マドラス(英語表記)Madras

翻訳|Madras

精選版 日本国語大辞典 「マドラス」の意味・読み・例文・類語

マドラス

(Madras) 「チェンナイ」の旧称。

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デジタル大辞泉 「マドラス」の意味・読み・例文・類語

マドラス(Madras)

チェンナイの旧称。

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改訂新版 世界大百科事典 「マドラス」の意味・わかりやすい解説

マドラス
Madras

インド南部,タミル・ナードゥ州北端部に位置する同州の州都。ベンガル湾に面するコロマンデル海岸港湾都市。人口434万3645(2001),大都市域人口656万0242(2001)。地名は,1639年にイギリスが在地領主から取得した漁村集落の名称マドラサパトナムMadrasapathnamに由来するが,1996年,タミル語による呼称のチェンナイChennaiに改称された。市の南部には16世紀中期以来ポルトガルのインドにおける根拠地の一つとなったサン・トメSan Thomé(イエスの十二弟子の一人トマスが福音伝道のためインドに来住し,殉教後ここに埋葬されたという伝承をもつ)があるが,現在の市の直接的な起源は1639年に始まる。同年イギリス東インド会社は,コロマンデル海岸における根拠地マスリパタムがゴールコンダ王国に脅かされるに至ったため,同地に代わる新たな根拠地として,マドラサパトナムを取得した。翌40年にはフランシス・デイによって,中央の商館を取り囲む二重の城壁をもつ要塞の建設が開始された。要塞は54年に完成し,イングランド守護聖人にちなんでセントジョージ要塞と名づけられた。以後,同要塞はボンベイ(現,ムンバイー)やカルカッタ(現,コルカタ)に先立つイギリスのインド支配の拠点となった。当初,東インド会社は30年間免税の特典を与えてインド人の来住を奨励した。これにより1640年末には300~400家族の近在農村の伝統的な綿織物技術をもったインド人織布工や商人が同要塞北方に来住し,集落を形成した。そこはチェンナパトナムと呼ばれ,現在の市名チェンナイの語源となった。1660年ころにはサン・トメのポルトガル人も来住した。17世紀末には,マドラスはセント・ジョージ要塞内の白人居住地区ホワイト・タウン,その北方のインド人居住地区ブラック・タウンの二つからなり,ともに別個の囲壁によって囲まれていた。18世紀中期には市街地はブラック・タウンを越えて北方と北西方の背後地に拡大していった。しかしその頃からマドラスは,ポンディシェリーを根拠地とするフランス,またマイソールのハイダル・アーリーの軍勢によりしばしば攻撃され,1746年にはフランス軍により占領されたこともあった。

 第4次マイソール戦争の勝利後,1801年に南インドの英領化が達成されるとともに,マドラスは,コロマンデル海岸沿いに現在のオリッサ州南東端にまで延びる広大なマドラス管区の主都となった。19世紀中期からは中心部の都市的整備も進み,セント・ジョージ要塞とブラック・タウンとの間に介在する砲撃用空地を充塡して,高等法院(1844),医科大学などの公共建造物が建設された。1851年にはマドラス博物館,57年には大学が設置された。1856年からは南インド各地への鉄道の開通,71年の下水道整備,96年にはブラック・タウン東面での築港工事などが相次いだ。その結果,20世紀初めには現在のマドラス中心部の景観がほぼできあがった。人口も1871年には36万8000,1901年には55万3000となり,1941年には88万1000に達した。市街地もクーバム河口を挟んで南北に連なる海岸砂丘上だけでなく,背後の後背湿地や沖積平野へと広がっていった。インド独立後の56年の言語別州再編により成立したマドラス州(1968年にタミル・ナードゥに改称)は,英領下のマドラス州よりも州域を大幅に縮小され,マドラスはその北辺に偏在することになった。しかし依然として南インドの経済・文化における中心的地位を保っている。人口も1951年には141万6000と100万人の大台を超えた。

 現在もセント・ジョージ要塞は,州庁舎の所在地として行政中心の役割を果たしている。要塞内には1680年奉献のセント・メアリー教会堂(インド最古の英国国教会の教会堂)のほか,東インド会社のR.クライブやE.イェール(のちにその資金援助によりアメリカのイェール大学に名をとどめた)が居住した兵舎が残っている。要塞の北に連なるジョージ・タウン(1906年のイギリス皇太子の来印を記念してブラック・タウンを改称)は,諸バザールの集まる商業地区で,なかでも南西端のマドラス中央駅から北東に延びるチャイナ・バザールは各種小売店舗が並ぶショッピング・センターである。ジョージ・タウンの東面には港湾,西面にはバッキンガム運河と鉄道貨物駅の輸送施設が立地する。マドラス港は,対東南アジア貿易の拠点である。同港からは,なめし革,コーヒー,茶,羊毛,白檀などの農林畜産物,クロム,マグネサイト,雲母などの鉱産物が輸・移出され,鉄鋼,機械,薬品,石油製品などの工業製品が輸・移入される。マドラスの商業機能は,当初はイギリス人とともに来住したマールワール,グジャラートなどの北西インド出身者により担われていたが,いまではタミル人に代替されている。

 セント・ジョージ要塞とジョージ・タウンから放射する諸道路に沿って,とりわけやや高燥な南および南西方向に住宅地が広がっている。海岸沿いを南に延びるのがカーマラージ・サーライ(旧マリーナ・ビーチ)道路で,マドラス第一の美しい道路である。住宅地は同道路がサン・トメを経てアディヤール川を越えた同川南岸部にまでも広がる。この南岸部は高級住宅地で,1875年にニューヨークで設立された神智教会の本部と図書館がある。セント・ジョージ要塞から南西に走る道路がアンナー・サーライ(旧,マウント)道路で,沿道には近代的な商業施設,事務所ビル,映画館が並ぶマドラス第一の目抜き通りである。工業は,旧市域内の各種工場のほか,近郊の工業団地に近代工業が立地している。そのおもなものは,北部の化学肥料,トラック,精油所,西部のタイヤ,自転車,南西部の自動車,映画スタジオなどである。このような諸工業の発達によりマドラスは工業都市へと変貌しつつあるが,市中はなお緑多い景観を保っている。
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マドラス博物館は1851年に創立されたタミル・ナードゥ州立の総合博物館で,地理,考古,人類,植物,動物などの部門からなる。考古学部門で最も注目されるのはアマラーバティー出土の仏教彫刻であり,その他パッラバ朝のヒンドゥー教やジャイナ教の彫刻,チョーラ朝の青銅彫刻,南インド各地の銅板刻文も重要である。同じ敷地内の国立美術館は細密画と青銅彫刻の収集で知られている。またセント・ジョージ要塞にあるフォート博物館は東インド会社関係の遺品を所蔵する。
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百科事典マイペディア 「マドラス」の意味・わかりやすい解説

マドラス

インドのデカン半島南端部,コロマンデル海岸の港湾都市。タミル・ナードゥ州の州都。1996年チェンナイChennaiと改称。ムンバイ(ボンベイ),コルカタ(カルカッタ)に次ぐ貿易港で,綿花,皮革,油料種子を輸出。繊維,化学,皮革,機械などの工業が行われる。大学(1857年創立),博物館,天文台がある。1639年イギリス東インド会社が創設,セント・ジョージ要塞(現在の州庁舎)を築いてインド進出の足がかりとした。のち貿易港として発展。468万1087人(2011)。
→関連項目マハーバリプラム

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「マドラス」の解説

マドラス
Madras

インド南部,コロマンデル海岸沿いの都市。タミル・ナードゥ州の州都。現在の正式名称は現地語名のチェンナイ(Chennai)。1639年,イギリスが,ポルトガルの拠点サントメの北部にあるマドラサパトナム(マドラスの語源)を取得し,要塞を築いた。以降,イギリス貿易の根拠地となり,人口が流入し,商工業が発展した。19世紀以降は,カルカッタボンベイと並ぶイギリス植民地の管区都市として栄え,政治,経済,文化活動の拠点となった。インド独立後は,マドラス州(1968年以降はタミル・ナードゥ州)の州都。

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旺文社世界史事典 三訂版 「マドラス」の解説

マドラス
Madras

インド南東端部の州,およびベンガル湾に臨むコロマンデル海岸にある港湾都市で,同州の州都
1640年にイギリス東インド会社が土侯から譲り受け,城塞を構築。18世紀半ばには一時フランスに占領されたが,すぐ返還され,イギリスのインド支配の拠点の1つとして繁栄した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マドラス」の意味・わかりやすい解説

マドラス

チェンナイ」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のマドラスの言及

【タミル・ナードゥ[州]】より

…面積13万km2,人口5586万(1991)。州都はマドラス。州公用語はタミル語で,住民の大半がドラビダ系のタミル民族である。…

※「マドラス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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