ムーダン(英語表記)mudang

改訂新版 世界大百科事典 「ムーダン」の意味・わかりやすい解説

ムーダン (巫堂)
mudang

朝鮮における女巫をさす語。シャーマンをさす朝鮮語にはマンシン(万神),タンゴル(丹骨),チョムジェンイ占匠)などさまざまな語があるが,最も一般的に用いられている語はムーダンとパクスーである。女巫のムーダンに対して,パクスーpaksu(博士,卜師)は男巫をいう。ムーダンはウラル・アルタイ語族共通の女巫の呼称udaganに由来する語で,これに漢字の巫(朝鮮音mu)の影響が加わってムーダンとなったと考えられる。パクスーはウラル・アルタイ語族の男巫の呼称baksiと同系の語である。朝鮮の巫には女巫が多く,全体の約80%を占めている。その機能は司祭巫医卜占予言,霊媒,神話の伝承者,芸能娯楽的機能等であるが,最も重要なのは芸能娯楽的機能である。ムーダンは本来〈歌舞降神〉の巫女を意味し,歌舞に巧みなことが巫女としての資格の重要な要素である。

 朝鮮のシャーマンは入巫形態から降神巫と世襲司祭巫の二つに分類される。降神巫は巫病による降神の体験をもつ者で,中北部地方のムーダンとパクスーがこれに当たる。守護神をまつる神堂を持ち,巫祭では激しい跳舞によってトランス状態に陥り,朝鮮語でコンスkongsuとよばれる神託を語る。全国に分布しているチョムジェンイもこのタイプに入る。世襲司祭巫は降神体験をもたず一定の家系によって巫業を世襲する者で,神堂もなくトランス現象も起こさない。彼らは交霊者というより司祭者的である。湖南地方(全羅道)のタンゴル,嶺南地方(慶尚道)のムーダン,済州島のシンバン(神房)がこれに含まれる。シンバンは男巫が多く降神型もあり古型を残している。また,クッとよばれる巫祭を司祭できるか否かという機能面からも二大別される。ムーダン,タンゴル,シンバンがクッを司祭できる司祭巫であるのに対して,チョムジェンイは単なる占い師でクッは司祭できない。

 中北部地方では降神巫が主流をなしていて,彼らは信者との間に檀家関係を結び,神縁といわれる神母(シンオモニ)と神娘(シンタル)との間の養子関係によって巫業を継承している。一方南部地方は世襲巫が主体で,彼らはタンゴルバン(丹骨房)とよぶ地域組織を持ち,その地域の巫業権を所有している。階級内婚を行い女子は巫業を姑嫁継承し,男子は音楽の伴奏に当たる。この地方の降神巫はもっぱら卜占と祈禱に従事し,世襲司祭巫との関係は分業的・相補的である。中北部の降神巫と南部地方の世襲司祭巫の関係については諸説あるが,各地域の地理的・社会的・歴史的条件を背景として,朝鮮シャマニズムがその発展過程で分化,変化したものとみなすことが妥当であろう。世襲司祭巫の形成には,その基層に存在した根強い南方的文化の影響が考えられる。
シャマニズム
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムーダン」の意味・わかりやすい解説

ムーダン
むーだん / 巫堂

朝鮮の巫俗(ふぞく)信仰、シャーマニズムで、神と人間との間を仲立ちする女シャーマン、神女、巫女(みこ)のことをさす。男シャーマンの数が少ないことから、広義にはシャーマン全体をさすが、男シャーマンはパス(博士・パサとも)という。ムーダンには差別的な語義が含まれているために、現在、その世界ではムーダンとよばず万神(マンシン)という。

 その由来は神話時代にさかのぼり、祭政一致時代を経て新羅(しらぎ)や高麗(こうらい)時代も祭儀、呪術(じゅじゅつ)、託宣、治病などに携わり、宮中で重んじられたが、李朝(りちょう)になって賤民(せんみん)にされた。現在は僻邪進慶(へきじゃしんけい)を目的とするクッ(巫祭、神事)を主祭して生計を営んでいる。クッの内容は地域によって多少の差はあるが、巫歌(ムーガ)と巫舞(ムーム)を中心に展開され、それは歌謡や民族舞踊に非常に大きな影響を与えてきた。

[金 両 基]

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世界大百科事典(旧版)内のムーダンの言及

【朝鮮】より

…朝鮮の巫俗は東北シベリアのシャーマニズムの系統につらなるもので,古代においては国家宗教の地位にあったが,高麗時代以降は仏教,特に李朝の儒教によって抑圧され,その社会的地位はきわめて低下させられてきた。賽神(クッkut)の司祭である巫覡(ふげき)は,中部以北では万神(マンシンmanshin),全羅道では丹骨(タンゴルtangol),済州島では神房(シンバンshinbang)と呼び,一般的には巫堂(ムーダンmudang)と呼ぶ。ほとんどは女性であるが,済州島では男性も多い。…

※「ムーダン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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