ベローゾ(読み)べろーぞ(英語表記)Caetano Veloso

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベローゾ」の意味・わかりやすい解説

ベローゾ
べろーぞ
Caetano Veloso
(1942― )

ブラジル歌手バイア州生まれのイタリア系ブラジル人。1960年代後半以降のブラジルにおけるポピュラー・ミュージックの最大の改革者であり、音楽におけるトロピカリズモの提唱者。また、現役のブラジルの音楽家のなかで世界的にもっともよく知られ、影響力をもった存在でもある。バイアアフロ・ブラジル系文化、欧米のポピュラー・ミュージック、文学、映画、美術、ボサ・ノバなど、さまざま文化を独自に消化した多彩な作風を誇る。

 1960年代の終わり、ジルベルト・ジルらとともに独自の音楽を模索しているときに、造形作家、パフォーマーのエリオ・オイチシカHelio Oiticica(1937―1980)のインスタレーション『トロピカリア』に出会い、ジャンルは異なるものの共通するコンセプトを感じ、無題だった自らの曲のタイトルを「トロピカリア」とする。この出会いは政治、美術、音楽を刷新する運動トロピカリズモへとつながっていった。だが当時の軍事政権下で迫害され、ベローゾとジルはロンドンへ、シコ・ブアルキChico Buarque(1944― )はローマ、ともに活動したエドゥ・ロボEdu Lobo(1943― )はロサンゼルスへと亡命した。トロピカリズモはこうして短命に終り、ベローゾはブラジルへ戻り、より広範なムジカ・ポプラール・ブラジレイラ文脈のなかで活発に活動を展開していく。しかし1970年代の録音は少ない。これはベローゾ自身のトロピカリズモの総括に時間がかかったためである。

 ベローゾの作品は、さまざまなアイデアや要素を独自の感覚と理論でまとめあげていくことに特徴がある。また1作ごとに傾向を変え、充実したアルバムを発表し、精力的に活動を続け、アルバムはそれぞれがブラジル論あるいはラテンアメリカ論を音楽で表現するという点でも、単に音楽家という枠組みに収まらない存在である。他のミュージシャンとの協同作業も多く、1980年代以降は自作アルバムを発表しながら、ブラジル育ちのニューヨークのギタリスト、アート・リンゼイArto Lindsay(1953― )との共演アルバム『エストランジェイロ』(1989)、トロピカリズモのマニフェスト・アルバム『トロピカリア』Tropicalia(1968)の発売25周年を記念した『トロピカリア2』(1993。ジルベルト・ジルと共演)、ラテンアメリカの名曲を歌った『フィナ・エスタンパ』Fina Estampa(1995)などを発表したほか、同郷の先輩ジョアン・ジルベルトのプロデュースも行った。

 そのほかの代表作には『ドミンゴ』(1967。ガル・コスタGal Costa(1945―2022)との共演)、『アラサー・アズール』(1972)、『シネマ・トランセンデンタル』(1979)、『コレス・ノメス』Cores Nomes(1982)、『ウンス』(1983)、『ベロ』Velô(1984)、『トータルメンチ・ヂマイス』(1986)、『シルクラドー』(1991)、『ノイチス・ド・ノルチ』(2001)などがある。1997年には自伝『熱帯の真実』Verdade Tropicalを発表した。

[東 琢磨]

『Verdade Tropical(1997, Companhia das Letras, São Paulo)』『「特集ボサノヴァ」(『ユリイカ』1998年6月号・青土社)』『「特集カエターノ・ヴェローゾ」(『ユリイカ』2003年2月号・青土社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android