ムユウジュ(読み)むゆうじゅ

改訂新版 世界大百科事典 「ムユウジュ」の意味・わかりやすい解説

ムユウジュ (無憂樹)
asoka tree
sorrowless tree
Saraca asoca (Roxb.) De Wilde

仏教の聖木の一つで,マメ科ジャケツイバラ亜科に属する。釈迦がこの木の下で生まれたという伝説があり,アショーカノキ,アショーカジュの別名もある。高さ約25mに達する高木。葉は羽状複葉で,6~12枚の偶数個の小葉をつける。小葉は革質,無毛,長楕円形で長さ約3.5cm。花は3~6月に咲くことが多く,短い散房花序に集まってつき,長さ4~5cm。萼は長い管状で,先は4裂し,橙黄色から緋色,花弁はない。おしべは萼よりも長く,萼筒から伸び出しており,8本ある。果実は扁平で広線形,長さ5~15cm,幅2~4.5cm,木質または革質で,熟して2片に裂ける。インド,スリランカおよびミャンマーに野生する。ヒンドゥー教でも聖木とされる。材は質が堅く,建築材,家具材として用いられ,熱帯圏では街路樹にされることもある。
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古代インド文学では,瑞兆(ずいちよう)をあらわすものとしてしばしば登場する。漢訳では阿輸迦,阿叔迦などと音写され,またサンスクリットで〈アショーカaśoka〉が〈憂いなし〉を意味するため〈無憂樹〉とも意訳される。釈迦が,ルンビニー園のこの木のもとで,マーヤー摩耶夫人(ぶにん)の腋下(えきか)から出生したという伝説で有名な木である。釈尊成道のいわゆる菩提樹とこの木が同一視されているのは誤りであるが,過去七仏の一つである毘婆尸仏(びばしぶつ)(パーリ語でビパッシンVipassin)は,このアショーカジュのもとで悟りを開いたと伝えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムユウジュ」の意味・わかりやすい解説

ムユウジュ
むゆうじゅ / 無憂樹
[学] Saraca asoca (Roxb.) W.J.de Wilde
Saraca indica L.

マメ科(APG分類:マメ科)の熱帯性常緑樹。インド南部およびスリランカに自生する。低木で、枝はややつる性になる。若葉は紅色で下垂し、成葉は緑色、フジに似た羽状複葉で、小葉は長楕円(ちょうだえん)形で6~12枚、革質である。乾期に枝の途中あるいは幹に直接に円錐(えんすい)花序をつける。花は花弁がなく、4枚の萼(がく)が初めは黄色、しだいに橙(だいだい)色から赤に変わる。雄しべは6~7本、雌しべは1本で、ともに赤色で花から突き出ている。果実は長さ25センチメートル余り、鞘(さや)状で、中に4~8個の長楕円形の豆(種子)が入っている。

 コーヒー畑の周囲に風よけ用に栽培されることがあり、また庭園樹として美しい花も観賞用にされる。

[星川清親 2019年11月20日]

 別名アシュカジュ(阿輸迦樹)Aśokaともいう。インドでは恋する乙女の願いをかなえ、また誕生、結婚にかかわる幸福の木として愛好される。釈尊の降誕はこの木の下であったともいわれる。原名のアショカaśokaはサンスクリット語で「憂いのない」の意味である。無憂樹はこれの漢訳である。

[片山一良 2019年11月20日]

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世界大百科事典(旧版)内のムユウジュの言及

【サラソウジュ(沙羅双樹)】より

…フタバガキ科の落葉高木で,マメ科のムユウジュ(無憂樹)およびクワ科のボダイジュ(菩提樹,インドボダイジュ)とともに仏教の三大聖木とされる。原産地のインドではサルsal,その漢名を沙羅といい,釈迦がクシナガラで涅槃(ねはん)に入ったとき,その四方にこの木が2本ずつ生えていたという伝説から,沙羅双樹という。…

※「ムユウジュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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