マスト細胞(読み)マストさいぼう

精選版 日本国語大辞典 「マスト細胞」の意味・読み・例文・類語

マスト‐さいぼう【マスト細胞】

〘名〙 (マストはMast 肥え太った意) =ひまんさいぼう(肥満細胞)

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デジタル大辞泉 「マスト細胞」の意味・読み・例文・類語

マスト‐さいぼう〔‐サイバウ〕【マスト細胞】

mastocyte》⇒肥満ひまん細胞

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内科学 第10版 「マスト細胞」の解説

マスト細胞(アレルギーに関与する細胞・分子)

(2)マスト細胞
 マスト細胞は,起源としては骨髄由来であり,未熟な段階で骨髄を離れて組織に移行し,末梢組織中で成熟する.皮膚粘膜血管周囲に多く存在し,外界あるいは体内の変化に呼応しやすい局在である.マスト細胞と好塩基球とは互いに移行しあうことはないが,両細胞とも細胞表面にFcεRIを多数発現しており,IgEを結合した状態にある.抗原によりIgEが架橋されると細胞は直ちに活性化され,マスト細胞においては分の単位で脱顆粒ヒスタミンなど)が起こり,ついで脂質メディエーター産生(LTC4,PGD2など),サイトカイン産生が起きる.
 IgEあるいはマスト細胞が欠損したマウスにおいては,ある種の寄生虫感染に対する排除機構に障害がみられることから,IgEおよびマスト細胞は平常時から生体の感染防御作用を発揮していると考えられる.北村(大阪大学)の詳細な解析により明らかとなったマスト細胞欠損マウス(特に有名なのはstem cell factor(SCF)欠損マウスSl/SldとSCF受容体c-kit欠損マウスW/Wv)と,培養マスト細胞移入の手法を用いて,近年は疾患モデルにおけるマスト細胞の関与,そしてさらには,マスト細胞の特定分子の関与までも正確に調べることが可能となった.
 マスト細胞は,IgE依存性のアナフィラキシー反応においてケミカルメディエーターの産生源として中心的な役割を果たす.さらに,喘息においては,気管支粘膜生検あるいは喘息死患者の肺組織の検討から,粘膜におけるマスト細胞増加,そして近年は気道平滑筋層内にもマスト細胞が増加している(健常者ではほとんどみられない)ことが報告されており,マスト細胞が喘息病態と密接に関連していることが示唆されている.近年,抗IgE抗体が重症喘息に対して治療効果をあげていることは,この薬剤の主要な標的細胞と考えられるマスト細胞が喘息において重要な役割を果たしていることの傍証と考えられる.アレルギー性鼻炎,結膜炎じんま疹などの疾患でもマスト細胞は病態の中心に位置づけられる.アレルギー以外にも,関節リウマチ患者の滑膜組織,多発性硬化症における脳局所,特発性肺線維症,強皮症,ケロイドGVHD,動脈硬化プラークなど多彩な病態でマスト細胞は局所に集積あるいは脱顆粒していることが知られている.
 1970年代から,ヒト末梢血好塩基球の表面IgE量と血液中のIgE濃度とが強い正の相関を有することが知られていたが,その後,IgE自体がマスト細胞や好塩基球のFcεRI発現量を制御し数十倍にも増加させることが示された.その機序としては,細胞表面FcεRIがIgE結合により安定化し,細胞内への取り込みが極度に減少して細胞表面に蓄積するためである.FcεRI発現の高まったマスト細胞を用いた解析では抗原刺激に対する反応強度,感度がともに亢進している.通常の血液中IgE濃度の範囲(ng/mL~μg/mLのオーダー)では,マスト細胞において表面FcεRI(IgEが結合)は周囲の遊離IgEよりもはるかに高密度に濃縮されて存在しており(図10-22-4),いずれのIgE濃度においても細胞表面IgEは鋭敏な抗原センサーの役目を果たしている.抗原到来時には,きわめて低濃度で浮遊する遊離IgEによっては中和されずに,容易にマスト細胞や好塩基球の表面IgEに結合して細胞活性化に至る.IgEを標的分子とする治療戦略は,マスト細胞や好塩基球へのIgE結合を遮断するだけでなく,FcεRI発現減少を介して細胞の反応性を低下させる.[山口正雄]
■文献
Barnes PJ: New therapies for asthma: is there any progress? Trends Pharmacol Sci, 31: 335-343, 2010.
Hsu FI, Boyce JA: Biology of mast cells and their mediators. In: Allergy: Principles and Practice, 7th ed (Adkinson NF Jr, Bochner BS, et al eds), pp311-328, Mosby, Philadelphia, 2009.
羅 智靖:マスト細胞:感染防御の最前線からアレルギーまで.アレルギー病学(山本一彦編),p55-63,朝倉書店,2002.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マスト細胞」の意味・わかりやすい解説

マスト細胞
ますとさいぼう
mast cell

結合組織の細胞で、強い好塩基性をもち本来の色素の色と違った染色を示す丸い粗大顆粒(かりゅう)を多量に含む。マストは肥え太ったという意味で、肥満細胞ともいう。ドイツの細菌学者P・エールリヒが、組織の栄養を顆粒の形で蓄えている細胞という意味でこの名をつけたが、実際はそうではなく、顆粒内にはヒスタミンとヘパリンが含まれている。マスト細胞は魚類以上の脊椎(せきつい)動物の結合組織中に散在し、組織に加えられた機械的あるいは化学的な刺激、異種タンパクなどのアレルギー毒に敏感で、それらに触れると顆粒を細胞外へ放出する。ヒスタミンは血管の透過性を高め組織の代謝活動を円滑にするが、過剰になると組織に浮腫(ふしゅ)をおこさせたり、平滑筋をけいれんさせたりするなど、アレルギー様反応をおこさせることがある。

[新井康允]

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栄養・生化学辞典 「マスト細胞」の解説

マスト細胞

 →肥満細胞

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