ボーリング(試錐)(読み)ぼーりんぐ(英語表記)boring

翻訳|boring

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボーリング(試錐)」の意味・わかりやすい解説

ボーリング(試錐)
ぼーりんぐ
boring

地中坑井井戸)を掘ることを、ボーリングまたは試錐(しすい)とよぶ。

 ボーリングが行われる目的は、大深度地下(地下40メートルよりも深い部分)の地質構造や岩種分布状況あるいは鉱山における鉱床探査石油天然ガス地熱採取、温泉の掘削、および通気、排水、揚水、鉱山・土木の発破用孔掘削、土木工事でのセメント注入孔掘削、土壌・底質試料の採取などである。

 ボーリングの歴史はたいへん古く、紀元前1500年ごろトルコではすでに手掘りの水井戸を利用しており、その井戸跡が今日でも残っている。また1990年代以降は石油資源開発で利用される掘削技術の進歩が著しく、自由な方向に掘削できるコントロールボーリング技術などが開発されている。

[松岡俊文]

種類

掘削される坑井の孔径や深度は目的によって多種多様で、そのため種々のボーリング機械が使用されているが、それらは手動式、機動式、さらに穿孔(せんこう)機構によって衝撃式(綱式ボーリング)と回転式(ロータリー式ボーリング)などに大別される。

 衝撃式ボーリングは、ワイヤロープの先端に吊(つ)るされたビット(硬い刃)を一定の高さから自由落下させ、孔底を繰り返し打撃することによって地盤を破砕して、孔(あな)を鉛直下方にあけていく方法で、数百メートル以内の比較的浅いボーリングに用いられている。1839年ごろ、アメリカのI・M・シンガーが発明した蒸気チャーンドリルがこの種の最初の機械で、日本では同様の工法を用いる上総掘り(かずさぼり)とよばれる独特の方法が知られている。

 回転式ボーリングはもっとも普通に広く用いられている方法で、任意の方向に曲げて穿孔することができる。

 土質層の調査のために使用されるハンドオーガーは人力穿孔機で、ウォームオーガーあるいはアースオーガーとよばれる土壌掘削具を人力で地層に押し込み、土砂試料の採取が行われる。

寺田 孚・松岡俊文]

回転式ボーリングの方法

回転式ボーリングは、掘管(ほりかん)とよばれる鋼管を孔の深さによって適宜継ぎ足し、その先端にビットを取り付ける。地上ではロータリーテーブルとケリー(角張った管)を通じて掘管を回転させ、さらに先端のビットに適当な荷重(掘管の重量を利用)をかけておくと、ビットが回転するとき岩石が効果的に破砕される。また中空の掘管に、水に粘土を懸濁させた泥水を地上のポンプで送り込む。泥水はビットの先端から出て掘管の外側を回り、地上にもどってふたたびポンプに入る。この循環する泥水は、ビットが砕いた掘屑(くっせつ)を坑底から地上に運んだり、泥水の比重を調整することで地層圧とのバランスをとって、油やガスの暴噴を防いだりする。さらに坑壁の崩壊を防いだり、掘管を上げ下げするときに坑壁との摩擦を減じたりと、ボーリング作業においては非常に重要な役目を果たす。

 回転式ボーリングに用いられるビットは穿孔地盤の硬さにより、メタルビット、ロックビット、あるいはダイヤモンドビットが選択使用される。メタルビットは刃先が超硬合金からなり、種々の形状のものがある。ロックビットは硬岩に用いられ、多数の突起のある数個の円錐形ローラーからなり、孔底面上を転がるときに突起によるくさび作用によって岩石を破砕するようになっている。ダイヤモンドビットは硬岩および超硬岩に用いられるもので、ダイヤモンドの粒を刃先部に植え込んだものと、細粒ダイヤモンドと金属粉末の混合物を真空焼結したものを刃先部としているものとがある。

[松岡俊文]

調査

通常ボーリングでは穿孔に伴って地下の地質調査が行われる。それらは、泥水検層(泥水中に含まれる油やガスの量や化学的性質を調べる)、カッティングス調査(掘屑から地層の岩種や含まれる化石などを調べる)、コアリング(地下の岩石そのものを掘り出す)、物理検層(地層の状態の物理化学的測定)などが知られている。

[松岡俊文]

水平掘削

1980年代後半より水平坑井の掘削が注目され始め、1990年代からの技術の飛躍的な発展により、地表と水平に長い距離(数キロメートル以上)の坑井掘削が可能となった。これは傾斜掘削技術の一種で、地下の目的位置の真上からボーリングできないときに必要となる技術である。傾斜角が90度近い、ほぼ地表と水平な井戸の掘削も可能となっている。石油や天然ガスの生産を目的に井戸を掘削する場合には、貯留層をなるべく長く通過するこのような水平掘削が効果的である。

[松岡俊文]

『藤下利男著『軟弱地盤におけるボーリング』(1963・山海堂)』『石川正夫著『トンネルボーリングマシン施工』(1969・日刊工業新聞社)』『通商産業省地質調査所試錐課編『図解ボーリング便覧』(1974・丸善)』『沖野文吉著『ボーリング用泥水』(1981・技報堂出版)』『岩松一雄著『地熱資源ボーリング「マニュアル」』(1991・築地書館)』『全国地質調査業協会連合会編『新版 ボーリングポケットブック』(1993・オーム社)』

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