メイ(Theresa May)(読み)めい(英語表記)Theresa May

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

メイ(Theresa May)
めい
Theresa May
(1956― )

イギリスの政治家。父はイングランド国教会牧師、夫は金融機関勤務。グラマー・スクール(選抜制の公立中等学校)に通ったあと、オックスフォード大学地理学を学ぶ。イングランド銀行勤務、地方議員などを経て、1997年に下院議員に初当選。2002年から2003年まで保守党幹事長。2010年から首相デビッド・キャメロン率いる保守・自由民主連立政権のもとで内務大臣となり、2016年7月まで務める。

 政治信条としては、社会的に恵まれた立場にある者はそうでない者に配慮する義務を負うとする、ワン・ネーション保守主義one-nation conservatismとよばれる立場(自由な経済競争を重視するサッチャリズムと対比される)をとる。経済政策では中道寄りの路線を支持するが、犯罪・治安対策や教育問題では保守的な立場である。

 2016年6月に行われたイギリスのヨーロッパ連合EU残留をめぐる国民投票では、消極的に残留を支持する立場をとった。離脱派が勝利したことを受けてキャメロンが首相を辞職したあと、同年7月に行われた保守党党首選挙に当選し、サッチャーに次いでイギリス史上二人目の女性の保守党党首・首相となる。

 2017年3月、メイはEUから離脱(ブレグジット)する意思を正式に通告し、その直後に政権基盤の強化を目ざして下院の解散を求める意向を表明した。同年6月に行われた下院総選挙で、メイは「強く安定したリーダーシップ」を旗印に、EUの単一市場からも脱退する「強硬離脱hard Brexit」路線への支持を訴えた。しかし党首討論を避けたことや公的介護の自己負担増を含む党公約への批判が高まり、大学教育の無償化や鉄道・水道会社の国有化など左派的な政策を掲げた野党労働党の追い上げを許した。保守党は第一党にはとどまったものの下院の過半数を失い、メイは北アイルランドの民主統一党(Democratic Unionist Party:DUP)と閣外協力協定を締結することで、少数派政権を発足させた。国内向けの強硬なレトリックとは裏腹に、EUとの離脱交渉では折衷的な立場をとり、EUとの外交・安全保障面での協力も維持しようとした。難航した交渉の末、2018年11月にようやくEUと離脱協定案に合意したが、保守党内の対EU強硬派と野党の親EU派勢力の双方から批判を受け、協定案は下院で三度否決された。保守党の支持を失ったメイは、2019年7月に首相の座を退いた。

[池本大輔 2022年3月23日]

『池本大輔著「イギリス:強硬離脱の原因とその帰結」(『混迷する欧州と国際秩序』所収・2020・日本国際問題研究所)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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