改訂新版 世界大百科事典 「ラン(藍)藻植物」の意味・わかりやすい解説
ラン(藍)藻植物 (らんそうしょくぶつ)
blue-green algae
Cyanophyta
下等生物の一門。核,ミトコンドリア,葉緑体などの細胞内小器官をもたない単細胞の生物で,バクテリアとともに原核生物として,他の高等な真核生物と区別される。1綱3~5目23科160属約1500の種をもつ。ラン藻類は葉緑体内にクロロフィルaのほかフィコシアニンなどの色素タンパク質を含み,光合成によりラン藻デンプンを生成,貯蔵する。このことから,分類上光合成植物の一門として扱い,ラン色植物と呼ぶこともある。しかし,核をもたないことを強調する学者は細菌として扱い,ラン色細菌Cyanobacteriaの名を与える。ラン藻植物は体制をおもな基準として3~5目に分類されるが,各目のおもな特徴と所属するおもな属は次のようである。
(1)球子(きゆうし)目(クロオコックス目Chroococcales) 体は単細胞性または群体性。生殖は無性的な二分裂による。水の華をつくるアオコ,コエロスファエリウム属Coelosphaerium,食用となるスイゼンジノリ属,70~80℃の高温の温泉水の流出口付近に好んで生育するシネコキスティス属Synechocystisやシネココックス属Synechococcusなどが所属する。
(2)カマエシフォン目Chamaesiphonales 単列または多列に細胞が並んでできた組織状の体で,基物に生育するので上下に極性の分化がある。生殖は不動性の胞子形成による。カマエシフォン属Chamaesiphonやプレウロカプサ属Pleurocapsaなどがある。
(3)ユレモ目Oscillatoriales 体は多細胞糸状で,偽分枝または真分枝をもつものや,上下に極性の分化をもつものもある。また多数の糸状体が寒天状の粘質物に包まれて,外形が塊状となるものもある。生殖は糸状体がちぎれて増えるほかに,厚膜胞子が連結して連鎖体と呼ぶ生殖器官をつくるものもある。約19億年前の先カンブリア時代の地層から化石として産出し,現生においても多数の種をもつユレモ属,食用となるカワタケやハッサイ(髪菜)を含むネンジュモ属,大発生して海水を紅色に変色させ,紅海の名をつけさせるに至ったトリコデスミウム属などはこの目に所属する。なお窒素固定をするラン藻は,知られるかぎりでは,いずれもこの目に所属するが,異型細胞と呼ぶ特殊な細胞をもっており,この特徴からそのような仲間に対してネンジュモ目Nostocalesを設立する学者もある。さらに偽分枝をもつ仲間をスキトネマ目Scytonematales,真分枝をもつ仲間をスチゴネマ目Stigonematalesとして分類する学者もある。
化石としては南アフリカのオンフェルワクト層群(約34億年前)のチャートから発見された球状と繊維状の構造物がラン藻とみなされ,世界最古の化石であるとされたが,異論もある。しかし,31億年前のオンフェルワクト層群最上部層や27億年前のブラワヤン石灰岩中のラン藻化石については異論がない。異質細胞やアキネートの化石はカナダのガンフリント層(19億年前)から知られている。先カンブリア時代に遊離酸素をもたらして,酸化的な環境をつくった主役がこのラン藻植物であると考えられている。
執筆者:秋山 雅彦+千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報