ムハンマド・ショクリー(読み)むはんまどしょくりー(英語表記)Muammad Šukry

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムハンマド・ショクリー」の意味・わかりやすい解説

ムハンマド・ショクリー
むはんまどしょくりー
Muammad Šukry
(1935―2003)

モロッコの作家。モロッコ東北部の山岳地帯リフ地方に生まれ、幼少時から飢えとの闘いの日々を送ったが、21歳のときに文学邂逅(かいこう)し、初めて文字を習い、やがて自伝的作品『裸足(はだし)のパン』(1980)を書き、一躍注目を浴びた。この作品は、当時のモロッコ、とくにタンジェタンジール)の社会状況が、1人の少年の肉体と情感を介して赤裸々に映し出され、モロッコでは禁書とされたが、十数か国に訳された。「肉体によって書かれた」と評される本書は、1人の人間が文学に触発され、そこでとらえ直した自己を作品化するに至るのだが、人間が生きていくうえで文学が果たす力強い役割を認識させるものがある。若き作家としてのショクリーは、タンジェに逗留(とうりゅう)したジャン・ジュネテネシー・ウィリアムズ、ポール・ボウルズPaul Frederic Bowles(1910―1999)と親交があり、それぞれの作家との交友録がある。『タンジェのジャン・ジュネとテネシー・ウィリアムズ』(1992)はその一つ。ボウルズとの親交は長く、彼の『裸足のパン』は、ボウルズによってFor bread alone(1973。原作は長い間発禁とされていたため英訳が先に発行された)という標題で英訳された。ほか小説としては、『狂気薔薇(ばら)』(1992)、『過ちの日々』(1992)などがある。

[奴田原睦明]

『奴田原睦明訳「裸足のパン」(『グリオ』vol5所収・1993・平凡社)』『今福竜太ほか編、奴田原睦明ほか訳『世界文学のフロンティア5 私の謎』(1997・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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