日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マロリー(Sir Thomas Malory)
まろりー
Sir Thomas Malory
(1416ころ―1471)
イギリスの散文作家。ウォーリックシャー出身の騎士。イギリスやフランスに流布するアーサー王伝説を集大成して、長編『アーサー王の死』全21巻(1485刊)を獄中で著した。その生涯は波瀾(はらん)の連続で、理想主義的傾向のロマンス作家には似ず、窃盗、暴行、入獄、脱獄などを繰り返したといわれる。この点については種々の解釈がなされ、『アーサー王の死』の作者には、別のヨークシャーやケンブリッジシャー出身のマロリー説もある。1934年、この作品の古写本が初めて発見され、フランスのビナーバEugène Vinaver(1899―1979)教授による優れた校訂版が出版された(1947、第二版1967)。マロリーはアーサーの誕生から死に至る全一巻の物語を初めから意図したのではなく、翻訳した八編の別々のロマンスをまとめたものにすぎないとする同教授の主張には異論もあり、この論争には決着がついていない。アーサー王とその宮廷に参じた円卓の騎士たちが繰り広げる恋と冒険、魔法使いと妖精(ようせい)、聖杯探求などを主題とするこのロマンスは、イギリス最初の印刷業者カクストンにより出版されて以降、当代散文の一つの模範とみなされ、近代英文学にも多大の影響を与えた。
[高宮利行]
『厨川文夫・圭子編訳『アーサー王の死』(ちくま文庫)』