ミバエ(読み)みばえ(英語表記)fruit flies

改訂新版 世界大百科事典 「ミバエ」の意味・わかりやすい解説

ミバエ (果実蠅)
fruit fly

双翅目ミバエ科Trypetidae(=Tephritidae)に属する昆虫の総称成虫は小型から中型,大きな種でもイエバエ程度である。翅に美しい斑紋のある種が多く,生きているときの複眼は緑色または青色に輝き美しい。成虫は,花みつやカイガラムシの分泌物を食べて生活する。産卵管は硬化するが,伸縮性がある。これを果実にさし入れて産卵する。孵化(ふか)した幼虫は,果実の内部を食べて成長し,土中で蛹化(ようか)する。老熟幼虫は,体を屈曲させて,その反動でジャンプする性質があり,移動しながら蛹化につごうのよい場所を見つける。

 幼虫が果実を食害することから,農作物害虫として問題になる種が多い。ミカンコミバエウリミバエは,南西諸島や小笠原諸島で農作物の害虫として有名である。チチュウカイミバエCeratitis capitata(英名Mediterranean fruit fly)は,熱帯アフリカ原産と考えられているが,過去100年の間に全世界に分布を拡大し,リンゴ,オレンジ,モモ,サクランボなど多くの果実の大害虫となった。アメリカでは,過去数回,フロリダカリフォルニアで大発生した。1981年のカリフォルニアでの発生時には,日本に侵入するのを恐れ,この地域からのオレンジ類の輸入一時中止した。ハワイなどの暖かい地域では,年に10~12世代を繰り返す。ミバエ類の幼虫は,果実以外に葉に潜り込むもの,アザミなどの花頭に入り成育するもの,茎,葉柄,根に入って虫こぶをつくるものなどもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミバエ」の意味・わかりやすい解説

ミバエ
みばえ / 実蠅
果実蠅
fruit flies

昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目ハエ群ミバエ科Tephritidaeの総称。この科のハエは体長2~15ミリメートル、一般的に5~6ミリメートルのものが多い。頭部は雌雄とも離眼的であるが、雌雄とも複眼の基部が伸長したものや、雄のみ角(つの)状の突起をもつものもある。頭部前額の額縁剛毛は上が1~2対、下が2~3対またはそれ以上存在し、後頭頂剛毛はほぼ平行して、けっして交差しない。はねでは、前縁脈は3か所で分断され、亜前縁脈は末端直角に近い角度で前方へ折れる。はねには黄色、褐色、黒色の美しい斑紋(はんもん)をもつものが多いが、はねに斑紋のあるハエのすべてがミバエ科ではない。雌の腹部には明瞭(めいりょう)な産卵管基部環節がある。

 幼虫は無頭のウジで、植物を加害するが、生活様式によって次のように分けられる。

(1)生果実に食入するもの。熱帯から温帯で農作物の重要な害虫と目されるものが多い(チチュウカイミバエ、ミカンコミバエ、ウリミバエ、ミカンバエ、オウトウハマダラミバエなど)。

(2)植物の葉に潜るもの。

(3)植物の茎または根に食入するもの。このなかには虫こぶ(虫癭(ちゅうえい))をつくるものもある。

(4)植物の花に食入するもの。とくにキク科に入るものが多い。

(5)その他。シロアリの巣やコウモリガの食入跡から発見されたものもある。さらにめずらしい例では、ほかの昆虫による虫こぶ内で、その棲み主を食べるという、肉食性のものが知られている。

[伊藤修四郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミバエ」の意味・わかりやすい解説

ミバエ
Tephritidae; fruit fly

双翅目ミバエ科に属する昆虫の総称。体長2~20mmであるが,5mm内外のものが多い。翅に美しい斑紋のある種が多く,亜前縁脈の先端が直角に近い角度で前方に曲り,消える点で他と区別できる。成虫は花や葉の上などにみられ,止っているとき翅をゆっくりと上下する習性がある。幼虫は無頭の蛆 (うじ) で,植物を加害するが,生果実に潜入するもの,植物の葉に潜入するもの,虫 癭をつくるもの,花に潜入するものなどいろいろある。果実の害虫として有名なものが多く (チチュウカイミバエなど) ,日本ではミカンコミバエ,ウリミバエ Bractrocera cucurbitaeなどが南西諸島以南に産し,本土への侵入が警戒されている。 (→双翅類 , ハエ )  

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百科事典マイペディア 「ミバエ」の意味・わかりやすい解説

ミバエ

双翅(そうし)目ミバエ科の昆虫の総称。種類が多く,大部分は細形で明色,翅に斑紋がある。体長は多くで1mm以内。幼虫(蛆(うじ))は植物の葉,茎,果実,芽などに潜入。果実やウリ類に寄生するものは特に被害が著しいので各国で防除や侵入阻止に努力している。生の果実,ウリ類その他が輸入禁止になっているのもこのため。成虫は葉上や木の陰に多く,アブラムシの甘露によく来集する。ミカンコミバエ,チチュウカイミバエ,ウリミバエなど著名な大害虫が多く含まれる。
→関連項目ハエ(蠅)

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世界大百科事典(旧版)内のミバエの言及

【ショウジョウバエ(猩々蠅)】より

…赤い眼をした小型のハエで,腐った果実や,家屋内では漬物おけなどに集まっているのが見られる。英名のwine fly,fruit fly,vinegar flyは,発酵した果実や酢に集まるハエの意である。和名も,酒を飲んで舞う能の“猩々”から由来したという。…

※「ミバエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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