ユスフザイ(読み)ゆすふざい(英語表記)Malala Yousafzai

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユスフザイ」の意味・わかりやすい解説

ユスフザイ
ゆすふざい
Malala Yousafzai
(1997― )

パキスタン人権運動家。名のマララで知られる。イスラム過激派に銃撃された経験をもちながらも、暴力テロにひるまず、女性や子供の人権のたいせつさを訴える象徴的存在である。

 1997年7月、パキスタン北西部のスワート地区生まれ。同地区は女子教育を否定するイスラム過激派「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の支配下にあったが、教育者である父親が経営する私立女子校に通い、11歳になった2009年ごろからTTPの女子教育抑圧や残虐行為をブログを通じて仮名で世界に発信し続けた。その後、実名を明らかにし、内外の報道機関に取り上げられたため、TTPの襲撃標的となり、15歳だった2012年10月、下校途中のスクールバスの中で銃撃され、意識不明の重態に陥った。しかしイギリスの病院での治療で奇跡的に回復し、女子教育の権利確立を求める運動を再開した。2013年には、寄せられた見舞金や寄付、国際連合の支援金などを基にマララ基金Malala Fundを創設し、世界各地の女子教育支援計画に助成している。同年7月12日の自身の誕生日には国連本部で「1人の子供、1人の教師、1冊の本、1本のペンが世界を変える。世界のすべての子供に教育を」と演説し、国連はこの日を「マララ・デーMalala Day」と名づけた。その後も、ナイジェリアでイスラム過激派ボコ・ハラムに誘拐された女子学生の解放を訴え、パレスチナ自治区ガザの紛争で壊れた学校の再建を訴えるなど世界各地で活動している。

 2014年に「子供や若者への抑圧と闘い、すべての子供の教育を受ける権利のために奮闘している」功績を評価され、ノーベル平和賞を受けた。児童労働の撲滅に取り組むインドの人権活動家、カイラシュ・サティヤルティとの共同受賞。ノーベル賞以外にも、女性の権利向上の取組みを称えるフランスの「シモーヌ・ド・ボーボアール賞」(2013)、優れた人権活動を表彰するヨーロッパ議会の「サハロフ賞」(2013)、子供の権利擁護に貢献した人に贈るスウェーデンの「世界子供賞」(2014)などを受賞している。自伝的著書に『わたしはマララ:教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女』I Am Malala:The Girl Who Stood Up for Education and Was Shot by the Taliban(2013)がある。

[矢野 武 2015年3月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ユスフザイ」の意味・わかりやすい解説

ユスフザイ
Yousafzai, Malala

[生]1997.7.12. ミンゴラ
パキスタンの教育活動家。タリバンなど超保守主義のイスラム過激派の活動が活発な地域,カイバル・パクトゥンクワ州に生まれた。11歳の頃から,女性が教育を受ける権利を主張するようになり,2009年,BBCウルドゥー語のブログに,グル・マカイというペンネームでタリバン支配下での生活について何回か投稿した。2012年10月9日,下校途中のスクールバスの中でタリバン兵に銃撃されて頭部と首に重傷を負い,イギリスのバーミンガムの病院に移送されて手術とリハビリテーションを受けた。この事件は世界中で報じられ,またたく間に女子教育推進運動のシンボル的存在となった。以後バーミンガムの学校で学びながら,著名な政治家や世界的な指導者たちと会談してみずからの信念を訴え続けた。2013年に『わたしはマララ 教育のために立ち上がり,タリバンに撃たれた少女』I Am Malala: The Girl Who Stood Up for Education and Was Shot by the Talibanを,2014年には若い読者向けの『マララ 教育のために立ち上がり,世界を変えた少女』I Am Malala: How One Girl Stood Up for Education and Changed the Worldを,いずれも共著で出版。2014年,子供や若者への抑圧と闘い,すべての子供が教育を受ける権利を得られるよう奮闘していることが評価され,インドの社会活動家カイラシュ・サティヤルティとともにノーベル平和賞を受賞。史上最年少のノーベル賞受賞者となった。

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