ヤブカ(読み)やぶか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ
やぶか / 藪蚊

昆虫双翅(そうし)目糸角亜目カ科ヤブカ属Aedesの昆虫の総称本属はカ科中最大の属で多くの種類を含み、吸血昆虫や伝染病媒介昆虫として問題となるものが多い。小・中形のカで、多くは黒色で白い縞(しま)模様を装う。口吻(こうふん)は先端まで同じ太さで、雌の小顎肢(しょうがくし)は口吻の長さの4分の1より短い。気門剛毛を欠く。気門後剛毛や胸側板上の毛はよく発達している。後脚腿節(たいせつ)に7~10本のけづめ状長剛毛をもつ。卵は黒色で1個ずつばらばらに産下される。幼虫は太く短い呼吸管をもち、その長さは幅の4倍以下、普通は2倍以下。呼吸管棘(きょく)をもち、呼吸管毛は1対で呼吸管の中央より末端にかけて生ずる。

 成虫の雄外部生殖器の構造が分類に重要であり、これにより27亜属に細分されているが、このうち日本にはカニアナヤブカ亜属Geoskuseaセスジヤブカ亜属Ochlerotatusトウゴウヤブカ亜属Finlaya、エゾヤブカ亜属Aedes、フトオヤブカ亜属Verrallinaシマカ亜属Stegomyia、キンイロヤブカ亜属Aedimorphusの7亜属が産する。セスジヤブカ亜属は黄褐色から黄白色のカで、150種くらいが北半球の温帯寒帯に分布する。幼虫は雪解け水のたまりに発生する。北海道や尾瀬(おぜ)、白山(はくさん)、立山(たてやま)など本州の高地にセスジヤブカA. dorsalis、ハクサンヤブカA. hakusanensisなど10種が産する。トウゴウヤブカ亜属は190種くらいが東アジアの温帯から熱帯に分布し、成虫は中胸背に白い斑点(はんてん)紋様をもつ。幼虫は樹洞や岩穴に発生する。河床の岩穴に発生するA. hatoriiや海岸の岩穴に多発するトウゴウヤブカA. togoiなど日本には11種が産する。カニアナヤブカ亜属は暗褐色のカで、オーストラリア、南太平洋にかけて9種が知られ、幼虫はカニ穴に発生し、成虫もこの中に生息する。日本にはカニアナヤブカA. baisasiが西表(いりおもて)島から1種記録されている。シマカ亜属は中胸背に明瞭(めいりょう)な銀白色または黄白色の紋様をもつカで、ネッタイシマカなど医学上重要な熱帯病を媒介するカを含む。

倉橋 弘]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ (藪蚊)

狭義には双翅目カ科ヤブカ属Aedesに属する昆虫の総称だが,一般には草むら,山野で刺しにくるカの総称。ヤブカ属はもっとも多数の種を含む群で,熱帯はもとより北極圏まで分布する。黒白の縞が特徴的なヒトスジシマカA. albopictusはなかでもふつうで,日本の東北地方以南では都市,農山村の別をとわず昼間屋外で好んで人を刺す。黄熱病伝播をするので有名なネッタイシマカA. aegyptiもこの近縁種で,ともに熱帯地にはとくに多く,デング熱を媒介する。

 これらのカの幼虫は,空缶,瓶,竹の切株,屋内の花瓶の水,寺院の手洗鉢など比較的小型で,汚濁の少ない水にみられる。お盆のころの墓参で刺しにくるカは,墓石の花器に発生するヒトスジシマカが主体であろう。一般にヤブカ属は多種多様な発生源をもっているが,種や亜属ごとに固有な水域を選択する傾向がある。水田や沼にはキンイロヤブカA.vexansが発生している。このカは,アメリカでは,洪水のあと急に増えるカとして知られている。海岸の岩の水たまりにはトウゴウヤブカA.togoi,川岸や滝つぼの岩にはヤマトヤブカA.japonicusやハトリヤブカA.hatoriiが多い。海岸の埋立地など塩分の入った湿地,沼にはセスジヤブカA.dorsalisが大発生することがある。したがって海岸近くに住む人や磯釣りをする人を刺すヤブカは,トウゴウヤブカやセスジヤブカが多い。このほか,樹木の幹にできる洞穴,大型草本の葉の付け根(葉腋),カニがすむ穴などにたまる水など,それぞれ土地ごとに特定の種が発生源として選択している。

 ヤブカ属は卵を,卵塊ではなくばらばらに水表面や水ぎわに産みつける。幼虫は呼吸管毛が1対しかないという特徴がある。成虫の色や模様はさまざまで,たとえばヒトスジシマカは胸部背面中央に一筋の白い縦線があり,ネッタイシマカは竪琴状の白線が左右1対ある。広義のヤブカに含まれるものでは,クロヤブカ属のオオクロヤブカArmigeres subalbatusが有名である。大型で激しく人を刺す。きわめて汚濁の激しい水に発生する。幼虫も大型である。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ
Aedes

双翅目カ科ナミカ族ヤブカ属に属する昆虫の総称。が細く湾曲しないこと,翅の裏面基部に毛がないこと,気門剛毛はないが気門後剛毛があることなどで同族の他属から区別される。なお本属のなかでもシマカ亜属に属する種は,たとえばネッタイシマカなどのようにヤブカとは呼ばない。一方,オオクロヤブカ Armigeres subalbatusのように別属でもヤブカの名で呼ばれるものもある。日本にはヒトスジシマカ (仙台以南) ,トウゴウヤブカ A. togoi (日本全土) など 41種ほどが知られている。 (→ )

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百科事典マイペディア 「ヤブカ」の意味・わかりやすい解説

ヤブカ

双翅(そうし)目カ科,オオクロヤブカ属とシマカ属の一群の昆虫の総称。日本に40余種あり,ヒトスジシマカ(シマカ),トウゴウヤブカ,オオクロヤブカなどで代表される。成虫は日陰の草むらに多く,雌は主として昼間かたそがれ時に吸血する。幼虫は普通,たまり水に発生するが,オオクロヤブカは肥だめ,キンイロヤブカは水田に発生する。卵塊は作らず,卵で越冬する種類が多い。
→関連項目カ(蚊)

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