ムラサキシキブ(読み)むらさきしきぶ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムラサキシキブ」の意味・わかりやすい解説

ムラサキシキブ
むらさきしきぶ / 紫式部
[学] Callicarpa japonica Thunb.

クマツヅラ科(APG分類:シソ科)の落葉低木。葉は対生し、楕円(だえん)形または長楕円形で長さ6~12センチメートル、両端はとがり、縁(へり)に鋸歯(きょし)があり、裏面に淡黄色の腺点(せんてん)がある。6~7月、葉の付け根またはすこし上に集散花序をつくり、小さな淡紫色花を多数開く。花冠は4裂し、雄しべ雌しべは花冠から飛び出す。果実は小球形で10~11月、紫色に熟して美しい。山野に普通に生え、北海道南西部から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。変異が多く、シロシキブは果実が白い。変種オオムラサキシキブは葉と花序が大きく、南日本の海岸近くに生える。庭木、切り花とし、幹は道具の柄(え)、杖(つえ)、箸(はし)などに使う。ムラサキシキブ属は熱帯、亜熱帯を中心に約140種ある。

小林義雄 2021年9月17日]

文化史

一般には『源氏物語』の作者紫式部とのつながりを思われているが、直接の関係はない。いけ花では江戸時代から使われ、『立華正道集(りっかしょうどうしゅう)』(1684)や『抛入花伝書(なげいればなでんしょ)』(1684)には実紫(みむらさき)の名で載る。後者は「植木売は紫式部といふ」と、ムラサキシキブの名が、商売上の美飾名から広がったことを示す記述がある。『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)は、玉むらさきとして、紫しきみ、小紫の方言もあげる。この「しきみ」を敷実(しきみ)あるいは重実(しげみ)や茂実(しげみ)の転訛(てんか)とみて、紫敷実か紫重実(茂実)からムラサキシキブの名が由来したとする説もある。

[湯浅浩史 2021年9月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ムラサキシキブ」の意味・わかりやすい解説

ムラサキシキブ
Japanese beauty-berry
Callicarpa japonica Thunb.

山地に生えるクマツヅラ科の落葉低木。和名は美しい果実を才媛,紫式部の名を借りて美化したものだろう。幹は高さ1.5~3m,小枝は円くて斜上し,若いときは粉状の星状毛がある。葉は対生し,長楕円形で鋸歯があり,基部はくさび形で短い葉柄がある。花は淡紫色で,6~7月ころ,葉腋(ようえき)から出る柄のある集散花序につき,径約5mm。花冠は鐘形で先は4裂し,4本のおしべと1本の花柱がつき出ている。果実は球形で秋に美しい紫色となり,鳥に食べられて種子を散布する。日本,朝鮮,中国に分布する。

 コムラサキC.dichotoma (Lour.) K.Koch(英名Chinese beauty-berry)はやや葉が小型で下半部に鋸歯がなく,花序は葉腋のやや上につく。日本,朝鮮,中国の湿地付近に自生し,ときに庭に植えられる。果実の白いものがまれにある。ヤブムラサキC.mollis Sieb.et Zucc.は葉に毛の多い種類で,日本と朝鮮に分布する。

 ムラサキシキブ属Callicarpa(英名beauty-berry)は,熱帯を中心に温暖な地域に約40種が分布する。落葉あるいは常緑の樹木である。美しい花や果実を観賞するために花木として植栽される種がいくつかある。
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百科事典マイペディア 「ムラサキシキブ」の意味・わかりやすい解説

ムラサキシキブ

ミムラサキとも。クマツヅラ科の落葉低木。北海道〜九州,東アジアの山野にはえる。葉は対生し,楕円形で,縁には鋸歯(きょし)がある。6〜7月,葉腋から短い集散花序を出し,多数の花を開く。花冠は長さ3〜5mm,淡紫色で先は4裂。果実は球形で10〜11月,紫色に熟す。近縁種のコムラサキは,湿地にはえ,葉が小さくて鋸歯は上半部に限られ,花序が葉腋より少し上部につくことなどで区別される。ムラサキシキブといって庭園に植えられるのは,ほとんどがこのコムラサキである。

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