メデイア(英語表記)Mēdeia

精選版 日本国語大辞典 「メデイア」の意味・読み・例文・類語

メデイア

(Mēdeia)⸨メーディア⸩ ギリシア神話の美しい魔女。コルキス王の娘。イアソンを助けて黄金羊皮を手に入れさせた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「メデイア」の意味・わかりやすい解説

メデイア
Mēdeia

ギリシア伝説の女魔法使い。その名は〈狡猾な女〉の意。コルキス(カフカス山脈の南方,黒海に臨む地方)の王アイエテスAiētēsの娘。太陽神ヘリオスの孫娘で,キルケの姪にあたる。イアソンが叔父のイオルコスペリアスPeliasのいいつけで金毛羊皮を捜しにコルキスに来たとき,イアソンに恋したメデイアは彼を助けて羊皮を手に入れさせ,彼に伴われてギリシアに向かった。二人がイオルコスに来てみると,イアソンの父アイソンAisōnはペリアスのために自殺させられていたので,彼女はペリアスの娘たちに羊を釜ゆでにして若返らせて見せ,同じ方法で娘たちに父王を殺させた。二人はコリントスへ逃げ,同地で2児をもうけたが,イアソンが王クレオンKreōnの娘を新妻に迎えたため,彼女は王と王女,さらにはわが子をも殺してアテナイアイゲウスのもとに逃れた。ここでアイゲウスの妃となった彼女は王子テセウスを毒殺しようとして果たさず,王との間にできた一子メドスMēdosを連れてアジアへ逃げ帰った。のちにメドスはメディア(ペルシア)人の名祖となったという。メデイアの話に取材した文学作品には,古代ではエウリピデスセネカの悲劇(《メデイア》),ロドスアポロニオス叙事詩アルゴナウティカ》,近代以降ではコルネイユグリルパルツァー,アヌイの戯曲など,音楽にはケルビーニの歌劇がある。また1969年,パゾリーニ監督,マリア・カラス主演の映画《王女メディア》が製作された。
執筆者:

メデイア
Mēdeia

ギリシア三大悲劇詩人の一人エウリピデスの作品。前431年上演。1419詩行からなり,その筋は以下のとおり。黒海の都コルキスの王女メデイアは亡命の地コリントスにおいてギリシア人の夫イアソンに裏切られ,悲嘆と怒りのあまりイアソンの花嫁グラウケとその父クレオンを猛毒を浸みこませた織布によって焼殺する。またイアソンとの間に生まれた2人の男子をもみずからの手で殺害して夫に対する報復とし,太陽神の使わした飛翔車に身を託してアテナイへ逃亡する。女主人公メデイアの断腸の独白が中核をなし,エウリピデスの〈激情劇〉の代表作とされる。メデイアの子どもたちの伝説は種々コリントスに伝わっていたが,メデイアみずからの殺害行為は,エウリピデス独自の創作と目される。メデイア伝説はヘレニズム時代の叙事詩人アポロニオス,ローマ帝政期の詩人オウィディウス,セネカ,ウァレリウス・フラックスらによっても取り上げられており,古代壁画の画題ともなっている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「メデイア」の意味・わかりやすい解説

メデイア

ギリシア伝説の魔女。コルキス王アイエテスの娘でキルケの姪。コリントス王の娘と結婚しようとしたイアソンに離婚され,王と娘,さらにイアソンと自分との間にできた2人の子も殺し,アテナイ王アイゲウスのもとにのがれ,彼と結婚,テセウスの毒殺を図った。その子メドスはメディア(ペルシア)人の名祖になったという。エウリピデスの同名の悲劇をはじめ,古来,文学・美術に題材を提供している。近年ではパゾリーニ監督,マリア・カラス主演の映画も有名。
→関連項目クレオン

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メデイア」の意味・わかりやすい解説

メデイア
Mēdeia

ギリシア神話の魔女。コルキスの王で,太陽神ヘリオスの息子アイエテスの娘。魔術の守護女神ヘカテ自身がその母親であったとも伝えられる彼女は,伯母とも姉妹ともいわれるキルケ同様,あらゆる魔術に通暁していた。アルゴ船の一行が金毛羊皮を求めにコルキスに来ると,その首領のイアソンに恋した彼女は,魔術を使って彼がアイエテスから課せられる難題を果すのを助け,恐ろしい竜に守護されていたこの宝物を首尾よく入手させてやった。

メデイア
Medeia

エウリピデスによるギリシア悲劇の傑作。前 431年初演。ギリシア神話に登場する魔女メデイアの物語に基づいて書かれた戯曲。アルゴ船の英雄イアソンは,コリントスの王位を手に入れようとして王女との結婚を考え,妻のメデイアを捨てる。メデイアは復讐のために,王女を暗殺するばかりかイアソンとの間に生れた2人の子供も自分の手で殺してしまう。激しい情熱の主人公は文学史上不滅の存在といわれる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のメデイアの言及

【アルゴナウタイ伝説】より

…そこに王の与える竜の歯を播き,生まれ出る武装の勇士たちを討ち果たすことであった。二つとも,イアソンに恋した王女メデイアの魔法の薬と助言とでなし終えたが,王は金羊毛を渡そうとしないので,これを守る百目の竜をやはりメデイアの助力で眠らせ,やっと手に入れることができた。遠征隊はメデイアとその弟とを伴って帰航の途につく。…

【イアソン】より

…成人後,国に戻ってペリアスに王国返還を求めると,東方の蛮地コルキスから金毛羊皮を持参せよと命じられた。そこで彼は大船アルゴを建造,全ギリシアの名だたる英雄たちを率いてコルキスを訪れ,同地の王の娘で魔女のメデイアの助けを借りて羊皮を入手,彼女を伴って帰国した。しかしこの間にアイソンはペリアスに殺されていたので,父の仇を討ってコリントスに逃れた。…

【キルケ】より

…その後,彼女はオデュッセウス一行を1年間歓待したが,彼らが帰国を望んだので,その方途を教えて島を去らせたという。またロドスのアポロニオスの叙事詩《アルゴナウティカ》では,姪のメデイアがアイアイエに立ち寄ったとき,彼女はメデイアが弟のアプシュルトスを殺した罪をきよめてやっている。アイアイエは後代にはイタリアのラティウム地方のキルケイ岬を指すと考えられた。…

【アルゴナウタイ伝説】より

…そこに王の与える竜の歯を播き,生まれ出る武装の勇士たちを討ち果たすことであった。二つとも,イアソンに恋した王女メデイアの魔法の薬と助言とでなし終えたが,王は金羊毛を渡そうとしないので,これを守る百目の竜をやはりメデイアの助力で眠らせ,やっと手に入れることができた。遠征隊はメデイアとその弟とを伴って帰航の途につく。…

【エウリピデス】より

…彼の作品は92編あったと伝えられるが,現存作品はサテュロス劇《キュクロプス》と偽作《レソス》を含めて19編である。そのうち上演年代が確定している作品は,《アルケスティス》(前438),《メデイア》(前431),《ヒッポリュトス》(前428),《トロイアの女》(前415),《ヘレネ》(前412),《オレステス》(前408)である。他の現存作品は《ヘラクレスの子ら》《アンドロマケ》《ヘカベ》《救いを求める女たち》《ヘラクレス》《イオン》《エレクトラ》《タウリケのイフィゲネイア》《フェニキアの女たち》,そして遺作《バッコスの信女》と《アウリスのイフィゲネイア》であるが,これらは皆《メデイア》以後に上演されている。…

※「メデイア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android