メンデルの法則(読み)メンデルノホウソク(英語表記)Mendel's laws

デジタル大辞泉 「メンデルの法則」の意味・読み・例文・類語

メンデル‐の‐ほうそく〔‐ハフソク〕【メンデルの法則】

メンデルエンドウ交配実験から明らかにした遺伝の法則。対になる形質のものを交配すると、雑種第一代では顕性形質が顕在して潜性形質が潜在するという顕性の法則、雑種第二代では顕性・潜性の形質をもつものの割合が3対1に分離して現れるという分離の法則、異なる形質が二対以上あってもそれぞれ独立に遺伝するという独立の法則の三つからなる。メンデリズム。メンデルの遺伝法則

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精選版 日本国語大辞典 「メンデルの法則」の意味・読み・例文・類語

メンデル の 法則(ほうそく)

遺伝の法則の一つ。メンデルがエンドウの交雑を主とした植物雑種に関する実験から明らかにしたもので、一八六五年に論文「植物雑種の研究」として発表。一九〇〇年コレンス、チェルマック、ド=フリースの三人によって再発見され、コレンスが命名。一般に分離・独立・優劣の三基本法則からなり、メンデルの遺伝法則とも呼ばれる。

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六訂版 家庭医学大全科 「メンデルの法則」の解説

メンデルの法則
メンデルのほうそく
Mendel's laws
(遺伝的要因による疾患)

 メンデル(George Lohann Mendel)は19世紀のオーストリア修道僧で、修道院の庭でエンドウを栽培し、遺伝の法則を見いだしたとされています。エンドウの種子、さや、茎の形や色に7種類の違いがあることに注目し、かけ合わせ実験を行い、その表現型を丹念に記録しました。

 たとえば、種子には表面がつるっとして丸いものと、しわの寄ったものとがありますが、この2種類のエンドウをかけ合わせると、最初の世代はすべて丸いつるっとした種類のエンドウができます。これらをもう一度かけ合わせると、丸い種子のエンドウとしわしわの種子をつけるエンドウが、3対1の割合でできることがわかりました。

 このようにしてメンデルは、①種子の形、②子葉の色、③種皮の色、④さやの形、⑤さやの色、⑥花の位置、⑦丈の高さの7種類の表現型に注目してかけ合わせ実験を行い、遺伝に関する3つの重要な法則を見つけました。

①優劣の法則

 表現型が異なる両親の場合、子どもにみられる表現型が「優性(ゆうせい)」で、マスクされてしまう(観察できない)表現型が「劣性(れっせい)」と呼ばれます。劣性形質は、ホモ接合の場合にみることができます。

 対立遺伝子の組み合わせである遺伝子型から説明します。

 優性に対応する対立遺伝子をAで表し、劣性に対応する対立遺伝子をaで表すと、ヘテロ接合体遺伝子型Aaになります。この時、Aの表現型は表に現れてきますが、aに対応する表現型は観察することはできません。

 先に、ヘテロ接合の時にどちらの対立遺伝子の影響が形質として現れてくるかで優性、劣性の区別があることを述べましたが、すべての対立遺伝子間に優劣の差があるわけではありません。両方の対立遺伝子の表現型が対等に現れる場合があります。これを「共優性(きょうゆうせい)の形質」といい、その典型例をABO血液型にみることができます。

 血液型Aの人の遺伝子型はAAかAOで、B型の人はBBかBOAB型の人はAB、O型はOOで表すことができます。AとBの対立遺伝子はOの対立遺伝子に対して優性ですが、お互い同等です。

 A型とB型の夫婦を想定すると、それぞれの遺伝子型がAOとBOである時、子どもの遺伝子型はAB、AO、BO、OOの4種類が考えられます。実際の血液型はAB型、A型、B型、O型と判定されます(図7)。

②分離の法則

 ヘテロ接合同士の子ども、およびそれ以降の子孫の分離を考えてみます。子ども世代の遺伝子型をみるとAAが1、Aaが2、aaが1の割合になりますが、表現型はAAとAaのAタイプ3に対し、aタイプは1の割合に分離することがわかりました。世代をへても、その比率は変わらないこともわかりました。

③独立の法則

 2つ以上の形質を決める対立遺伝子は、それぞれの遺伝子ごとに独立して次の世代に伝達されます。しかし、この現象は異なる染色体にある遺伝子において成り立つ原則です。同じ染色体に存在する遺伝子はいっしょに次世代に伝わる可能性が高く、互いが近ければ近いほどその確率は高くなります。

 このような現象を「連鎖(れんさ)している」といいます。

田村 和朗


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メンデルの法則」の意味・わかりやすい解説

メンデルの法則
めんでるのほうそく
Mendel's Law

オーストリアの修道院僧で生物学・気象学者でもあったG・J・メンデルにより発見された、有性生殖を行う生物における遺伝の基本法則。1865年に「植物の雑種に関する実験」と題して発表されたが、その真価が認められるようになったのは35年後のことである。『種の起原』で知られているC・R・ダーウィンもこの論文には気づかず、1868年に著した『飼育動植物の変異』ではメンデリズムの要点をつかみながら、この概念を徹底するに至らなかった。メンデルの法則の再発見は、ド・フリース、コレンス、チェルマクの3人によって1900年に独立になされた。これが近代遺伝学幕開きの契機となった。

 メンデルの法則は、一般には顕性の法則、分離の法則、独立の法則の三つからなる。顕性の法則は、対立形質をもつホモ個体間の交配から雑種第一代(F1)をつくると、F1ではしばしば対立形質の一方だけが現れ、他方は隠れる現象、つまり対立形質間に顕性・潜性の関係があることをいう。独立の法則は、二つ以上の形質に関する遺伝様式について、もしそれらの形質を決定する因子間に染色体上の連鎖がなければ、それらの形質は互いに独立に組み合わされた結果として表現されることをいう。しかし、メンデルの最大の功績は、融合説にかわるものとして粒子説を正しく認識したことで、分離の法則がそれを端的に示している。すなわち、F1のヘテロ個体(異型個体)どうしをかけ合わせると、F2では形質の分離がおこり、たとえ潜性な形質でもF2個体に表現されてくることをいう。遺伝の融合説に従えば、このような分離は不可能である。遺伝形質を決定する因子(遺伝子)は「粒子」状のものとして維持されていなければならない。F1で表現形質としては隠された潜性因子が完全に維持、伝達されていくことをいう。したがって、この法則は、遺伝因子の粒子性を強調するという歴史的意味しかもっていないといえる。

 近代遺伝学の歩みは、メンデルの法則に従わない例を研究してきたという側面ももっている。たとえば、遺伝子の型と表現形質はかならずしも一対一の対応がつかないこと、環境要因による遺伝子発現への影響、多数の遺伝子の染色体上における連鎖、減数分裂の機構を乱す自己的な遺伝子の存在、核外にある遺伝子など、すべてメンデルの法則に従わない原因や因子である。このような例外がある一方、遺伝子は事実「粒子」であり、メンデリズムはどのような遺伝子、形質に対しても正しい概念なのである。遺伝形質に及ぼす環境の影響もメンデリズムの立場から理解されなければならない。

[髙畑尚之]

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百科事典マイペディア 「メンデルの法則」の意味・わかりやすい解説

メンデルの法則【メンデルのほうそく】

メンデルが1865年に発表したエンドウの交雑実験の論文に基づき,後代の学者が遺伝現象の基本的な法則にまとめたもの。メンデルの発表当時,同時代の学者からは評価されず,1900年のド・フリースらによるいわゆるメンデルの法則の再発見まで全く無視された。普通次の3法則があげられる。(1)優劣の法則。雑種第1代では二つの対立形質のいずれか一方が現れ,現れるほうを優性,隠れるほうを劣性という。(2)分離の法則。雑種第1代で,対立遺伝子が異なる(A,a)場合,雑種第2代で,優性の形質(A)が3,劣性の形質(a)が1の比で分離する。またこの比で分離するような形質は1対の対立遺伝子で支配されていると仮定できる。(3)独立の法則。2組以上の形質(対立遺伝子)を同時に注目して交雑した場合,それぞれの形質は相互に独立して分離の法則に従う。このため2組の形質(A,aとB,bなど)の組合せAB:aB:Ab:abは9:3:3:1の分離比で生ずる。しかし後に連鎖の現象がみつかり,相互の形質が無関係に行動しない場合も知られている。メンデルの法則をさらに細かく分ける学者や,分離の法則1つですべてをいい表しているとする人もある。→遺伝遺伝子
→関連項目コレンス細胞質遺伝雑種植物の研究チェルマク

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メンデルの法則」の意味・わかりやすい解説

メンデルの法則
メンデルのほうそく
Mendel's law

G.メンデルが論文『植物雑種に関する研究』 (1865) に述べた内容を,後代の研究者がまとめたもので,遺伝に関する根本法則。メンデルの論文は 1900年に,C.コレンス,E.チェルマック,H.ド・フリースの3人により,それぞれ独立に再発見され,コレンスがメンデルの法則という呼称を与えた。まとめ方により解釈の差があるが,一般には「優性の法則」「分離の法則」「独立の法則」の3法則とする。優性の法則は,単性雑種の F1 (雑種第1代) において,対立形質のうち優性の形質のみが発現することをいう。これには不完全優性や部分優性などの例外がある。分離の法則は F2 (雑種第2代) において,優性対劣性形質が一定の比 (完全優性では3:1,不完全優性では1:2:1) に分離することをさす。独立の法則は,2対以上の形質に同時に注目する両性ないし多性雑種において,形質各対は独立して遺伝するという法則。同一染色体に遺伝子が乗っていることによる連鎖の現象などがあれば,独立の法則はあてはまらない。なお,優性の法則と独立の法則には例外があるから,メンデルの法則は,分離の法則のみであるとする人もいる。

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法則の辞典 「メンデルの法則」の解説

メンデルの法則【Mendel's law】

メンデルの遺伝法則」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のメンデルの法則の言及

【遺伝】より

…核に存在する遺伝子を核内遺伝子または単に遺伝子というのに対し,細胞質中の遺伝子を細胞質遺伝子またはプラズマジーンという。核内遺伝子およびこれに支配される形質は原則として両親性の遺伝を行い,メンデルの法則に従って後代に伝わる。細胞質遺伝子およびこれに支配される形質は原則として母親からだけ後代に伝わり,単親性の細胞質遺伝をする。…

【遺伝学】より

…それまで,遺伝をつかさどる物質は液体のようなものであり,子どもでは両親の遺伝物質が,ちょうど白と黒のペンキを混ぜ合わせたときのように混じり合い,再び分かれることがないとする〈融合遺伝〉の考えが支配的であった。このようなときメンデル(1865)はエンドウをつかい,子葉の色の緑と黄のような対立形質について異なる両親を交配し,その後代をいわば家系別に追跡・調査してメンデルの法則に到達した。メンデルのもっとも重要な貢献は,対立形質を支配しているのは対立的な要素(現在の対立遺伝子)であり,子どもは両親からこの要素を一つずつ受けつぐが,これは決して融合せず,子どもが配偶子をつくるとき,分かれて別々の配偶子に入ることを正しく見抜いた点にある。…

※「メンデルの法則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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