ホスホニウム塩(読み)ホスホニウムえん(英語表記)phosphonium salt

改訂新版 世界大百科事典 「ホスホニウム塩」の意味・わかりやすい解説

ホスホニウム塩 (ホスホニウムえん)
phosphonium salt

アンモニウム塩に対応するリン化合物で,一般式PH4⁺X⁻,RPH3⁺X⁻,R2PH2⁺X⁻,R3PH⁺X⁻,R4P⁺X⁻(Rはアルキルまたはアリール基,Xはハロゲン)で表され,前4者はそれぞれPH3,RPH2,R2PH,R3Pとハロゲン化水素HXとの反応で合成され,R4P⁺X⁻は三級ホスフィンR3Pとハロゲン化アルキルRXとの反応で合成される。R4P⁺I⁻は酸化銀との反応で,強塩基であるR4P⁺OH⁻を生成する。ホスホニウム塩は一般に吸湿性が高い。PH4⁺X⁻はアンモニウム塩に比べ不安定で,水により成分に分解する。PH4⁺I⁻が最も安定である。モノ,ジ,トリアルキルホスホニウム塩は,加熱によりホスフィンRPH2,R2PH,R3Pとハロゲン化水素に分解する。R4P⁺X⁻とくに[(C6H53PCH2R]⁺型のホスホニウム塩はブチルリチウムなどの強塩基との反応でイリド(C6H53P⁺-C⁻HRを生成し,これはカルボニル化合物R1R2C=Oと反応してRCH=CR1R2型のオレフィンを生成するので(ウィティヒ反応),有機合成化学上重要である。
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化学辞典 第2版 「ホスホニウム塩」の解説

ホスホニウム塩
ホスホニウムエン
phosphonium salt

窒素のアンモニウム塩に相当するリンの[PH4]X型の塩(Xはハロゲン,またはそのほか陰イオン)をいう.PH4はNH4に比べて不安定で,塩基性も弱い.ヨウ化ホスホニウム(phosphonium iodide):[PH4]I(161.91).ジホスファンP2H4と黄リンの混合物を加水分解するか,二硫化炭素中で黄リンとヨウ素を反応させると得られる.無色の正方晶系結晶.ひずんだ塩化セシウム型構造.正四面体型のPH4を含む.P-H約1.02 Å.昇華点62.5 ℃(蒸気圧下の融点は18.5 ℃).微量の水またはアルコールの存在で分解してHIとホスフィンPH3になる.急に加熱すると爆発的に分解する.実験室でのPH3,ホスホニウム塩の合成原料に用いられる.[CAS 12125-09-6:[PH4]I]【】[PH4]XのHの全部または一部を炭化水素基Rで置換したものをアルキル(またはアリール)ホスホニウム塩(または略称して単にホスホニウム塩)という.このうち,H全部をRに置換した[PR4] Xを第四級ホスホニウム塩という.[PH4]IとRIとの反応で得られる.多くは吸湿性の固体で,比較的安定である.フェニルリチウムと反応してホスホランを生じる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホスホニウム塩」の意味・わかりやすい解説

ホスホニウム塩
ホスホニウムえん
phosphonium salt

一般式 [PH4]X で表わされる化合物,およびこの水素原子アルキル基またはアリール基で置換した化合物をいう (ここで X は1価の陰イオン) 。すなわちホスホニウム塩は,アンモニウム塩の窒素原子をリン原子に置き換えた化合物と考えることができる。ホスホニウム塩は一般に不安定で,加熱,アルカリなどによってホスフィンと酸とに分解するが,4個の水素が全部アルキル基などで置換された第四ホスホニウム塩は安定である。製法は,一般には対応するホスフィンに酸を作用させて合成するが,第四ホスホニウム塩は第三ホスフィンにハロゲン化アルキルなどを反応させて合成する。

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