日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ポーター(Katherine Anne Porter)
ぽーたー
Katherine Anne Porter
(1890―1980)
アメリカの女流小説家。テキサス州に生まれる。幼くして母親を亡くし、祖母に育てられる。1910年カトリックに改宗。1918年デンバーで新聞記者をしているとき、インフルエンザにかかり死の一歩手前までゆく。ニューヨークに出たのち、1920年メキシコに行き、革命に直面する。こうした体験が意識の流れの手法を織り交ぜた中編『蒼(あお)い馬、蒼い騎士』や、象徴的な短編『花咲くユダの木』をはじめ、メキシコを舞台とする芸術的完成度の高い作品となる。1931年ドイツの客船に乗ってナチス台頭前夜のヨーロッパに行く。この体験が唯一の長編『愚者の船』(1962)を生んだ。国籍・宗教の異なる多数の登場人物の悲喜劇を通して、現代文明、人間性を鋭く揶揄(やゆ)する。寡作ながら、人間の本質を鋭く追求した気品のある作品を残し、90歳で世を去った。短編集『花咲くユダの木他』(1930)、南部の大家族制の神話のベールをはがした『古い人々』『昼酒』、表題作の3編の優れた中編を収めた『蒼い馬、蒼い騎士』(1939)、著者を思わせるミランダを主人公とする連作『古い秩序』を含む短編集『斜塔他』(1944)などがある。
[板橋好枝]
『尾形敏彦編『アメリカ文学の新展開・小説』(1983・山口書店)』▽『工藤昭雄訳『愚者の船』上下(1965、66・河出書房新社)』▽『小林健治・岡田田鶴子訳『花咲くユダの木』(1982・篠崎書林)』▽『E・H・ロペズ著、小林田鶴子訳『キャサリン・A・ポーター、自己を語る』(1984・大阪教育図書)』