ホーソン(読み)ほーそん(英語表記)Nathaniel Hawthorne

精選版 日本国語大辞典 「ホーソン」の意味・読み・例文・類語

ホーソン

(Nathaniel Hawthorne ナサニエル━) アメリカ小説家清教徒としての立場から、罪悪と良心の問題を、寓意的、象徴的に描いた。代表作緋文字」「ワンダーブック」など。(一八〇四‐六四

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デジタル大辞泉 「ホーソン」の意味・読み・例文・類語

ホーソン(Nathaniel Hawthorne)

[1804~1864]米国の小説家。清教徒的立場から、罪悪と良心の問題を象徴的に描いた。作「緋文字」「七破風の屋敷」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホーソン」の意味・わかりやすい解説

ホーソン
ほーそん
Nathaniel Hawthorne
(1804―1864)

アメリカの小説家。7月4日、マサチューセッツ州セーレムの旧家に生まれる。彼の作品はニュー・イングランドの地方色にあふれ、作者自身の清教徒的倫理感、過去に対する特殊な意識はその出身と無関係ではない(セーレムは魔女裁判で有名な港町。ホーソンの祖先には魔女裁判で裁判官を務めた者もいた)。4歳のとき父を失い、母の手で育てられたこと、9歳のとき足に傷を負い二年余り家にこもり生活を送ったことが彼の内省癖を強めたといわれる。メーン州ボードン大学を1825年卒業、故郷セーレムに戻り、以後第一短編集で世に出るまで10年余り、読書と創作に専念、散歩するにも夜を選ぶ孤独の生活を送る。24歳のとき、大学生活に取材した冒険ロマンス『ファンショー』を自費出版するが、失敗。その後文芸誌に短編、スケッチなど執筆。18編の小品を集めて第一短編集『トワイス・トールド・テイルズ』(1837)を出版。大学時代の同級生、詩人ロングフェローから賛辞を受け、着実に作家としての第一歩を踏み出した。

 そののち『トワイス・トールド・テイルズ』増補版(1842)、『旧牧師館の苔(こけ)』(1846)、『雪人形』(1851)を出版。生涯に発表した短編・スケッチは約100編に上る。34歳のとき、7歳年下のソフィア・ピーボディと婚約、38歳で結婚。彼女は芸術的天分が豊かで、彼の終生の好伴侶(こうはんりょ)となる。生活の安定を計り、1841年超絶主義者たちの実験村ブルック・ファームに参加するが、人間性のなかに善をみる彼らの楽天的思想とは相いれず離れる。またボストンとセーレムの税関にも勤めるが(1839~1841、1846~1849)、現実生活に追われると創作活動は不振になった。1849年、政変のため税関をやめてから、最初の長編小説『緋文字(ひもんじ)』(1850)を8か月で完成、一流作家の地位を確立した。1850年、メルビルがホーソンの作品を好意的に書評、これが契機となり、この2人の大作家の交友が始まる。このころ、創作力は絶頂期にあり、前記『雪人形』をはじめ長編『七破風(しちはふ)の屋敷』(1851)、児童文学の傑作『ワンダー・ブック』(1852)を出版。さらにブルック・ファームの体験を基に、官能的美女ゼノービアとその異母妹で可憐な少女プリシラ、理想を追うあまり人間性を失うホリングズワースの3人の心理的葛藤(かっとう)を作者の分身カバデルが語る仕組みの長編『ブライズデイル・ロマンス』(1852)を脱稿。1853年、第14代大統領に選ばれた大学時代の友人フランクリン・ピアースの好意で、リバプール領事となり4年間勤務、そののち一家でヨーロッパ旅行を楽しむ。そのときの見聞を基に、イタリアが舞台の長編『大理石の牧神像』(1860)が生まれる。牧神を思わせる無垢(むく)な青年ドナテロが、恋する神秘的女性ミリアムを救うため殺人を犯すというゴシック・ロマンス風の筋で、罪を犯しても苦悩を通じて高められれば、その罪は幸運ではないかという主題を扱っている。1860年帰国、南北戦争に心を痛め、心身ともに衰え、イギリス滞在記『われらの故郷』(1863)を発表したのみで、未完成作品を数編残し、1864年5月19日、旅先のプリマスで客死。

 ホーソンの作品は、いわゆるリアリズムではない。人間の心奥にひそみ、理性では捕捉(ほそく)しきれないものを、象徴的手法を駆使して表現しようとする「人間の心理を扱う物語(サイコロジカル・ロマンス)」(『雪人形』序)である。ことに人間の心の悪に深い関心を示し、ヘンリー・ジェームズら多くの作家に影響を与えた。彼は心の秘密の追究が他人の尊厳を侵す危険をはらむことを自覚し、それが彼の作品に複雑な陰影を添えている。

[島田太郎]

短編

彼の作品として確認されているのは、子供向けや『ピーターパーレーの万国史』(1837)掲載のものを除き90余編である。執筆は、1835年からの4年間に48、結婚(1842)後の3年間に22と二つの時期に集中し、作品の傾向も結婚の前後で異なっている。

[國重純二]

初期

初期の作品はなんらかの形で作者の生まれ故郷ニュー・イングランドの歴史と関係をもっているが、これは夢とも現実ともつかぬ内容にあらましの信憑(しんぴょう)性を与えつつ、想像力の飛翔(ひしょう)を保証するくふうであり、おかげで「現実的なものと想像的なものが出会う」中間地帯の創出に成功している。この系列には魔女裁判のあった時代を舞台に「認識の衝撃」の傷を引きずって生きた男を描いた『若いグッドマン・ブラウン』、独立戦争前の騒然たるボストンにおける典型的な人生開眼物語『ぼくの親戚(しんせき)モリヌー少佐』、インディアンとの戦争を背景に、戦友との約束を果たせなかった代償にひとり息子を自らの手で殺すはめになる男の悲劇『ロジャー・マルビンの埋葬』などがあり、総じてその結末は残酷なまでに厳しく、一度の過ちも許さない。

[國重純二]

結婚後

芸術家や科学者の悲劇を扱ったものに優れた作品が多い。顔の痣(あざ)以外にはまったく欠陥のない妻の痣を、科学者の夫が取り除くが妻は死ぬという『痣』には、完璧(かんぺき)を求めるロマンチックな夢への共感と同時に科学の行きすぎへの批判がある。毒草で育てられ「生きた毒」となった恋人を救おうと解毒剤を飲ませて逆に殺してしまう『ラパチーニの娘』は互いの不完全さを容認しあうことのたいせつさを説いている。『美の芸術家』は、俗世間と関係を断ち、想像力のなかで生きることに価値をみいだそうとする。いったいに後期の作品は「天上の幸福」より「地上の幸福」に比重を置くが、これは酷薄な現実を前にした純な魂のぎりぎりの選択、いわば断念による現実の超克であって、その現代性ゆえに地理的・時間的距離を越えてわれわれの心を打つ。

[國重純二]

『柏倉俊三訳『トワイス・トールド・テイルズ』(角川文庫)』『島田太郎他訳『大理石の牧神像』(1984・国書刊行会)』『H・ジェイムズ著、小山敏三郎訳『ホーソーン研究』(1964・南雲堂)』『大井浩二著『ナサニエル・ホーソーン論 アメリカ神話と想像力』(1974・南雲堂)』『酒本雅之著『ホーソーン 陰画世界への旅』(1977・冬樹社)』

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旺文社世界史事典 三訂版 「ホーソン」の解説

ホーソン
Nathaniel Hawthorne

1804〜64
アメリカのロマン主義小説家
ピューリタンの立場から良心と罪の意識を追求,暗い心理主義的作風をもつ。代表作『緋 (ひ) 文字』『ワンダー−ブック』。

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