マックス・ハーフェラール(英語表記)Max Havelaar

世界大百科事典 第2版 の解説

マックス・ハーフェラール【Max Havelaar】

オランダの小説家ダウエス・デッケルが,植民地官吏として西ジャワで勤務した体験をもとに,ムルタトゥーリという筆名で1860年に発表した小説。この小説は,19世紀半ばのオランダ植民地官吏と原住民首長の過酷な収奪の実態を暴露したものとして,オランダ本国に深刻な衝撃を与え,当時の植民地政策である強制栽培制度を廃止に導く一つの契機になったといわれる。また,この小説に描かれた〈サイジャとアディンダの悲恋物語〉は,過酷な支配に抵抗して死んでいく若者の生涯を写して,後のインドネシア民族主義者に強い影響を及ぼした。

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世界大百科事典内のマックス・ハーフェラールの言及

【インドネシア】より

…オランダは30年以降ファン・デン・ボス総督のもとで〈強制栽培制度〉を施行し,ジャワの土地と農民支配を本格的に開始した。圧制の典型として後世に伝えられるこの制度のもとで,農民は小説《マックス・ハーフェラール》(ムルタトゥーリ作。1860)中に描かれるような責め苦にあえいだが,オランダ本国はことにコーヒー栽培を通じて莫大な富を獲得した。…

【オランダ】より

…とはいえ,イギリス,ドイツ,フランスのような文化大国に囲まれてそれらの影響下にあったことは否定できない。1860年,E.ダウエス・デッケルがムルタトゥーリの筆名で《マックス・ハーフェラール》を発表して東インド植民地における過酷な搾取の実態を批判して衝撃を与え,85年詩人クロース,フェルウェー,批評家L.ファン・デイッセルらが《新道標Nieuwe Gids》を創刊して新文学建設の旗手になった。〈80年代の運動〉と呼ばれる文芸復興以後,100年の間オランダは優れた詩人,散文作家,劇作家を多数輩出したが,残念ながらオランダ語という言語の壁に阻まれて作家も作品も国際的な知名度は高くない。…

【ムルタトゥーリ】より

…ダウエス・デッケルがみた植民地の現実は苛酷な搾取と住民の悲惨な窮乏であり,現地人支配者の頂点に立つオランダの植民地官吏の不正と横暴であった。彼は帰国後貧困のうちに,彼自身を主人公とした小説《マックス・ハーフェラール》をムルタトゥーリの筆名で発表し(1860),ルバック郡住民の惨状を描写して強制栽培制度を弾劾し,オランダ人の良心に衝撃を与えた。この小説をきっかけとして,強制栽培制度は自由主義的,人道主義的な強い批判を浴びしだいに廃止され,オランダは自由主義政策にもとづく,より合理的な収奪をめざす新しい植民地支配へと脱皮した。…

※「マックス・ハーフェラール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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