ミドリシジミ

改訂新版 世界大百科事典 「ミドリシジミ」の意味・わかりやすい解説

ミドリシジミ

鱗翅目シジミチョウ科ミドリシジミ族Thecliniに属する昆虫の総称,またはそのうちの1種を指す。シジミチョウ科はヒマラヤから中国,日本にかけての暖温帯および冷温帯の森林地帯に栄えており,かつてはゼフィルスZephyrusという一つの属にまとめられていたが,今日ではいくつかの属に細分されている。

 日本にはウラキンシジミ,チョウセンアカシジミアカシジミ,ウラナミアカシジミ,オナガシジミ,ミドリシジミなど約25種が知られている。いずれも森林にすみ,ヒサマツミドリシジミとキリシマミドリシジミの2種は食樹ウラジロガシアカガシを含む照葉樹林(常緑広葉樹林)にすんでいるが,他の22種はいずれも落葉樹を食樹としており,夏緑樹林(落葉広葉樹林)を生活の場としている。主としてブナ科を食樹としているものは17種である。

 またモクセイ科の植物を食べるものはウラキンシジミ,ウラゴマダラシジミ,チョウセンアカシジミの3種,マンサク科はウラクロシジミ1種,クルミ科はオナガシジミ1種,カバノキ科はミドリシジミ1種,バラ科はメスアカミドリシジミ1種である。なかにはムモンアカシジミのように1齢期にクヌギなどブナ科植物の新芽やアブラムシカイガラムシなどの分泌物を食べているが,やがてクリノオオアブラムシやオオワラジカイガラムシなどの半翅目の昆虫を食べる半肉食性のものもある。

 すべて年1回発生し,卵で越冬し,孵化(ふか)した幼虫は食樹の新芽を食べて育つ。成虫は,多くの場合6~7月に羽化し,雄は短期間で姿を消すが,雌の寿命は長く,10月ころまで生存する場合も多い。成虫は花に集まることもあるが,この習性は一部の種を除いてあまり目だたない。ミドリシジミ,アイノミドリシジミなど多くの種では雄はいずれも金属的な緑色に輝き,広葉樹の枝先を中心になわばりをつくる。種によって早朝,日中,夕方に活動するものがあり,時間的なすみわけも見られる。

 ミドリシジミNeozephyrus taxilaは開張3~4cm。翅にやや円みがある。雄の表面は緑色に輝くが,雌は暗褐色で遺伝的に四つの型が見られる。橙色斑のあるものはA型,青色斑のあるものはB型,両方あるものはAB型,これらの斑紋のないものはO型と呼ばれる。年1回発生し,成虫は6~8月に現れる。食樹はハンノキヤマハンノキである。卵で越冬し,幼虫は食樹の若葉をつづって巣をつくる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミドリシジミ」の意味・わかりやすい解説

ミドリシジミ
Neozephyrus taxila

鱗翅目シジミチョウ科。前翅長 20mm内外。後翅に細い尾状突起がある。翅表は,雄では金緑色で外縁は幅広く黒色,雌では黒褐色で金緑色鱗粉を欠くが,全面黒褐色のものと,前翅に黄褐色斑,青紫色斑のあるものとがあり,その組合せで4型が認められている。裏面は灰褐色ないし赤褐色で,前後翅とも中央より外縁寄りに細い白色横帯があり,後翅では後方でW字状をなす。成虫は6~9月に出現し,雄は夕方樹上を飛ぶ。幼虫はハンノキ類を食べる。北海道,本州,四国,九州,サハリン,朝鮮,シベリア東部に分布する。本州,四国,九州産は亜種 N. t. japonicus,サハリン,北海道産は小型で別亜種 N. t. regiusという。なお,日本産で雄の翅表に金緑鱗をもつ近縁種は NeozephyrusChrysozephyrusFavoniusQuercusiaの4属に分けられているが,クロミドリシジミ F. yuasaiの雄は例外的に緑色鱗を欠く。幼虫はクヌギ,アベマキを食べる。ヒサマツミドリシジミ C. hisamatsusanusは後翅裏面のW字紋がV字形になっている点が著しい。幼虫の食草はブナ科のウラジロガシ。フジミドリシジミ Q. fujisanaは雄の翅表が青色を帯びる。裏面は雌雄とも白色で,黒色帯と黒色斑がある。幼虫の食草はブナ科のブナ,イヌブナなど。北海道,本州,四国,九州に産する日本固有種である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミドリシジミ」の意味・わかりやすい解説

ミドリシジミ
みどりしじみ / 緑小灰蝶
[学] Neozephyrus taxila

昆虫綱鱗翅(りんし)目シジミチョウ科に属するチョウ。日本では北海道、本州、四国、九州に分布するが、九州では九重(くじゅう)山系にのみ産する希種。国外では樺太(からふと)(サハリン)、朝鮮半島、中国東北部に分布する。はねの開張は37ミリメートル内外。はねの裏面は雌雄とも灰褐色であるが、雄の表面は金緑色(和名はこの特徴による)、雌の表面は褐色、無紋のものから、大形の藍紫斑(らんしはん)をもつもの、橙赤(とうせき)斑をもつもの、藍紫斑と橙赤斑の両方をもつものなどの諸型がある。年1回の発生で、暖地では6月、寒冷地では7月より出現し、生き残りの雌は10月までみられることがある。幼虫の食草はハンノキ、ヤマハンノキなどのカバノキ科。卵はこれら食草の枝・幹上に産み付けられ、卵の状態で冬を越し、翌春食草の芽立ちとともに孵化(ふか)する。

[白水 隆]


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百科事典マイペディア 「ミドリシジミ」の意味・わかりやすい解説

ミドリシジミ

鱗翅(りんし)目シジミチョウ科の1種。日本全土,樺太,朝鮮,シベリア東部などに分布。開張37mm内外,雄の翅表は金緑色で黒く縁どられるが,雌は黒褐色,前翅に紫藍色やだいだい色の斑紋の現れるものもある。卵で越冬,幼虫はハンノキ類の葉を食べ,成虫は6〜8月に現れる。ミドリシジミ類は東アジアに種類が多く,日本には20種ほどがいる。

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