ベル(Heinrich Böll)(読み)べる(英語表記)Heinrich Böll

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ベル(Heinrich Böll)
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Heinrich Böll
(1917―1985)

ドイツの小説家。第二次世界大戦後のドイツ文学を代表する作家の1人。ケルン生まれ。高校卒業後まもなく第二次世界大戦に出征。6年間各地を転戦、東部フランスのアメリカ軍捕虜収容所で敗戦を迎えた。廃墟(はいきょ)となった故郷の町ケルンに帰り、作家生活に入る。前線に戻る帰休兵の心理を描いた『汽車は遅れなかった』(1949)で批評家の注目を集め、初期の短編を集めた『旅人よスパ……に来たりなば』(1950)では戦中戦後の過酷な運命に翻弄(ほんろう)される庶民の姿を描いて好評を博す。1951年ユーモア短編小説『黒羊』で「グループ47」賞を受賞。以後『アダムよ、お前はどこにいた』(1951)、『保護者なき家』(1954)をはじめ、ほとんど全作品がベストセラーになる。これは優れたストーリー・テラーとしての特質、弱く善良な戦争犠牲者たちに注がれる温かいまなざし、作品の底を流れる庶民的正義感が読者の共感をよんだものであろう。同時にそれは過去の罪過への反省を欠いた戦後社会の風潮への厳しい批判ともなる。『9時半の玉突き』(1959)、『道化の意見』(1963)、『婦人のいる群像』(1971)などの長編がそれで、一方、短編にも完成度の高い作品がある。また時局的問題に関する彼の直接的発言も多く、政治の右傾化や管理社会化の進行、大衆新聞の画一主義などに対する指弾は、ときに大きな反響をよんだ。のちに映画化された『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』(1974)や『行き届いた管理体制』(1979)など、近年はこうした関心から直接生まれた作品もある。1971年以後国際ペンクラブ会長を務め、また72年にはノーベル文学賞を受賞した。85年7月、脳血栓死去。長編『河の畔に住む女たち』(1985)が絶筆となった。

[青木順三]

『桜井正寅訳『汽車は遅れなかった』(1974・三笠書房)』『小松太郎訳『アダムよ、おまえはどこにいた』(1976・講談社)』『佐藤晃一訳『九時半の玉突き』(1965・白水社)』『神崎巌訳『道化師の告白』(1966・冬樹社)』『尾崎宏次訳『女のいる群像』(1976・早川書房)』『藤本淳雄訳『カタリーナの失われた名誉』(1975・サイマル出版会)』『小松太郎訳『保護者なき家』(角川文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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