日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ムンク(Kaj Munk)
むんく
Kaj Munk
(1898―1944)
デンマークの牧師、劇作家。5歳で孤児になり、養父母や牧師の援助を受けて大学に進み、卒業後牧師となる。強烈な性格で英雄的人物にあこがれ、卑俗な民主主義に反発したため、一時はファシストと疑われた。出世作『一理想主義者』(1928)は、ユダヤの王ヘロデが詐欺や罪業をほしいままにしてまで自己の権力保持を図るが、ついに聖母マリアとイエスの言行に触れて絶望に陥るまでを描く。ほかにイギリスのヘンリー8世の野望と偽善を描く『キャント』(1931)、『言葉』(1932)が有名。後者はドライヤー監督による映画、邦題『奇跡』の原作。ほかにムッソリーニを扱った『勝利』(1936)、ナチス治下の良心的考古学者の苦悩を描く『るつぼ』(1938)など。1941年にナチスがデンマークに進駐するや、ドイツ侵略に抵抗した中世の国民的英雄を主人公に『ニルス・エッベセン』(1942)を書く。また説教壇から痛烈なナチズム批判を続け、ついに暗殺された。『言葉の剣をもって』は死後にまとめられた説教集である。
[山室 静]
『山室静著『抵抗の牧師カイ・ムンク――その生涯・説教・戯曲』(1976・教文館)』