ベニヒカゲ(英語表記)Erebia neriene

改訂新版 世界大百科事典 「ベニヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

ベニヒカゲ
Erebia neriene

鱗翅目ジャノメチョウ科の昆虫。本州では高山チョウとして知られる。開張4~4.8cm。翅には暗褐色地色前翅後翅とを貫く柿(かき)色帯がある。アルタイ・アムール地方,中国東北部,サハリン,カムチャツカおよび日本に分布する。日本では,北海道および本州の東北地方から,中部の日本アルプス地方を経て加賀白山にかけての山岳地帯に分布しているが,本州産のものを独立種とする見解もある。北海道ではおもに低山地に見られ,北部では海岸近くの低地にまで降りているが,本州では山塊ごとに孤立した分布をしていて,本州だけで15亜種に分けられている。飛驒,木曾赤石の三大山脈を含む日本アルプスでは,標高2500~2600mの森林限界付近の草原に多産し,さらに高山帯の乾生草原や標高1200m前後の渓谷地帯まで見られることもある。成虫は年1回,7~8月に羽化し,花に集まる。幼虫の食草はイネ科のオニノガリヤスなどである。幼虫で越冬する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベニヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

ベニヒカゲ
Erebia niphonica

鱗翅目ジャノメチョウ科。前翅長 22mm内外。全体黒褐色で,前翅の両面と後翅表面には眼状紋を囲む橙赤斑がある。後翅裏面は暗褐色で,不鮮明な雲状模様がある。雌では翅表の眼状紋内に白点があるほか,橙赤色部が雄よりも狭く,また後翅裏面中央に白ないし黄色の帯が現れる。斑紋の地域変異が多い。幼虫はスゲ類を食べ,成虫は7~8月に出現する。高山チョウの1種とされ,本州では中部地方以北の高山に産するが,北海道では低地にもみられる。近縁種クモマベニヒカゲ E. ligeaはやや大型で前翅長 24mm内外,前後翅に眼状紋を含む橙赤色帯があり,後翅裏面には橙赤色帯内側に沿って白色帯がある。幼虫は高山帯にあるカヤツリグサ科やイネ科の植物を食べ,成熟に2年を要する。ユーラシア大陸北部に分布する。日本では代表的な高山チョウの1種で,北海道では利尻島と大雪山に産し,亜種 E. l. rishirizanaといい,本州では飛騨・木曽赤石山脈,八ケ岳,白山などの高地にのみ産し,亜種 E. l. takanonisという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベニヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

ベニヒカゲ
べにひかげ / 紅日陰蝶
[学] Erebia niphonica

昆虫綱鱗翅(りんし)目ジャノメチョウ科に属するチョウ。北海道、本州に産し、北海道では低山地にも産するが、本州では中部地方以北の高山地に産し、高山チョウの1種として知られている。国外の分布は不明の点が多いが、少なくとも朝鮮半島に産するものは日本産と同一種と思われる。はねの開張47ミリメートル内外。前翅に橙赤斑(とうせきはん)のあるのがその特徴で、この特徴をもつものは日本ではほかにクモマベニヒカゲ(高山チョウ)の1種があるのみ。年1回の発生で、7、8月に出現し、高地草原の草花に集まる。幼虫の食草は、おもにカヤツリグサ科のスゲ類で、イネ科の雑草も食べる。幼虫の状態で冬を越す。

白水 隆]


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世界大百科事典(旧版)内のベニヒカゲの言及

【高山蝶】より

…英語でAlpineといえば,タカネヒカゲ類のことを指す。 本州の高山チョウは,クモマツマキチョウ(イラスト),ミヤマシロチョウ,ミヤマモンキチョウ,オオイチモンジ,コヒオドシ,タカネキマダラセセリ,ベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ,タカネヒカゲ(イラスト)の9種とされる。ミヤマシロチョウ,ベニヒカゲ,タカネヒカゲを除く残り6種はヨーロッパまで分布しているもので,日本では遺存種と見なしうるものである。…

※「ベニヒカゲ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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