ミクロネシア(読み)みくろねしあ(英語表記)Micronesia

翻訳|Micronesia

精選版 日本国語大辞典 「ミクロネシア」の意味・読み・例文・類語

ミクロネシア

(Micronesia)
[一] 西太平洋の多数の小島の総称。マリアナ・パラオ・カロリン・マーシャルギルバート諸島やバナバ(オーシャン)・ナウル・ウエークなどの孤島からなる。小型のサンゴ礁が多く、熱帯海洋性気候を示す。先住民はカナカ・チャモロ族。第一次世界大戦後、大部分がドイツ領から日本の委任統治領となり、第二次世界大戦後はアメリカ合衆国の信託統治領となったが、一九七〇年代から独立がすすむ。
[二] ミクロネシアのカロリン諸島の島々からなる国。第二次世界大戦後アメリカの信託統治領となり、一九七九年自治政府を樹立、八六年ミクロネシア連邦として独立。首都はポンペイ島パリキール

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミクロネシア」の意味・わかりやすい解説

ミクロネシア
みくろねしあ
Micronesia

西太平洋のうち、赤道以北の部分に散在する島々。海域は500万平方キロメートルに及ぶが、陸地総面積はわずか3667平方キロメートルにすぎない。ミクロネシアとは「小さい島々」という意味で、1831年ドムニ・デ・リエンツィがフランス地理学協会に提案した名称であるが、メラネシアポリネシアという名称とともに、オセアニアを三分する地域名となった。政治的には、大部分が第二次世界大戦後、太平洋信託統治諸島となった地域で、ほかにグアム島、ナウル、オーシャン島、ギルバート諸島が含まれる。地理的には、大きくカロリン諸島、マーシャル諸島マリアナ諸島の三つの島嶼(とうしょ)群に分けられる。カロリン諸島には963の島嶼があり、陸地面積2150平方キロメートル、このうちコスラエ、ポナペ、チューク(トラック)、ヤップの各島群はミクロネシア連邦(1979自治政府発足、1986独立)を構成、パラオ地区はパラオ(ベラウ)共和国(1981自治政府発足、1994独立)となっている。マーシャル諸島は島嶼の数では約900もありながら陸地面積は181平方キロメートルにすぎない。この諸島も独立(1986)してマーシャル諸島共和国となっている。マリアナ諸島はグアム島を含む主要な15の島数で合計1020平方キロメートル。グアムを除く各島は北マリアナ連邦(1978自治政府発足)として独立(アメリカ自治領化)した。マーシャル諸島に続くギルバート諸島はオーシャン島を含めて17島、295平方キロメートル。これはポリネシア側のフェニックス諸島、ライン諸島などとともにキリバスとして独立(1979)した。ナウルは21平方キロメートルの孤島である。

 ミクロネシアの西半は環太平洋造山帯の西縁に沿って海上に目だつほどそびえる火山島も多いが、マリアナ海溝以東はサンゴ礁からなる低平な小島とくに環礁が多い。この地域は全般的に17世紀初頭スペインの航海者たちがメキシコとフィリピンの間を往復していてここに到達、その後ドイツの植民地時代が続いた。第一次世界大戦後は日本の委任統治領となったが、第二次世界大戦では日本とアメリカの間の激戦地となり、戦後アメリカの信託統治領となっていたという歴史をもつ。スペイン系の地名、ドイツ時代のココヤシプランテーション、日本時代の漁業技術などのうえに、いわゆるアメリカ民主主義が定着したという歴史的経過をたどった地域である。

[大島襄二]

住民

住民はミクロネシア人とよばれているが、形質の異同とは無関係に二大別して呼び習わされており、早くからキリスト教化された北部のマリアナ諸島に居住する人々をチャモロ人、それ以外の南部の島々に居住する人々をカナカ人という。

 身体的特徴は、ポリネシア人より低身長で、頭髪は黒褐色で直状毛、巻毛や縮毛もみられる。皮膚の色は、西から東に移るにつれて暗褐色から淡褐色になる。言語的にはオーストロネシア語族に属するが、マリアナ諸島のチャモロ語パラオ諸島のパラオ語は、系統上はインドネシア語派(ヘスペロネシア語派)に属する。マーシャル、ポナペ、トラック、オレアイの諸語およびギルバート語は、中核ミクロネシア語群に属し、系統上はメラネシア語派のニュー・ヘブリデス諸語やフィジー語に近い。

 言語学、先史学の成果によれば、ミクロネシアの文化は、フィリピン、東インドネシア方面から、西縁ミクロネシアのパラオ、ヤップ、マリアナ諸島に移入してきた文化と、メラネシアのニュー・ヘブリデス諸島付近から北上して、ギルバートおよびマーシャル諸島を経て、東・中カロリン諸島に伝わった文化とに区別される。この二つの文化は何回もの小さな波となって波及し、ミクロネシアの伝統文化の形成に影響を与えた。

 西欧人と接触する以前のミクロネシア人は、新石器文化の段階にある農耕民であった。ココヤシ、パンノキ、バナナ、タロイモ、ヤムイモなどが主要作物であったが、サンゴ島では漁労とパンノキ栽培への依存度が高く、火山島ではタロイモ、ヤムイモなどの根茎栽培への依存度が高い。サンゴ島と火山島との異なる生態条件は、それぞれの島で、男女の分業を軸とする社会組織を多様なものにしている。非単系社会であるギルバート諸島を除けば、ミクロネシアは母系を通じて共同の祖先につながりをもつ親族集団が支配的な役割を演じる母系制社会である。しかし、散村形態をとる母系妻方居住婚拡大家族が支配的な東部、中央部地域と、集村形態をとる母系夫方居住婚小家族が支配的な西部地域とは対照的である。

 政治的には、土地と海の統制と初物献納を軸とする多様な形態の首長制政治組織が発達している。宗教的権威を背景に広大な海域に及ぶ貢納・交易網を支配したヤップ島、「ポトラッチ」的威信経済を発達させたポナペ島、コスラエ島の首長国、有力な首長の出現に伴って階層化の進んだマーシャル諸島、親族的序列の域にとどまっているチューク諸島など差異は大きい。

 ミクロネシアの社会生活上で大きな役割を果たしているのは、男子集会所、若者宿、クラブハウスなどの男子舎屋の存在である。これらは一つの建物に融合していることもあるが、いずれにせよ、祭政の場であるとともに、未婚男子の合宿所である。これに対し、女子用には月経小屋が存在した。

 カロリン諸島やマーシャル諸島のサンゴ島では、近隣の島々や火山島と一種の共生関係が結ばれ、これらの島民間では航海に関する知識と技術が発展し、船体の一側にフロートをつけたアウトリガー・カヌーによる遠洋航海を発達させた。

[牛島 巖]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ミクロネシア」の意味・わかりやすい解説

ミクロネシア
Micronesia

西太平洋,赤道のほぼ北,南緯3°~北緯20°,東経130°~180°の海域に散在する島々の総称。マリアナ諸島カロリン諸島マーシャル諸島,ギルバート諸島(キリバス)とナウル島などの島より構成され,島の総数は約2100,総面積は2851km2である。このうち人が居住する島は130にすぎず,人口は約30万(1982)。島は火山島,環礁島,隆起サンゴ礁島よりなり,最大の島グアム島でも541km2,小さな島になると1km2に満たない。このような地形的特徴からこの地域は,ギリシア語のミクロスmikros(小さい)とネソスnēsos(島)にちなんでミクロネシア(小さい島々)と名づけられた。熱帯に位置するこの地域の気候は,平均気温28℃前後で年間を通じてあまり変わらず,年降水量は熱帯低気圧に見舞われなければ火山島を除き約360mm,北東からの貿易風が卓越し,乾季と雨季の差が顕著でない。西カロリンの海域で発生する熱帯低気圧は,台風へと発達し日本などを襲う。比較的均質な自然環境下にある島々も,政治・経済面ではグアム島,ナウル島とそれ以外の島とで大きな差異がみられる。グアムは1898年以来アメリカ領になり,アメリカ軍基地や観光地として経済的に自立している。ナウルは1968年に独立し,リン鉱石の輸出で安定した経済基盤を確立している。しかしカロリン,マーシャル,ギルバートの諸島はコプラの生産以外に産業が発達しておらず,アメリカやイギリスの経済援助に依存している。そこでの主要な栽培植物はタロイモ,ココヤシ,パンノキ,バナナで,ヤップ島やポナペ(ポーンペイ)島ではヤムイモが加わる。最近では米の輸入によって米食への変化もみられるが,それらの作物が主食となっている。島の人々による豊富な漁業資源の開発は進まず,小規模な漁労活動に基づく漁獲も日常的に消費される程度である。営利的漁業としては,パラオ諸島のアメリカ資本による缶詰工場経営程度。

 ミクロネシアの島々は1521年のマゼランによるグアム島発見以来,18世紀末までにほとんどの島の存在が明らかになった。マリアナ,カロリン,マーシャルの諸島はヨーロッパ人による発見以来,スペイン,ドイツ,日本そしてアメリカの統治下に置かれてきた。日本は第1次世界大戦中にそれらの島を占領し,戦後は委任統治領の南洋群島として治めた。最盛期には10万人もの日本人が進出し,漁業,鉱業,農業の開発に従事した。とくにサイパンやテニアンでのサトウキビ栽培と砂糖生産は,南洋群島の経済的支柱であった。第2次世界大戦後はアメリカの信託統治領となったが,現在4ブロックに分かれて新しい国家を建設中である。グアムを除くマリアナ諸島は北マリアナ諸島として1986年からアメリカの自治領となった。ヤップ,トラック,ポナペ,コシャエ(クサイエ)はミクロネシア連邦,そしてマーシャル諸島はマーシャル諸島共和国と国名を決め,それぞれアメリカと自由連合free association協定を結び,1986年に独立した。パラオ諸島はパラオ共和国(ベラウ)と国名を決め,アメリカとの自由連合を目ざした。パラオ独自の憲法の非核条項をアメリカに限っては適用しないという修正を行い,94年自由連合協定が発効し独立した。またギルバート諸島は1892年から続いたイギリス植民地の地位を離れ,1979年にキリバス共和国の名のもとにイギリス連邦加盟の独立国となった。
ミクロネシア人
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ミクロネシア」の意味・わかりやすい解説

ミクロネシア

西太平洋,赤道以北,180度線以西の地域。名は〈小さな島々〉の意。ナウルキリバスミクロネシア連邦マーシャル諸島共和国,パラオ共和国,米国の準州(グアム),同自治領の北マリアナ諸島という七つの〈ミニ・ステート〉からなる。火山島,低平な環礁からなり,住民はメラネシア人,ポリネシア人などの混血といわれるミクロネシア人。コプラ,リン鉱石などが主産物。マリアナ諸島(米国領のグアム島を除く),カロリン諸島,マーシャル諸島はドイツ領をへて第1次大戦後日本の委任統治領となり,第2次大戦後米信託統治領に移行,7行政区に分けられた。マリアナ区は北マリアナ諸島(米国の自治領),ポナペ(ポーンペイ),コシャエ,ヤップトラックの4区は合体してミクロネシア連邦(米国との自由連合。防衛,安全保障を除く内政自治権と外交権をもつ変則的な独立),マーシャル区はマーシャル諸島共和国(米国との自由連合)として,1986年にそれぞれ発足した。パラオ区も1994年パラオ共和国(ベラウ)として米国との自由連合方式で独立した。→オセアニア

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミクロネシア」の意味・わかりやすい解説

ミクロネシア
Micronesia

西太平洋の赤道以北,180°の経線の西側からフィリピン諸島東方にかけて分布する島々の総称。東西約 3000kmにわたって 2000をこえる火山島やサンゴ礁が点在する。比較的大きい島はサイパン島グアム島,ほかにマリアナ諸島カロリン諸島,マーシャル諸島,ギルバート諸島,オーシャン島などを含む。マリアナ諸島北部の新火山島以外は,すべてサンゴ礁に囲まれるか,あるいは隆起サンゴ礁をもつ古い火山島で,東部の諸島はほとんど環礁卓礁の低いサンゴ島。独立国はキリバスマーシャル諸島ミクロネシア連邦パラオで,ほかにアメリカ合衆国自治領(北マリアナ諸島など),アメリカ領のグアム島に分かれる。漁業のほか熱帯自給作物とココヤシなどの熱帯商品作物を栽培。一部でリン鉱石を産するが,軍事基地や観光への依存度も大きい。面積約 2650km2。人口約 41万(1990)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ミクロネシア」の解説

ミクロネシア
Micronesia

太平洋の西部のうち,赤道以北に散在する島々の総称。ポリネシアメラネシアとともに太平洋の3区分の一つ。ギリシア語で「小さい島々」を意味する。先住民はオーストロネシア語族に属し,根栽農耕と漁撈を主たる生業としていた。1521年にマゼランがヨーロッパ人として初めてグアムを訪れ,以後,スペイン人がガレオン船の中継地としてこの地域を利用した。その後,アメリカ‐スペイン戦争に敗れたスペインは,ドイツにミクロネシア地域を売却した。第一次世界大戦後は日本の委任統治領となり,南洋群島と呼ばれた。戦後はアメリカの信託統治領となり,1979年にキリバス共和国,86年にミクロネシア連邦,マーシャル諸島共和国,94年にパラオ共和国がそれぞれ独立している。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ミクロネシア」の解説

ミクロネシア
Micronesia

西太平洋のほぼ赤道以北,ナウル島からカロリン・パラオ諸島に至る赤道付近の小島の総称
原語は「小諸島」の意。住民のミクロネシア人は古く東南アジアから渡来したといわれ,ポリネシア人と同系統だが,モンゴロイド的要素が強い。19世紀にイギリス・アメリカ・ドイツ(のち日本の委任統治領)に分割されたが,現在はナウル,ミクロネシア連邦,ベラウ,マーシャル,キリバスが独立し,赤道以北はアメリカの自治領(北マリアナ連邦)とアメリカ領(グアム島)となっている。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

ダイビング用語集 「ミクロネシア」の解説

ミクロネシア

グアム、サイパン、パラオ、ポナペなどが含まれ、ポピュラーなダイビングスポットの一大集合エリアともなっている。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内のミクロネシアの言及

【オセアニア】より

…残りの数千を数える島々の総面積はわずか18万km2にすぎない。 大陸を除いたオセアニアの島々の世界は,通常地理学的および人類学的観点からメラネシアポリネシアミクロネシアの3地域に区分される。メラネシア(ギリシア語で〈黒い島々〉の意。…

※「ミクロネシア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android