ラージャタランギニー(英語表記)Rājataraṅgiṇī

改訂新版 世界大百科事典 「ラージャタランギニー」の意味・わかりやすい解説

ラージャタランギニー
Rājataraṅgiṇī

インドカルハナが12世紀半ばに著したカシミール王統史。書名は〈諸王の流れ〉の意。サンスクリットのすぐれた韻文で書かれた8章7826詩句から成り,神話時代から12世紀までの歴史が記されている。カルハナは,文献碑文遺物伝承など入手しうるあらゆる資料を利用して本書を著した。上代の記事は史書としての正確さを欠くが,時代を下るにしたがって記述は正確かつ詳細となる。カシミール古代政治,経済,社会,宗教,文化を知るための最高の資料である。史書をほとんど欠く古代のインドにあって,本書のもつ価値は大きい。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラージャタランギニー」の意味・わかりやすい解説

ラージャタランギニー
らーじゃたらんぎにー
Rājataranginī

1149年ごろカルハナKalhanaがインドのカシミールの歴史について太古から同時代まで編年体で叙述した書。8章、7826頌(しょう)からなる。訳は『諸王の流れ』。著者はカシミールのハルシャ王の宮廷に仕えた名門バラモンであって、サンスクリット文学作品に精通していたうえ、伝説、碑文や建造物を調べて、この書を著した。これは美文調の韻文で歴代の諸王の事績をたたえたものであり、古い時代を扱った前半は資料的価値が乏しいが、7世紀以後のカルコータ朝、そのあとのローハラ朝12代、約150年を記した部分は、諸王の政策、支配体制、宗教や生活、慣習などについて貴重な資料となっている。

[山崎利男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラージャタランギニー」の意味・わかりやすい解説

ラージャタランギニー
Rājataraṅgiṇī

インド,サンスクリット語の歴史的叙事詩。「王統の流れ」と訳される。 12世紀頃の歴史家カルハナ作。インド,カシミールの古代から 12世紀なかばまでの王統を年代的にうたっている。8章から成り,第1~3章は古来の伝承によるもので史的価値は少いが,第4章以下は碑文,銅板,家伝などに基づくもので信頼性が高い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ラージャタランギニー」の解説

『ラージャタランギニー』
Rājataraṅgiṇī

12世紀中頃のカシュミールのカルハナ作の歴史書。神話から始めて1149年までの「諸王の流れ」を記す。特に9世紀以降のカシュミールの歴史については貴重な資料であり,歴史叙述のないインド古代においては異色な書である。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のラージャタランギニーの言及

【カルハナ】より

…生没年不詳。古代から12世紀に至るカシミールの王統史《ラージャタランギニー》の著者。この書物はサンスクリットの美文体で書かれた叙事詩で,古代インドの数少ない史書の一つとして名高い。…

【歴史】より

…仏教徒やジャイナ教徒の間には,それぞれの宗教の歴史や,始祖に始まる長老の系譜が伝えられている。スリランカに伝わる《ディーパバンサ(島史)》と《マハーバンサ(大史)》は,釈迦の時代から4世紀に至るこの島の仏教史と政治史を編年史的に記したものであり,カルハナが著した《ラージャタランギニー》は,古伝承,古写本,碑文などの諸資料を駆使して書かれたカシミールの王統史である。仏教徒の間に伝わるアショーカ王伝説や,7世紀の宮廷詩人バーナBāṇaの《ハルシャチャリタ(ハルシャ王一代記)》のような,偉人伝も書かれている。…

※「ラージャタランギニー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android