ムーア(George Edward Moore)(読み)むーあ(英語表記)George Edward Moore

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ムーア(George Edward Moore)
むーあ
George Edward Moore
(1873―1958)

イギリスの哲学者。ロンドン郊外に生まれ、ケンブリッジ大学トリニティー・カレッジを卒業、のちに同大学教授。古典研究専攻ののちに哲学に関心を移し、ラッセルウィットゲンシュタインとともにケンブリッジ分析学派を代表する一人。

 理論哲学では初期の論文『観念論論駁(ろんばく)』(1903)でバークリーやイギリス・ヘーゲル学派の観念論を批判して20世紀実在論の傾向を代表した。また『常識の擁護』(1925)などで、外界の実在や時間の存在を否定するイギリス・ヘーゲル学派の言説を批判して常識と日常命題を擁護し、日常言語学派の発展に影響を与えた。『倫理学原理』(1903)では善の概念を単純・非定義的な基本概念と考え、それを「快楽」とか「真の自己実現」のような事実的性質で定義することを「自然主義的誤謬(ごびゅう)」と名づけて伝統的倫理学の諸立場を批判し、道徳の自律性を主張した。倫理概念の基本性や定義をめぐるムーアの批判的考察は、彼以降、英米で盛んになる、倫理言語の広義の論理学としての「メタ倫理学」の嚆矢(こうし)となった。ただし、ムーアは、何が善であるかの決定は直覚によるとし、また「人間間の愛情」と「美的対象享受」を善とする規範的主張を同書の結論とし、目的論的な耽美(たんび)的功利主義を提唱したが、これは義務論者やプラグマティストとの論争を生んだ。著書ほかに『倫理学』(1911)、『哲学研究』(1922)、『哲学の主要問題』(1953)などがある。

[杖下隆英 2015年7月21日]

『深谷昭三訳『倫理学』(1977/新装版・2011・法政大学出版局)』『深谷昭三訳『倫理学原理』新版(1977・三和書房)』

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