日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ミール(ロシアの共同体)
みーる
мир/mir ロシア語
ロシアの農村共同体、土地共同体または共同体の集会をさす。「オプシチナ」община/obshchinaともいう。起源については、古代ロシアの村落共同体に由来するという説と、後の農奴制の確立、人頭税の徴集に始まるとする説が対立している。古くは農民の集会としての自治的機能が重要であり、長老の選出、税と土地の割当てなどがここで決議された。16世紀以降には、担税者の登録や租税、地代の負担の決定がミール構成員の連帯責任を条件として行われるようになった。その結果、土地の定期割替えと共同耕作の慣行が導入されるに至った。とくに18世紀の人頭税導入後は、土地の配分が、通常、農民夫婦を一単位とする課税単位「チャグロ」を基準として行われ、中央ロシアでは、土地の位置と質の差による負担の軽重を平均化するための均等的な定期割替えが一般的になった。ミールはまた、貧困・老病者の救済、共同施設の運用などにも携わった。この自治的組織には地主や国家の干渉が強く加わり、とくに農奴解放(1861)後は、農民が国家から受けた土地購入用融資の返済責任がミールに課せられた。ストルイピン改革(1906~11)により、農民にミール脱退の自由が認められた。スラブ主義者(スラボフィル)はミールを理想化し、人民主義者(ナロードニキ)はロシア社会の発展可能性をこのなかにみた。なお、モスクワ時代(15世紀なかば~17世紀)には、町人の構成するミールも存在した。
[伊藤幸男]
『保田孝一著『ロシア革命とミール共同体』(1971・御茶の水書房)』▽『ダニーロフ著、荒田洋・奥田央訳『ロシアにおける共同体と集団化』(1977・御茶の水書房)』