メタロセン(英語表記)metallocene

改訂新版 世界大百科事典 「メタロセン」の意味・わかりやすい解説

メタロセン
metallocene

シクロペンタジエニル環二つが平行に並び,その間に遷移金属イオンが入りこんだサンドイッチ形のビス(シクロペンタジエニル)錯体[M(C5H52]の総称。シクロペンタジエニル環は不飽和性を示さず,ベンゼン環に似た芳香性を示し,しかも金属錯体であることから,通称metalloceneと呼ばれる。代表的なものがM=Feのフェロセンで,そのほかにも,ほとんどの遷移金属Ti,V,Cr,Mn,Co,Ni,Mo,Ru,Rh,W,Os,Irなどについて知られている。

 一般に,金属ハロゲン化物に対し,シクロペンタジエニルマグネシウム臭化物C5H5MgBrあるいはシクロペンタジエニルナトリウムを反応させるか,ジエチルアミン存在下でシクロペンタジエンを反応させるなどして得られる。

 それぞれ特有の色をもった結晶で,多く昇華性があり,水蒸気蒸留できる。フェロセンが熱的,化学的に最も安定で,470℃まで加熱しても分解しないが,その他はそれほど安定ではない。アルコール,エーテルベンゼンなどの有機溶媒に溶け,水には不溶である。双極子モーメントはほとんど0。おもなメタロセンの性質を表に示す。すべてサンドイッチ構造で,フェロセンと同様の五方ねじれ柱形を示すものが多いが,[Ru(C5H52],[Os(C5H52]のみは環が重なり合った五角柱の構造である。
サンドイッチ化合物 →フェロセン
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メタロセン」の意味・わかりやすい解説

メタロセン
めたろせん
metalocene

2個のシクロペンタジエニル環が金属原子をサンドイッチ型に挟み込んだ中性のπ(パイ)錯体をいう。シクロペンタジエニル環が金属原子と結合する仕方には基本的にはイオン結合、σ(シグマ)結合、π結合がある。

 最初に鉄の錯体が発見され、安定性や反応性などから、ベンゼンにちなんでフェロセンferroceneと命名された。その後、ジ-π-シクロペンタジエニル金属錯体は遷移金属を通じてかなり普遍的に存在することが知られて、メタロセンと総称されるようになった。個々の化合物については、チタノセンtitanocene、バナドセンvanadocene、ニッケロセンnickeloceneのようによばれる。一般的な合成法は、シクロペンタジエンのアルカリ金属塩(たとえばナトリウムシクロペンタジエニド)と、目的とする金属塩の反応で得られる。

  2C5H5Na+MXn→[(π-C5H5)2M]Xn-2+2NaX
 3価以上の金属塩を用いた場合でも、適当な処理で中性分子が得られる。メタロセンはアルコール、エーテル、ベンゼンなどには可溶で、水には不溶である。一酸化炭素一酸化窒素高圧で通じると、シクロペンタジエン環がとれた金属のカルボニル化合物ニトロシル化合物を与える。ベンゼンなどの芳香族化合物と同様に、求電子反応がおこりやすく、フリーデル‐クラフツ反応はシクロペンタジエニル環に置換がおこるが、酸化を伴う反応条件は、中心金属の酸化をもたらすので、求電子反応の利用はベンゼン化合物に比べて制限される。

[西山幸三郎]


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化学辞典 第2版 「メタロセン」の解説

メタロセン
メタロセン
metallocene

シクロペンタジエニル錯体のうち,サンドイッチ構造で,非電解質のものをいう.最初に,フェロセンが見つけられ,それ以後,鉄以外の金属でも同様の錯体がつくられ,総称してメタロセンと名づけられた.芳香族性をもち,昇華性があり,水蒸気蒸留ができる.双極子モーメントはほとんど0.水に不溶,有機溶媒に可溶.ほかの芳香族性化合物と同じく求電子反応を起こしやすい.酸の存在下で空気酸化すると,メタロシニウムイオン [M(C5H5)2] を生じる.構造は,一般的に五員環が対称心をもつように並んだもの(図(a))であるが,同じ向きのもの(図(b))もある.代表的なメタロセンを表に示す.

 

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メタロセン」の意味・わかりやすい解説

メタロセン

フェロセン」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のメタロセンの言及

【化学結合】より

…この化合物は,O2PtF6がイオン結合であり,O2とXeのイオン化エネルギーがほぼ等しいことから,イオン結合になると考えて合成された。メタロセンと総称される化合物は,遷移金属元素Mのイオンとシクロペンタジエニルの陰イオン2個から成るサンドイッチ型の分子で,M(C5H5)2と表される。中心金属イオンは10個の炭素原子と等価な結合をつくっている。…

※「メタロセン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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