マネーミュール(読み)まねーみゅーる(英語表記)Money mule

デジタル大辞泉 「マネーミュール」の意味・読み・例文・類語

マネー‐ミュール(money mule)

《「ミュール」は動物ラバのこと。米俗語で麻薬等の運び屋の意がある》不正な資金外国への送金を、そうとは知らずに代行させられる人。また、それを利用したマネーロンダリング手口をいう。
[補説]犯罪組織が不特定多数第三者に、「お金を海外に送金するだけで報酬が得られる」といった内容の電子メールを送りつけるなどして勧誘する。

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知恵蔵 「マネーミュール」の解説

マネーミュール

ミュール(Mule)とは、英語でラバ(ロバウマ交配種で、温和かつ頑健であるため役畜として使われる)のこと。「お金を運ぶラバ」すなわち、不正資金の海外送金などを、犯罪に加担する自覚なく実行させられている者、もしくはその手法のことをいう。
犯罪や不法行為などで不正に得た資金を洗浄する「マネーロンダリング」の方法としては、架空取引などで何度も送金を繰り返して出所をくらますなどの手法が知られている。しかし、テロ対策強化などにより架空口座の開設が困難になり、各国政府間による「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)」の勧告などから、犯罪組織自身による資金洗浄は困難になってきた。このため、犯罪組織とは全く無関係の第三者を利用し、「仕事」と偽って一定の手数料を支払い、第三者に海外送金を代行させるという手口が現れた。これをマネーミュールという。
警視庁によれば、インターネットの求人サイトなどで「日本の客から海外送金するアルバイト」などとして誘って「雇用契約」を結ばせるという。その後、応募した人の口座に数十万円単位の入金があり、指示された外資系資金移動業者などを使って海外送金する。この時差し引いた手数料が応募者の収入になる。一見すると、応募者は「簡単な仕事」をしているだけのように思われる。しかし、インターネットバンキングに対する不正アクセスで、応募者に送金されたものであるなど、「知らず知らず」に犯罪行為に加担させられる。不正の事実が司直の手によって明かされても、募集や指示のメールアドレスは架空の名義であったり、送金先は業者の送金システム上特定できなかったりと、犯罪者の所在はたどれないようになっていることが多い。警視庁などは「知らなかったでは済まない」と、このような案件についての相談や情報提供を呼びかけている。

(金谷俊秀  ライター / 2014年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マネーミュール」の意味・わかりやすい解説

マネーミュール
まねーみゅーる
money mule

犯罪によって得た収益のマネー・ロンダリング(資金洗浄)に利用される運び屋、あるいはそうした者を使った手口。ミュールはラバ(ロバと馬をかけ合わせたおとなしい家畜)を表す英語で、マネーミュールは「不正資金のおとなしい運び屋」を意味する。犯罪組織が、海外に設置されたサーバーから携帯メールなどを通じてアルバイトを勧誘し、「週に数時間働くだけで高額の報酬が得られる」などの売り文句に反応した者に対して個別に業務内容を説明する。身分証明書などの個人情報を雇用主に提示させて雇用契約を結んだ上で犯罪資金の送金業務を行わせる。具体的には、契約者の銀行口座に資金を振り込み、それを指定した海外口座に送金させるというものである。マネーミュールは犯罪収益移転防止法違反にあたり、2014年(平成26)1月以降、警察は複数の容疑者を逮捕している。

[編集部]

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