マツヨイグサ(読み)まつよいぐさ

改訂新版 世界大百科事典 「マツヨイグサ」の意味・わかりやすい解説

マツヨイグサ (待宵草)
Oenothera stricta Ledeb.ex Link

アカバナ科越年草。南アメリカのチリ原産。1851年(嘉永4)ころ,日本に移入され観賞用に栽培されていたが,大正時代以後,北海道を除く暖帯地方の各地に野生化した。花は黄色,夕刻に開き,翌朝しぼんで紅色になる。

 竹久夢二が1912年に発表した〈待てど暮らせど来ぬ人を宵待草(よいまちぐさ)のやるせなさ……〉の歌詞は有名であるが,正しくは待宵草とすべきものであった。

 茎は高さ30~90cm,上方でまばらに分枝し,葉は多数が互生し,披針形,無柄,中肋は白色で縁にあらい鋸歯がある。花は径約3cm,花柄はなく,萼裂片および花弁は4枚ずつ,おしべは8本,めしべは1本で子房は下位で4室,花柱は4裂,胞間裂開の蒴果(さくか)を結ぶ。

 マツヨイグサ属Oenotheraは,約80種があり,主として北アメリカの温帯地方に自生し,西インド諸島および南アメリカに少数種がある。マツヨイグサのように,ヨーロッパやアジアの温帯地方で観賞用に栽培され,逸出し,帰化した種類が多い。アカバナ科の中では,葉がいずれも互生し,花が4数性,果実が蒴果であることを特徴とする。花は白色,黄色,紅紫色など種類によってさまざまであり,多くは夕刻に開き翌朝にはしぼむので,一般にはツキミソウと総称され,英語でevening primrose(夕闇のサクラソウの意)と呼ばれる。マツヨイグサの仲間は,古くから細胞学的な研究対象としても知られているが,細胞分裂に異常を生じやすく核型は多形であり,併せて雑種をつくりやすいこともあって外形的にも変化が大きく,分類はなかなか難しい。

 日本ではマツヨイグサやツキミソウをはじめ,20種近くが栽培されたり帰化しているが,ふつうに見られるものに次のものがある。

 オオマツヨイグサO.erythrosepala Borb.(英名large-flowered evening primrose)は,明治初年ころに日本に渡来し,全国的に河原や海浜に群生していたが,現在ではアレチマツヨイグサなどに置き代わられてめっきり少なくなり,むしろ山間部に散見されるようになった。草丈は1.5m,花は黄色で径8cm内外,花柱がおしべより長い。ド・フリースの突然変異説の研究材料として有名であるが,その由来は必ずしも明らかではなく,北アメリカ産の種類をもとに,ヨーロッパで作出された園芸植物と推定されている。

 メマツヨイグサO.biennis L.は,明治時代の中ごろに渡来した。花径は1.5~3cm,開花時の花弁は互いに重なり合い,花柱はおしべとほぼ同高である。さらに花が小さく,開花時の花弁の重なりが部分的で花弁の間にすきまができるものがアレチマツヨイグサO.parviflora L.で,河原から山間部の荒廃地までいたるところに群生している。しかし,これら両者間には中間的な形のものも多く,花期が進むにつれて花が小さくなったりするので,明確に分けるのは困難である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マツヨイグサ」の意味・わかりやすい解説

マツヨイグサ
まつよいぐさ / 待宵草
[学] Oenothera stricta Ledeb.

アカバナ科(APG分類:アカバナ科)の越年草。茎は直立し、高さ50~90センチメートル。根出葉、茎葉ともに披針(ひしん)形で、中央脈が目だつ。7~8月の夕方、葉腋(ようえき)に鮮黄色花を1個開き、翌朝しぼんで黄赤色となる。花冠は径4~5ミリメートル、花弁は倒卵形で、先端はへこむ。萼片(がくへん)4枚は披針形で2枚ずつ癒合し、開花時は強く反り返る。雄しべは8本。雌しべは1本で先端は4裂し、子房は円柱形で毛がある。蒴果(さくか)は熟すと4裂し、種子を放つ。種子は粘り気があり、他物について散布する。南アメリカ原産の帰化植物で、日本には江戸時代に渡来した。川原などに野生化し、観賞用に栽培される。名は、夕方に開花するのでいう。

 マツヨイグサ属はすべてアメリカ原産で約130種あり、日本に約14種帰化する。おもなものは、全体が大形で花も大形、しぼんでも変色しないオオマツヨイグサ、北アメリカ原産で道端や荒れ地に生え、草丈は高いが花は小さく、葉脈は紅色を帯びるメマツヨイグサO. biennis L.、同じく北アメリカ原産で砂地に生え、草丈も花も小形のコマツヨイグサO. laciniata Hillなどがあり、一般にツキミソウ、ヨイマチグサと総称される。日本でよく繁殖し、形態の変異が大きい。

[小林純子 2020年8月20日]


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百科事典マイペディア 「マツヨイグサ」の意味・わかりやすい解説

マツヨイグサ

アカバナ科の多年草。南米原産の帰化植物で,嘉永年間に渡来。川原や土手などにはえる。茎は直立し,高さ70cm内外,線形の葉を互生する。5〜7月葉腋に径約5cmの柄のない花を1個つけ,夕方開いて翌朝しぼみ黄赤色に変わる。花弁は4枚,鮮黄色。近縁のオオマツヨイグサは明治初期に帰化したが,原産地は不明。川原や海岸の砂地などにはえる。二年生で茎は太く,高さ約1m,長楕円状披針形の葉を互生する。根出葉はロゼットを作って越冬。花は黄色で径約8cm,6〜7月の夕方に開く。そのほか北米原産のメマツヨイグサ,コマツヨイグサなどが帰化している。一般にマツヨイグサの類をツキミソウとも呼ぶが,本来のツキミソウはこれに近縁で白い花が夕方に咲く北米原産の二年草。江戸時代には栽培されたが現在は見られなくなった。

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世界大百科事典(旧版)内のマツヨイグサの言及

【ツキミソウ(月見草)】より

…メキシコ原産で,日本には嘉永年間(1848‐54)に渡来したといわれるが,現在ではほとんど栽培されていない。一般にいうツキミソウは本種ではなく,同属の帰化植物として広く分布する黄色花のマツヨイグサやオオマツヨイグサを誤称していることが多い。 高さ60cmぐらいとなり,まばらに分枝する茎を直立し,あらい鋸歯のある披針形の葉を互生する。…

※「マツヨイグサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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