マルブランシュ(読み)まるぶらんしゅ(英語表記)Nicolas de Malebranche

精選版 日本国語大辞典 「マルブランシュ」の意味・読み・例文・類語

マルブランシュ

(Nicolas de Malebranche ニコラ=ド━) フランス哲学者アウグスティヌス神学デカルト哲学を結びつけ、物体知覚には神のうちにある観念が介在するという、機会原因論を唱えた。主著真理探究」。(一六三八‐一七一五

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「マルブランシュ」の意味・読み・例文・類語

マルブランシュ(Nicolas de Malebranche)

[1638~1715]フランスの哲学者神父アウグスチヌス神学とデカルト哲学を結合、機会原因論を唱え、すべては、原形としての観念を神の中にもつと説いた。著「真理の探究」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルブランシュ」の意味・わかりやすい解説

マルブランシュ
まるぶらんしゅ
Nicolas de Malebranche
(1638―1715)

フランスの哲学者。パリに生まれ、ソルボンヌ大学で神学を学ぶ。1660年アウグスティヌス主義にたつオラトワール会に入る。1664年司祭。同年、偶然デカルトの著作を読み、哲学的使命を自覚する。10年後『真理の探究』を世に問い、以後『キリスト教的対話』(1677)、『自然と恩寵(おんちょう)』(1680)、『形而上(けいじじょう)学と宗教に関する対話』(1688)、『神の存在をめぐるキリスト教哲学者と中国の哲学者との対話』(1708)などを次々と刊行した。万象は神の媒介によって生じるもので、たとえば物体相互の接触や心身の変化は神の作用の「機会」にすぎないという「機会原因論」を主唱した。そして彼はこの立場から、アウグスティヌス神学とデカルト哲学との総合を企て、壮大な形而上学体系を構築した。認識論的には、アウグスティヌスのイデア説を継承し、「われわれは万物を神のうちに観(み)る」と考える。彼によれば人間精神の物体認識は、神の理性における物体のイデア(叡知(えいち)的延長)の直観によって初めて可能になるとされた。また、唯一の作用原因たる神が「一般法則」によって世界を支配するが、この「一般法則」を分化実現する「機会原因」としての一定の役割が、心身問題のみならずすべての被造物にも認められ、摂理と自由の問題の解決が図られた。だが、キリスト教の教義や奇跡を法則によって合理的に説明する態度は、ボシュエやアルノーらとの激しい論争を生んだ。また彼は幾何学者、自然学者でもあり、『運動伝達論』などの業績で、1699年科学アカデミーの会員にも選ばれている。

[香川知晶 2015年6月17日]

『竹内良知訳『真理の探求』(1949・創元社)』『桂寿一著『デカルト哲学とその発展』(1966・東京大学出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マルブランシュ」の意味・わかりやすい解説

マルブランシュ
Malebranche, Nicolas de

[生]1638.8.6. パリ
[没]1715.10.13. パリ
フランスの哲学者,カトリック司祭。 1654~56年ラ・マルシュ学院で哲学を,56~59年パリ大学で神学を学び,60年オラトリオ会に入会,64年司祭。その頃デカルトの著作に衝撃を受け,哲学を志した。後年恩恵論争に巻込まれ,A.アルノーと激しい論争を展開した。 99年科学アカデミー会員。デカルト哲学の研究から出発し,アウグスチヌス,新プラトン主義の伝統を取入れ,信仰と哲学を統合したキリスト教哲学を樹立。一切の現象の真の原因を神にだけ認める偶因論の確立者であり,その原理は認識論的には「万物を神においてみる」という命題に要約される。主著『真理の探究』 De la recherche de la vérité (3巻,1674~78) ,『自然と恩恵について』 Traité de la nature et de la grâce (89) ,『形而上学と宗教についての対話』 Entretiens sur la métaphysique et la religion (88) 。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android