ベンケイソウ(英語表記)Sedum alboroseum Baker(=S.erythrostictum Miq.)

改訂新版 世界大百科事典 「ベンケイソウ」の意味・わかりやすい解説

ベンケイソウ
Sedum alboroseum Baker(=S.erythrostictum Miq.)

ベンケイソウ科の多年生多肉植物で,高さ30~60cm,葉は卵形ないし楕円形で,長さ35~70mm,幅12~30mm,葉柄は短い。おしべ花弁より少し長い。花期は9月。栽培と野生の2型がある。栽培品種は中国から渡来し,葉はふつう対生,花は白桃色で,花序は下部の枝が長く伸びる。稔性は悪く,染色体数は2n=48,50。一方,野生型は本州,九州の山地にまれに産し,葉はふつう互生し,花は少し黄緑色をおび,花序は下部の枝が短い。稔性があり,染色体数は2n=46。オオベンケイソウS.spectabile Boreauは中国と朝鮮半島に産し,明治中ごろに日本に渡来した。株はベンケイソウよりがっしりしていて,葉は3輪生(若い株は対生)し,おしべは花弁の1.5倍の長さがあり,よく目だつ。日本産のベンケイソウ類はほかに4種あり,ミツバベンケイソウS.verticillatum L.は葉が3~4輪生する。アオベンケイS.viride Makinoは関東以西の山中の岩場にまれにはえ,葉は対生し,葉柄が著しく長い。チチッパベンケイソウS.sordidum Maxim.は本州の山地の樹上や岩上に着生し,葉は対生か互生で,しばしば赤色に染まる。上記の3種は花が黄緑色をおびる。ムラサキベンケイソウS.telephium L.(英名orpin(e))は日本では北海道だけに見られ,葉は無柄で,鋸歯は鋭く,花弁は赤紫色だが,縁は淡色で,萼は長く花弁の半分に達する。亜属を別にするイワベンケイ類は冬も枯れない地上茎があり,雌雄異株で,花は4数性。日本には葉が帯粉するイワベンケイS.rosea(L.)Scop.(英名roseroot)と葉が緑色のホソバイワベンケイS.ishidae Miyabe et Kudoの2種が本州中部以北の高山に分布する。ベンケイソウとオオベンケイソウを除いて,一般には栽培されていない。鉢植えあるいは花壇の植込みに使う。

双子葉植物で,7亜科約35属1300種を含む。タコノアシ亜科を除く6亜科はすべてが多肉植物であるが,タコノアシ亜科はユキノシタ科に所属させられることもある。両科はごく近縁である。寒帯から熱帯に広く分布する。多肉葉を発達させるが,托葉を欠き,花弁と心皮の間に小さな鱗片(みつ腺)がある。セダム亜科は北半球に広く分布し,花はおもに5数性で,離弁,おしべは10本,代表属はマンネングサ(セダム)属Sedumや,ロゼット葉が顕著なイワレンゲ属Orostachys。クラッスラ亜科は南アフリカに集中し,アズマツメクサ属Tillaeaのみが,北半球やオーストラリアに分布する。花は5数性,おしべは5本。代表属のクラッスラ属Crassulaは200種あり,カゲツ(花月)C.portulacea Lam.(南アフリカ原産)は〈金の成る木〉の名称で近年出回っている。ほかにロケア属Rocheaを含む。コチレドン亜科はおもにアフリカ南部に分布し,花は花弁が筒状や鐘状に合着し,5数性でおしべは10本。コチレドン属Cotyledon(約50種を含む)と葉に褐色の斑紋が目だつアドロミスクス属Adromischus(約50種)などがある。カランコエ亜科はカランコエ属Kalanchoe1属だけで構成される。マダガスカルを中心に汎(はん)熱帯に分布し,花は筒状で,4数性,おしべは8本。センペルビブム亜科はカナリア諸島主産地のアエオニウム属Aeonium(36種)と,ヨーロッパセンペルビブム属Sempervivum(23種)などがあり,ロゼット葉が密生し,花は離弁で6~32数性,おしべは花弁の倍数。センペルビブム属は耐寒性が強い。エケベリア亜科はアメリカ大陸に分布し,ロゼット葉をもち,花序は側生し,花は筒状で,5数性,おしべは10本。タコノアシ亜科を除く多くの種が多肉葉や花を観賞するために,ロックガーデンや鉢植えで栽培される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベンケイソウ」の意味・わかりやすい解説

ベンケイソウ
べんけいそう
[学] Hylotelephium erythrostictum (Miq.) H.Ohba

ベンケイソウ科(APG分類:ベンケイソウ科)の多年草。毎春、地中のやせた根茎から、花期には高さ0.3~1メートルに達する花茎を1、2個出す。葉は花茎に間隔を置いて互生または対生し、長さ10センチメートルの楕円(だえん)状卵形で、白みを帯びた淡黄緑色。9~10月、花茎の先端に、紅色の小さな花を多数密生した半球形状の花序を出す。花弁は楕円状披針(ひしん)形で長さ約5ミリメートル。葯(やく)は裂開直前に濃い赤紫色になりよく目だつ。子房は長さ約1センチメートル。花が枯れても目だち、伸長したり肥大したりせず、多数の微小な種子がつくられ、風によって散布される。湿った草地や明るい林床に生え、本州中部と九州、および中国に分布する。

 明治年間に中国からオオベンケイソウH. spectabile (Boreau) H.Ohbaが渡来するまでは園芸植物として重宝されたが、いまでは一部の山岳地域を除いてほとんど栽培されていない。しかし、ヨーロッパではSedum alboroseum Bakerの名前で園芸界に普及している。葉の中央脈に沿って白斑(はくはん)の入ったフイリベンケイもある。ベンケイソウの野生のものはムラサキベンケイソウH. pallescens (Freyn) H.Ohba〔H. telephium (L.) H.Ohba〕と混同されているが、ムラサキベンケイソウは日本では北海道のみに分布する。

 ベンケイソウやその近縁種は、広義のセダム属Sedum(マンネングサ属)に分類されることもある。ベンケイソウのことを俗にセダムとよぶことがあるのはこのためである。しかし、同属の基準種オウシュウマンネングサS. acre L.はメノマンネングサに近縁であり、ベンケイソウだけにセダムの名を与えるのは正しくはない。

[大場秀章 2020年3月18日]

文化史

平安時代に渡来し、『新撰字鏡(しんせんじきょう)』『本草和名(ほんぞうわみょう)』『和名抄(わみょうしょう)』などの平安の辞書には、伊岐(いき)(支)久佐(くさ)の名で載る。「生草(いきくさ)」の意味で、ベンケイソウの名も、手折って放置しても根づくほどの生命力を、弁慶の強さに見立ててつけられた。江戸時代の『和爾雅(わじが)』にはベンケイソウとチドメの名があり、『増補地錦抄(ちきんしょう)』(1710)にはげんじ草(源氏草)の名で図が初見する。

 中国では4世紀、すでに鉢に植えて屋上で栽培されていた。これは中国の古名の戒火(かいか)、慎火(しんか)が示すように、水分の多い多肉質の葉をもつベンケイソウの葉を、火を防ぐ御守(おまも)りとしたのである。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』では、やけどに用いたり、身を軽くし、目をよくするなどの薬用植物として扱われている。

[湯浅浩史 2020年3月18日]

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百科事典マイペディア 「ベンケイソウ」の意味・わかりやすい解説

ベンケイソウ

ベンケイソウ科の多年草。北海道,本州の山地にはえる。高さ30〜60cm,葉は楕円形多肉で,粉白色を帯びる。夏〜秋,茎頂に集散花序を出し多数の花を密生する。花は両性,淡紅色で,花弁,萼片(がくへん)ともに5枚。かつて栽培もされたが,近年ベンケイソウと呼ばれて栽培されるものは,中国や朝鮮半島原産のオオベンケイソウである。近縁のイワベンケイは高山の日当りのよい岩地にはえ,高さ10〜20cm,葉は長さ1〜3cmで柄がない。雌雄異株で花は茎頂に密生。花弁,萼片ともに4枚。

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