日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マルク(Herman Francis Mark)
まるく
Herman Francis Mark
(1895―1992)
オーストリア出身のアメリカの高分子物理化学者。5月3日、オーストリアのウィーンで生まれる。父はドイツ系ユダヤ人であったが、このことはのちに彼がアメリカへ移る原因となる。第一次世界大戦中はオーストリア軍の将校として各地に転戦、戦後ウィーン大学に戻り、学位を得たのち1922年春、カイザー・ウィルヘルム研究所(今日のマックス・プランク研究所)に入り、X線結晶解析の技術を修得、セルロースの構造研究を通じて徐々に高分子科学の道に入り、やがて1927年からルートウィヒスハーフェンにあるIG(イー・ゲー)社の繊維研究所でマイヤー所長とともに本格的な高分子研究を開始する。しかし、忍び寄るナチスの影のもとで、彼はひとまず母校のウィーン大学に移り、ここでも高分子研究の中心となったが、結局1938年ひそかにオーストリアを脱出、カナダへ亡命、2年後の1940年ニューヨークのブルックリン工科大学へ招かれ、ようやく安住の地を得て高分子学の研究に専念、1970年に至る同工大の黄金時代を築いた。この間1947年には、現在高分子学界で最高の権威をもつ雑誌『Journal of Polymer Science』を創刊、同工大では多数の後進を育成しつつ、つねに各国に飛んで全世界の高分子学者を組織するなど、まさに愛称「マルク・マフィアのゴッド・ファーザー」にふさわしい活動を続けた。
[中川鶴太郎]