ミツマタ(読み)みつまた

改訂新版 世界大百科事典 「ミツマタ」の意味・わかりやすい解説

ミツマタ (三椏)
paper-bush
Edgeworthia chrysantha Lindl.(=E. papyrifera Sieb.et Zucc.)

枝が3本に分かれ花が黄金色ジンチョウゲ科の落葉低木。和紙原料木および花木として栽培される。漢名は結香,黄瑞香。高さ1~2m,7月ごろ新しい枝の先が急に3本に分かれて伸び,密に茂る。葉は互生し,長楕円形ないし披針形で長さ8~25cm,裏に伏毛がある。秋ごろ,枝の上部葉腋(ようえき)から1~2cmの柄で葉形の苞に包まれた花序のつぼみが点頭する。花序は頭状で30~50個の花からなり,3,4月,葉より早く開く。花弁がなく萼は長さ8~15mmの黄色,筒形外面を長い白色絹毛が覆い,先が4裂する。おしべは8本が筒内に2列につき,子房の先は長い花柱となる。7月ごろ乾果ができ萼筒基部に包まれる。

 中国中・南部からヒマラヤにかけて分布し,美しい花を愛でて世界各地で庭園に植えられる。日本に渡来したのは室町時代といわれ,樹皮靱皮繊維が丈夫なので和紙の原料とされた。野生品に頼るガンピと異なり栽培が容易で,天明(1781-89)のころに静岡県東部でミツマタ和紙の量的な製造が始まった。さらに1882年ころから紙幣用紙に供せられるようになって急速に栽培面積がふえ,宮城以南の各県でみられた。しかし近年は大幅に面積が減っている。赤木(あかぎ),青木(あおぎ)の二つの主要品種がある。播種(はしゆ)または挿木でふやし,やや湿った土地に密植する。秋に幹,枝を刈り取り,多くの手間をかけて皮をとり,和紙をつくる。靱皮繊維は繊細で耐伸・耐折強度,弾力性および光沢に富み,1.2~5.1mm(平均3.6mm)と長さも適当で機械抄紙ができるので,証券紙,紙幣紙,鳥の子紙などの高級紙料として重用される。ミツマタ属Edgeworthiaは中国中・南部,ミャンマー,ヒマラヤに計4種を産する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミツマタ」の意味・わかりやすい解説

ミツマタ
みつまた / 三椏
[学] Edgeworthia chrysantha Lindl.
Edgeworthia papyrifera Sieb. et Zucc.

ジンチョウゲ科(APG分類:ジンチョウゲ科)の落葉低木。樹皮の繊維を紙の原料とするために栽培される。中国原産で、日本に伝来した年代は不明であるが、17世紀以前のこととみられる。樹高1~2メートルで、枝がすべて3本に分かれるのが特徴で、ミツマタの名はこれに由来する。葉は互生し、葉柄があり、葉身は長楕円(ちょうだえん)形で全縁、裏面は細毛が密生して灰白色。晩秋、落葉したころからつぼみが発育し、翌年の早春、葉が出る前に開花する。花は多数の小花が球状に集まった花序をなす。花弁はなく、4枚の卵形で黄色の萼片(がくへん)が花弁のように開く。雄しべは8本、雌しべは1本。果実は先のとがった痩果(そうか)で、夏に熟す。東北地方以西に生育し、西日本の暖地が栽培適地である。品種には青木(あおき)、赤木(あかぎ)などがある。西日本の山地には、野生化したものもみられる。

 幹や枝の靭皮(じんぴ)繊維はじょうぶで、枝を切って煮たり蒸したりして樹皮を剥(は)ぎ取り、水に浸(つ)けて漂白する。これをたたいて繊維をほぐし紙漉(かみす)きの原料とする。繊維はコウゾ(クワ科)より短く平均3ミリメートル程度なので、手漉きのほかに機械漉きにも適し、加工が容易である。ミツマタ和紙は良質でじょうぶ、しかも虫害を受けにくいので、鳥の子紙など高級和紙として昔から重用され、現代では紙幣や証券用紙とされる。また薄く漉いてもじょうぶなので、コピー紙や謄写版原紙としても重要である。

 栽培は種子を播(ま)いて苗を仕立て、本植後3~4年目から毎年枝を刈り取り、20年間も収穫を続けることができる。最近は和紙の利用減につれ繊維作物としての需要が減ってきたが、早春の花が美しいので観賞用庭園樹として普及している。

[星川清親 2020年10月16日]


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百科事典マイペディア 「ミツマタ」の意味・わかりやすい解説

ミツマタ

ジンチョウゲ科の落葉低木。中国原産で古く日本に渡来,各地に栽植される。枝は3本ずつに分かれ黄褐色。葉は薄く広披針形で裏面には白みがある。3〜4月,葉の出る前に枝先の頭状花序に黄色花を下向きに開く。萼は長さ8〜15mm,筒形で先が4裂,花弁はない。観賞用のほか,樹皮の繊維は強く,コウゾとともに和紙の原料とされる。
→関連項目画仙紙局紙植物繊維繊維作物唐紙鳥の子紙半紙間合紙和紙

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化学辞典 第2版 「ミツマタ」の解説

ミツマタ
ミツマタ
paper bush

学名Edgeworthia papyrifera Sieb.et Zucc.[別用語参照]和紙

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のミツマタの言及

【局紙】より

…これは印刷局の3代目局長得能良介が,紙幣や公債証書の偽造防止のうえからも,日本独特の優秀な紙を作りだす必要があると,越前の紙すき職人をよんで印刷局のなかに手すき工場を設立したものである。はじめ,日本独特の原料であるガンピを使って,印刷効果の良い紙をすくことを試みたが,ガンピの栽培が難しく,大量の原料確保が困難なため,類似の繊細な繊維をもつミツマタを原料とした。いろいろの試作の結果,溜(た)めすき法によって紙肌が滑らかで,紙の腰が強く,緻密(ちみつ)な印刷が可能な厚紙を完成し,印刷局にちなんで〈局紙〉の名称が与えられた。…

【土佐紙】より

…なお,現在の伊野町に属する成山に御用紙すきがいて高級紙をすいていた。明治時代に,御用紙すきの出身といわれる吉井源太らは,6枚すきなどの簀桁(すげた)の大型化,大きな紙の乾燥に適した馬毛はけなどの用具の改革や,ガンピ(雁皮),ミツマタ(三椏),コウゾ(楮)による薄紙を中心にした工業用紙をくふうして,高価な輸出紙の販路を開拓した。薄い雁皮紙は謄写版原紙としてそのまま生かされた。…

【三椏紙】より

…ミツマタを原料とする紙。ミツマタはコウゾ(楮),ガンピ(雁皮)と並んで,現代の和紙の代表的な3原料の一つで,ガンピと同じジンチョウゲ科に属する。…

※「ミツマタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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