メイエロウィッツ(読み)めいえろうぃっつ(英語表記)Joel Meyerowitz

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メイエロウィッツ」の意味・わかりやすい解説

メイエロウィッツ
めいえろうぃっつ
Joel Meyerowitz
(1938― )

アメリカの写真家。ニューヨークブロンクス生まれ。オハイオ州立大学で絵画とメディカル・ドローイングを学んだ(1956~59)。卒業後ニューヨークに戻り、広告代理店のアート・ディレクターおよびデザイナーとして働く。1962年、たまたま仕事で写真家ロバート・フランクの撮影現場に立会い、衝撃を受け、会社を辞めて写真を撮りはじめる。折りしもかつての会社の経営者もまた引退を決め、メイエロウィッツに譲ってくれた写真集がフランクの『アメリカ人』The Americans(1958)だった。この伝説的写真集は独学で写真を始めた若きメイエロウィッツの教科書となる。以後メイエロウィッツは、ニューヨーク市内の美術系大学クーパー・ユニオンで写真を教える(1971~79)などを別にすれば、どこにも属さない、いわゆるインディペンデントフォトグラファーとして今日に至っている。81年、フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー賞(フレンズ・オブ・フォトグラフィ主催)、86年にはフォトグラフィ・ブック・オブ・ザ・イヤー賞(アメリカ雑誌写真家協会主催)を受賞。

 繊細でリリカル色彩のカラー・プリント作家として成功した現在も、自らをストリート・フォトグラファーと呼んでいるように、メイエロウィッツの初期の関心はスナップショットにあった。35ミリのライカを手に、後に「コンテンポラリー・フォトグラファーズ――社会的風景に向かって」展(1966)の出品作家に選出されるゲーリー・ウィノグランドと、毎日、ニューヨークの街に出た。お気に入りの五番街で道行く人々のしぐさを撮影し、白黒のプリントに仕立てた。当時の作品は、2001年に出版された『ジョエル・メイエロウィッツ55』Joel Meyerowitz/ Phaidon 55sでも見ることができる。ほかにも、キュレーターコリン・ウェスターベックColin Westerbeck(1941― )と共に、国から助成金を得てストリート・フォトグラフィの歴史を研究(1978~80)、94年に『傍観者――ストリート・フォトグラフィの歴史』Bystander; A History of Street Photographyとして出版している。

 MoMA(ニューヨーク近代美術館)の写真部長だったジョン・シャーカフスキーが企画した、「フォトグラファーズ・アイ」展(1963)や「鏡と窓――1960年以降のアメリカ写真」展(1978)にも作品が選出されているが、シャーカフスキーが述べる写真的〈叙述〉descriptionとは自分のキーワードだ、とメィエロウィッツは述べている。〈叙述〉、すなわち細部のもつ意味への〈気づき〉awarenessとその緻密な描写が、瞬時に本質をつかみとるストリート・フォトグラファーとしての出自と共に、メイエロウィッツのその後のカラー作品と、彼の色彩を表面的にまねた凡百の広告写真との決定的な違いであることは間違いない。また、この〈叙述〉へのこだわりこそ、メイエロウィッツの関心を、白黒からカラーによる表現に再び引き戻したともいえる(写真を始めた直後はカラーのスライドを用いていた)。なぜならリアリティには色がついており、そこに意味を読みとれるからだ。カラーによる新しい表現は、70年代からウィリアム・エグルストンをはじめとする他の写真家たちにも試みられ、カラープリントを自分でつくることもいまや当たり前になった。リアリティから巧妙にずらした色彩を出そうとするなど、作家によりその姿勢も多様だが、メイエロウィッツは一貫して色彩に、感覚や感情を表現する可能性を見ている。

 73年ごろからカラーによるプリントを試行錯誤しはじめ、主題もまた、ストリートから建築や光、空間へと変化していった。76年に8×10インチのビュー・カメラを手に入れ、このころから、避暑で訪れたマサチューセッツ州プロビンスタウンで撮影を始める。78年には、海と空の色彩が刻々と変化するコッド岬の海岸風景をまとめた『ケープ・ライト』Cape Lightを出版。この写真集は、20年間に世界各地で10万部を売る超ロングセラーとなった、メイエロウィッツの代表作。以後、空間(space)の観点から、都市とプロビンスタウンを並行して撮影しつづけている。

 2001年9月11日の同時多発テロの直後、メイエロウィッツはただ一人の公認写真家として、瓦解した世界貿易センタービルの跡地「グラウンド・ゼロ」を撮影、その作品「After September 11; Images from Ground Zero」は2003年まで世界28か所を巡回した後、2004年にニューヨーク市立美術館で展示および出版され、その一部は同美術館の永久コレクションになる。また、アルツハイマー病患者である実父との旅を描いたロード・ムービーであるドキュメンタリー映画『Pop』を制作、1998年のアテネ国際フィルム・ビデオ・フェスティバルで受賞するなど、フィルム・メーカーとしての履歴を新たに加えているほか、イタリアのトスカナにアートのワークショップ施設を共同創設して写真を教えており、トスカナで撮影した作品をまとめた写真集を出版。

[北折智子]

『Cape Light (1978, New York Graphic Society, New York)』『St. Louis and The Arch (1980, New York Graphic Society, New York)』『Wild Flowers (1983, New York Graphic Society, New York)』『A Summers Day (1986, Times Books, Random House, New York)』『The Arch (1988, New York Graphic Society, New York)』『Creating a Sense of Place (1990, Smithsonian Institution Press, Washington D. C.)』『Bay/Sky (1993, Bulfinch Press, Boston)』『Bystander; A History of Street Photography (1994, Bulfinch Press, Boston)』『At The Water's Edge (1996, Bulfinch Press, Boston)』『Joel Meyerowitz/Phaidon 55s (2001, Phaidon Press, London)』

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