知恵蔵 「ムーディーズ」の解説
ムーディーズ
ムーディーズはジョン・ムーディーが1900年に設立した最も歴史のある格付け会社で、現在の主流であるアルファベットの文字による格付け表記もムーディーが始めたものである。20年代米国の空前の経済成長と証券ブームの中で評価対象を拡大し、投資家に受け入れられた。ことに29年に始まる大恐慌では、債券の全発行残高の約3分の1が債務不履行(デフォルト)に陥るという事態に至り、この際に格付けが高い債券ほどデフォルト発生率が低かったことから価値ある投資情報として定着した。
長期債券格付けでは、信用力が高く信用リスクの低い最高位のAaaからAa、A、信用リスクが中程度で一定の投機的要素を含むBaa、投機的であり償還できないなどの信用リスクが高くなるBa、B、Caa、そして元利の回収の見込みが極めて薄い最低位のCというようなアルファベットでランク付けられ、更にAaからCaaまでの格付けには1、2、3の数字が添えられる。債券・証券以外にも同様の形式で、保険会社の支払い能力格付けや企業の派生商品取引リスクの評価も行っている。更に、投資信託の信用と市場リスクを評価するファンド格付けや、銀行の安全性と健全性の尺度としての銀行財務格付けも提供している。
ムーディーズは、米国のスタンダード&プアーズ(S&P)、フランスのフィッチ・レーティングスとともに、世界の債券市場における信用格付けの大部分を占め、3社とも日本法人が金融庁の定める「指定格付業者」6社のうちに指定されている。格付け会社は一民間企業に過ぎないが、公表した格付けは投資家にとって重要な情報であり公共性を有し、株価などにも大きな影響を与える。このため、サブプライム問題やエンロン事件などで、格付けの信憑性(しんぴょうせい)や債務分析の内容的欠陥についてしばしば取りざたされている。
なお、ムーディーズは東日本大震災で政府支出の増加が見込まれるにもかかわらず、財政赤字削減の具体策が見えないと指摘。債務返済の可能性が低下したと判断し、2011年8月には日本国債の格付けを上から3番目の「Aa2」から、中国や台湾と並ぶ4番目の「Aa3」に1段階引き下げた。野田財務大臣(11年9月現在・首相)は、民間格付け会社の考えにコメントしないとしてきたが、先進国ではイタリア、スペインを下回る最下位転落という事態を受けて、今後の市場の動向や為替相場への波及が注目されている。
(金谷俊秀 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報