ラティフンディウム(読み)らてぃふんでぃうむ(英語表記)latifundium ラテン語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラティフンディウム」の意味・わかりやすい解説

ラティフンディウム
らてぃふんでぃうむ
latifundium ラテン語

古代ローマの大土地所有。共和政期のローマは、征服した土地の多くを公有地とし、これを耕作できる者に低い賃貸料で貸し与えた。これらの土地を富裕な人々が手に入れ、ローマ市民相互間の土地所有の格差が拡大し、さまざまな社会問題を引き起こした。紀元前367年のリキニウス‐セクスティウス法は、この公有地の占有を約125ヘクタールまでと制限したが、この規定もしだいに無視されるようになった。とくにローマの征服がイタリア外の地中海世界全体にまで及ぶと、将軍や総督として、あるいは商人や徴税請負人として、新たな支配地で莫大(ばくだい)な富を手に入れた富裕者たちが、これらの土地で広大な公有地を占有した。一方イタリアの自営農民の多くは、兵士として長期間出征したことによって農地経営を続ける基盤を失い、土地を手放して都市に流入した。富裕者たちはこれらの土地をも手に収め、さらには暴力的な手段をも用いて広大な所領を形成し、征服戦争で手に入れた捕虜奴隷を使って大規模な経営を行った。前2世紀後半のグラックス兄弟の改革は、このような大土地所有の拡大を抑え中小の農民を再建しようとするものであったが、彼らが倒されて改革が失敗に帰したのちは、土地集中に対する歯止めがなくなり、前111年の農地法によって、占有されていた土地は、一定の制限付きとはいえ、私有地と認められるに至った。

 帝政期に入ると、土地集中の方法は、少なくともイタリアでは、売買・贈与・相続といった偶然的なものが主流を占めるようになったが、大土地所有者たちは機会あるごとに近隣の土地を手に入れ、集中的な大所領を形成していった。しかしその経営方法は、全体を奴隷集団によって耕すのではなく、分割して小作人(コロヌス)にゆだねる方向に進んだ。帝政後期になると、これらの大所領は都市や市場に依存しない自給自足的なものになり、政治的にみても、所領主が内部の働き手たちに対して権力を行使する、独立度の強いものになっていった。

[坂口 明]

『村川堅太郎著『羅馬大土地所有制』(1949・日本評論社)』

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百科事典マイペディア 「ラティフンディウム」の意味・わかりやすい解説

ラティフンディウム

古代ローマの大土地所有制。ローマは占領地を国有地とし,有力者に占有させていたが,次第に私有地化して,大土地所有制発展の基礎となった。土地問題はローマ社会において大きな位置を占め,改革が試みられたが,失敗した。前2世紀ころから有力者の土地兼併が進み,征服戦争の結果,奴隷制大規模経営によってラティフンディウムが発達した。経営は奴隷による直営地と自由小作人(コロヌス)による小作地に分かれていた。紀元前後から後者の比重が高まり,さらに3世紀ころからコロナトゥスへと移行した。
→関連項目古代的生産様式

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精選版 日本国語大辞典 「ラティフンディウム」の意味・読み・例文・類語

ラティフンディウム

〘名〙 (latifundium 「広大な土地」の意) 古代ローマの大土地所有制。ローマの地中海世界征服にともない、紀元前二世紀頃からローマおよびその属州に奴隷制大規模経営に基づいて発展したが、紀元前後から分割小作制へと移行していった。

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デジタル大辞泉 「ラティフンディウム」の意味・読み・例文・類語

ラティフンディウム(latifundium)

古代ローマ時代の大土地所有制。第二回ポエニ戦争以降急速に発達してローマ全土に波及、有力者への土地集中と中小自営農民の没落を招いたが、奴隷制経営の困難などにより、3世紀ごろからはコロヌス制に移行。

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世界大百科事典 第2版 「ラティフンディウム」の意味・わかりやすい解説

ラティフンディウム【latifundium】

古代ローマの大土地所有。ローマ共和政初期には,市民間の土地所有における格差は,それほど大きなものではなかった。しかし,征服活動によって広大な公有地(アゲル・プブリクス)が生じると,貴族や上層平民はこれを占有することによって,実質的に広大な土地を集積することになった。一方,下層の平民の多くは,兵士として長期にわたって外地での戦争にかり出されたので,農地経営の基盤を失って土地を手放した。上層市民は,これらの土地をも集積し,さらには力の弱い隣人をその土地から追い出すことによって,自分の所領を拡大した。

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世界大百科事典内のラティフンディウムの言及

【シュラフタ】より

…〈シュラフタ民主制demokracja szlachecka〉の始まりである。 法的にシュラフタは全員が平等ということになっていたが,一方で〈ラティフンディウム〉と呼ばれた広大な領地(白ロシア,ウクライナに多い)をもつマグナート(大貴族)と呼ばれるシュラフタもいれば,他方で自ら農作業に従事し農民となんら変わるところのなかったシュラフタや,まったく農地をもたないシュラフタ(小シュラフタ。シュラフタが総人口の8~10%も占めるほど多かった原因は,この小シュラフタの多さにある)など,経済的にその内実はさまざまであった。…

【ローマ】より

…前111年の土地法では,占有地の私有地化が大幅に認められた。ここに至ってローマの土地制度は根本的に変化し,大土地所有ラティフンディウムの無制限な拡大をみることになるのである。しかし,小農民は完全に姿を消したわけではなく,また数百ユゲラの広さをもつ中規模の所領が,農業構造全体のなかで重要な役割を演じていた。…

※「ラティフンディウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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