3)生物学的製剤の作用機序
 リウマチ性疾患の病態解明が進み,そこで中心的役割を担う分子が明らかとなり,それが生物学的製剤の標的となった.炎症性サイトカインはその代表で,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α:TNF-α),インターロイキン1(Interleukin 1:IL-1),インターロイキン6(Interleukin 6:IL-6)に対する製剤が開発された.それぞれ抗体,あるいは受容体Ig-融合蛋白によって標的である炎症性サイトカインの活性を阻害するものである.加えて膜結合型サイトカインとして存在するTNF-αなどでは,補体依存性細胞障害や抗体依存性細胞障害機序,あるいはアポトーシス誘導などによって直接的にサイトカイン産生を抑制する作用も報告されている.一方,細胞表面上の分子を標的とする製剤としてB細胞に発現されるCD20を標的としてこれに結合してB細胞を除去する製剤,抗原提示細胞上のCD80/CD86に結合し,T細胞上のCD28からの副刺激経路を阻害するものがある.
(4)生物学的製剤の有効性と安全性
 有効性は,標的となる分子が対象疾患でどの程度重要な役割を,どのような病態で果たしているかが,最も重要である.次に,その標的分子の活性をどの程度中和することができるのか,その中和活性はどれくらい持続するのか,病変局所への移行度,抗製剤抗体などによる効果減弱,などによって規定される.一方,安全性は,①標的分子の生理学的役割を阻害することに関連するもの,②抗製剤抗体を含めた蛋白質製剤に対する生体反応に関連するもの,③標的を抑えることによって二次的に惹起される事象,などに分けて考えることができる.TNFやIL-6などの炎症性サイトカインは本来生体防御にかかわる分子であり,それを阻害する生物学的製剤では,感染症が問題となるのは,この1番目の具体例である.
(5)今後の展望
 製剤の半減期・安定性,高い薬価,効果が約40~60%である点,まれではあるが重篤な副作用,などがあげられる.有効例の予測,予後不良例の予測が可能となれば,より効率のよい投与が可能となる.また有効例では,生物学的製剤の減量・中止が可能かという課題もある.もう1つの課題は,生涯続けなければならないのか? これを予測し,個々の症例に適した生物学的製剤の使用法が検討されている.[竹内 勤]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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