マタタビ(読み)またたび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マタタビ」の意味・わかりやすい解説

マタタビ
またたび
[学] Actinidia polygama (Sieb. et Zucc.) Maxim.

マタタビ科(APG分類:マタタビ科)の落葉藤本(とうほん)(つる植物)。茎には白い髄が詰まる。葉は互生し、広卵形または楕円(だえん)形で長さ4~15センチメートル、基部は円形。若いつるの先の葉は白色となり、目だつ。雌雄異株であるが両性花もあり、初夏、径約2センチメートルの白色花を腋生(えきせい)する。雄花は1~3個が集散花序をなし、多数の雄しべと退化した1本の雌しべがある。雌花は単生し、中央に花柱が多数に裂けた雌しべがあり、周りには短く退化した雄しべがある。果実は長楕円形の液果で長さ約3センチメートル、先はくちばし状にとがり、8~9月に黄色に熟す。種子は多数。日本全土の低山に生え、千島樺太(からふと)(サハリン)、および朝鮮半島に分布する。名はアイヌ語のマタタムブに由来する。果実は塩漬けで酒肴(しゅこう)に、若芽も食用とする。

 マタタビ属は東アジアの亜熱帯から温帯に約60種分布する。よく知られるキウイフルーツも本属の植物である。

[杉山明子 2021年4月16日]

薬用

果実にタマバエの1種マタタビミタマバエが寄生して虫こぶをつくる。漢方ではこれを木天蓼(もくてんりょう)と称し、漢方薬および民間薬とし、体を温め、腹痛や腰痛に用いる。また、煎(せん)じたり、粉末にして内服したり、薬酒(天蓼酒と称する)をつくって服用する。植物体全体にはマタタビラクトンアクチニジンなどの成分を含み、ネコの薬として貴用される。

[長沢元夫 2021年4月16日]

文化史

果実は縄文人も食用したようで、福井県鳥浜貝塚の前期、青森県亀ヶ岡(かめがおか)遺跡の中期地層から種子が出土している。『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918)に和多々比(わたたひ)、『延喜式(えんぎしき)』(927)に和太太備(わたたび)の名で出ている。貝原益軒は『菜譜(さいふ)』(1704)で、葉も実も食べられ、好事(こうず)の者が葉を取り去り、花を花瓶に挿すと述べている。『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』には2、8月(旧暦)植え替え、3、4月に挿木で殖やすと書かれ、当時栽培されていたことがわかる。『広益(こうえき)地錦抄』(1719)では「花形梅花に似て白し、珍賞すべし」の記述とともに、ネコが好むので、厳しく囲わないと、集まって食い切り、木を枯らすと、注意を促している。ネコをひきつける成分のマタタビラクトンはモノテルペン系のラクトンで、イリドミルメシン、ジヒドロネペタラクトンなどの混合物である。同じくモノテルペン系のアルカロイドのアクチニジンもネコに麻痺(まひ)効果がある。モノテルペン系のアルコールであるマタタビオールは昆虫のクサカゲロウの雄を誘引する。

 中国では古くから薬用とし、『唐本草』は、癥結(ちょうけつ)(血塊)、積聚(しゃくじゅ)(血液、粘液、胆汁などによる腹のしこり)、風労(咳(せき)と汗を伴う感冒)、虚冷(きょれい)(正常でない冷え)に、茎を細かく切って醸して飲む用法をあげている。

[湯浅浩史 2021年4月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「マタタビ」の意味・わかりやすい解説

マタタビ
silver-vine
Actinidia polygama Sieb.et Zucc.

日本の山野に自生する雌雄異株のマタタビ科の落葉つる性木本。高さ5mくらいとなり,若枝には柔毛がある。葉は互生し,膜質で,広卵形または卵状長楕円形,長さ8~14cm,先端はとがり,基部は円く,縁に低い鋸歯があり,両面は無毛または脈上に硬質の毛がある。花期は6~7月。雄木では,花の咲く時期になると葉の上半部または全部が白色に変化するという特異な現象が見られる。雄花は腋生(えきせい)の集散花序にふつう3個つき,雌花は葉腋に単生して,どちらも径2cmくらいで,下垂し,梅の花に似ている。果実は液果で,長楕円形または卵円形で先端はくちばし状に細くなり,長さ2~2.5cm,径約1cm,黄熟し,食べると辛味がある。この果実にマタタビミタマバエが寄生すると,表面がでこぼこした虫こぶができる。これを集め,熱湯をそそぎ乾燥したものが生薬の木天蓼(もくてんりよう)で,体を暖めるのに用いられる天蓼酒をつくる。果実はまた,生食または塩蔵して食用とし,新芽は山菜とする。ネコ科の動物はこの植物をひじょうに好み,これをかじって酔ったようになる。本種に近いミヤママタタビA.kolomixta Maxim.はマタタビに似ているが,葉の基部は心形で,小枝の髄は階段状(マタタビにはそのようなすきまはない)となるので区別できる。マタタビより北方に分布し,日本(北海道~四国),朝鮮,中国,シベリアに見られる。サルナシA.arguta Planch.(別名コクワ)はマタタビよりも幅広く,光沢のある葉を有する落葉つる性木本で,果実は円卵形,径1.5~2cmになり,熟しても緑色だが芳香と甘味があって美味である。日本から中国東北地方に分布する。またマタタビ科で直立の低木となり,長さ10~28cmの倒披針状長楕円形の葉を有するタカサゴシラタマSaurauia oldhamii Hemsl.は琉球(石垣島,西表島),台湾に分布している。

 マタタビ科Actinidiaceaeは3属約300種からなり,熱帯,亜熱帯に種類が多いが,温帯に分布するものもあり,つる性となるものが多い。この科に属するキーウィフルーツは中国原産のシナサルナシA.chinensis Planch.がニュージーランドで品種改良され,果樹に育成されたものである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マタタビ」の意味・わかりやすい解説

マタタビ
Actinidia polygama

マタタビ科の落葉性つる植物でナツウメともいう。日本各地とサハリン,朝鮮半島の温帯の山地に生える。枝は褐色で長く伸び,中心に白色の髄が詰っていて,柄のある葉を互生する。葉は長さ6~15cmの卵円形で先端はやや尾状にとがり,縁には浅い鋸歯がある。夏に,葉の表面が白色になる特徴がある。7~8月に,葉腋に白色で芳香のある花を下向きにつける。雄花,雌花および両性花がある。雄花は集散花序をなして通常3個つけ,雌花は単生し,めしべの柱頭は多数に裂ける。果実は長さ2~3cmの先のとがった長楕円形の液果で,辛みがあり,食用または薬用にされる。ネコをはじめネコ属の動物が本種を特異的に好み,かじると酔ったようになるので有名である。

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百科事典マイペディア 「マタタビ」の意味・わかりやすい解説

マタタビ

マタタビ科の落葉つる性木本(もくほん)。日本全土の山地にはえる。葉は卵円形で先がとがり,縁には鋭い鋸歯(きょし)がある。雄株と両性花の株とがある。雄株の葉は開花期に表面が白色に変わる。6〜7月,新枝の上部の葉腋にウメに似た5弁花を下向きに開く。花は白色で径2〜2.5cm。果実は長楕円形で先が細まり,長さ約2.5cm,9〜10月,黄熟し食べられる。全木をネコ科の動物が好み,食べると一種の酩酊(めいてい)状態となる。

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世界大百科事典(旧版)内のマタタビの言及

【ネコ(猫)】より

…また〈猫舌(ねこじた)〉は,猫が熱い食物をきらうところから,熱いものを食べたり飲んだりすることができないことをいい,〈猫舌も有ると宿取り念を入れ〉という句もある。なお,マタタビは猫の好物として有名で,《貝おほひ》に〈さかる猫ハ気の毒たんとまたゝびや〉という句がある。肉食の猫類が植物のマタタビに強い感受性を示すのは,それが性的な何かと関係があると考えられている。…

※「マタタビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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