ラクディエン(英語表記)lac dien

改訂新版 世界大百科事典 「ラクディエン」の意味・わかりやすい解説

ラクディエン (雒田
)
lac dien

貉田とも表記される。古代ベトナムのソンコイ川(紅河)デルタにあった,潮汐作用によって灌漑される米田。北魏の酈道元(れきどうげん)の《水経注》が引用する《交州記》によれば,漢に征服される以前の北部ベトナムには,田面水位が潮の満干により上下する水田があり,その田を雒田,耕作民を雒民といい,また雒将,雒侯,雒王(別に雄将,雄侯,雄王)という支配者層があったという。この記述により,現在のソンコイ川デルタ南部の潮汐灌漑田,あるいは佐賀平野の〈あお(感潮河川の逆流淡水)〉取水などのような,水門を使った高度の灌漑技術が,前2世紀のソンコイ川デルタに存在し,この水利を統括する支配者層があったとされた。しかし最近の研究では,高度の灌漑技術ではなく,今でもスラウェシ島,スマトラ島,ミャンマー,南部ベトナムの沿岸地帯に見られる河岸砂州上の水田で,ただ潮汐の押し上げる淡水を用水に利用する田(インドネシア語でパサング・スルットと呼ばれる)に相当すると考えられている。ちなみに《古事記》《日本書紀》が伝える海幸・山幸伝承の水田も雒田に関係するといわれる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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