モーブ(英語表記)Mauve

精選版 日本国語大辞典 「モーブ」の意味・読み・例文・類語

モーブ

〘名〙 (mauve)
アニリンから得られるふじ色の染料。人工的に合成された合成染料の最初のもの。一八五八年この商標名で売り出された。モーベイン
② 薄く青みがかった紫色藤色。葵(あおい)色。モーベイン色。
バナナ(1959)〈獅子文六前夜祭「モーブ色の木炭紙二つ折りを、皆に見せた」

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デジタル大辞泉 「モーブ」の意味・読み・例文・類語

モーブ(mauve)

赤紫色の塩基性染料。1856年に英国のパーキンアニリン酸化して作り、初めての合成染料として知られる。モーベイン。

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改訂新版 世界大百科事典 「モーブ」の意味・わかりやすい解説

モーブ
Mauve



モーベインMauveineとも呼ばれる。1856年イギリスのW.H.パーキンが不純なアニリンを重クロム酸で酸化して合成した人類初の合成染料として意義が高い。モーブは赤紫色染料でサフラニン系の塩基性アジン染料と推定される。パーキンは57年にこの染料を工業的に製造し〈チリアンパープル〉と名づけて売り出したが,イギリスではあまり評判がよくなく,フランスで〈モーブ〉(野生草花の名,アオイの仲間)という名で売り出し有名となった。モーブそのものの実用価値は低かったが,この発明が世界中の染料工業出発点となり,さらに今日の合成化学の発展の源となった意義は大きい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モーブ」の意味・わかりやすい解説

モーブ
もーぶ
mauve
mauvein

モーベインあるいはアニリンパープルともいう。1856年、キニン合成を目的とした不純なアニリンの酸化の研究途上、イギリスのW・H・パーキンによって発見された最初の合成染料。1857年にモーブとして市販された。名称ゼニアオイの花色に由来し、そのフランス語のmauveからモーブ(またはモーベイン)と名づけられた。美しい紫色に絹を染色するが、溶解性の低いことと、耐光堅牢(けんろう)度の低いことから、短期間で市場から姿を消した。単一な成分でなく、N-フェニルフェノサフラニンを主成分とするアジン系塩基性染料である。

[飛田満彦]

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百科事典マイペディア 「モーブ」の意味・わかりやすい解説

モーブ

モーベインとも。1856年英国のW.H.パーキンが不純なアニリンを酸化して得た,赤紫色のサフラニン系の塩基性アジン染料。最初の合成染料として有名。実用にされたのは最初の10年くらいだが,今日の染料工業の出発点としての意義が深い。(図)
→関連項目石炭化学染料フクシン

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色名がわかる辞典 「モーブ」の解説

モーブ【mauve】

色名の一つ。モーヴとも表記する。JISの色彩規格では「つよいみの」としている。モーブはフランス語でアオイ(葵)のこと。一般に、アオイのようなやや青みがかった紫をさす。ただし、モーブは世界初の合成染料の名前でもある。アニリンを原料とし、イギリスの学生ウィリアム・パーキン(1838~1907年)が1856年に発明した。同じアオイを意味する英語のマロー(mallow)も色名としてあったのだが、このやや青みがかった紫の合成染料の色名が広まって定着したとされる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モーブ」の意味・わかりやすい解説

モーブ
Mauve, Anton

[生]1838.9.18. ザーンダム
[没]1888.2.5. アルンヘム
オランダの画家。 1870年頃よりハーグで活躍,85年以降ラレンに移住した。妻は V.ゴッホのいとこ。バルビゾン派の影響を受け,農漁村に取材し,コロー風の灰色と青の調和を基調にした水彩画を得意とした。

モーブ
mauve

絵具の色名の一つ。アニリン染料のグループに属する合成有機染料で,1856年イギリスで W.パーキン卿によってつくられた。純粋なモーブ染料は赤みがかった紫色の結晶で,使用後は鈍い紫になる。退色しやすいが,しかし水彩画用の絵具として現在でもわずかながら用いられている。

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世界大百科事典(旧版)内のモーブの言及

【合成染料】より

…しかし工業的な意味では,繊維を染色する染料,着色を目的とする有機顔料においては,天然染料は完全に合成染料に置きかえられてしまった。合成染料は1856年イギリスのW.H.パーキンがアニリンから赤紫色染料モーブを合成したのが端緒になり,80年にはドイツのJ.F.W.A.vonバイヤーにより天然の藍の主成分であるインジゴが合成され,4年後にはベッティガーP.Böttigerにより赤色の直接アゾ染料であるコンゴーレッドが,さらに1901年にはドイツのボーンR.Bohnにより青色の高級建染染料であるインダントロン(インダンスレン)の合成が行われた。これらはいずれも,合成染料の歴史上画期的な出来事であった。…

【コールタール】より

…昔は木材の防腐剤などの用途しかなかったが,コールタールの成分に関する化学的研究が進むにつれ,その工業的な利用の道がしだいに開かれ,19世紀から20世紀前半にかけては,コールタールを中心とする石炭化学は有機合成化学工業の花形として不動の地位を占めていた。 コールタールの化学成分の研究を回顧すれば,1819年にA.ガーデンがナフタレンを発見,また45年にA.W.vonホフマンがベンゼンの分離に成功したのをはじめとして,56年にはW.H.パーキンがコールタールから初めてふじ色の染料モーブ(アニリン紫)の合成に成功した。これらに続いて19世紀後半からは合成染料,医薬品工業が発展し,コールタールはその基礎原料として不可欠の重要な資源となったのである。…

【染料】より

…これが空気酸化されて生成するインジゴをさらに発酵により還元させインジゴホワイト(白藍)とし,染色後,空気酸化して青い染色物を得るが,このような複雑な化学反応を含む技術を古代より人類がもっていたことは驚くべきことである。合成染料の誕生は1856年にイギリスの化学者W.H.パーキンがアニリンの酸化により赤紫色色素を発見し,モーブmauveと名づけて57年より工業化したことに始まる。
[染料の名称と分類]
 染料は商品名(または慣用名)およびカラーインデックス名Colour Index Name(略号C.I.名)で呼ばれる。…

【トリフェニルメタン染料】より

…また塩基性染料であるため,一般には分子内の1個のアミノ基はカチオン(陽電荷)となっているのが普通であるが,スルホン酸基をもつアニオン型の酸性染料もある。歴史的には1856年W.H.パーキンが最初に発見したモーブなる染料もこの近縁とみられるので非常に古い。色が鮮明で濃色の反面,染色堅牢度が低いのが特徴であったが,塩基性染料のあるものはアクリル繊維を美麗に染め,また耐光性も高いことが見いだされた。…

【パーキン】より

…幼少より化学実験に興味をもち,15歳で王立化学大学のA.W.ホフマンに師事した。マラリアの特効薬キニーネの合成を師より示唆され,1856年アリルトルイジンを重クロム酸塩で酸化したとき,偶然絹を薄紫色に染める色素(モーブmauve)を発見した。この思いがけない発見が,合成染料の研究開発と化学工業の幕あけとなった。…

※「モーブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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