ベッダ族(読み)ベッダぞく(英語表記)Vedda; Wedda

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベッダ族」の意味・わかりやすい解説

ベッダ族
ベッダぞく
Vedda; Wedda

スリランカ東部の森林地帯に居住し,人種学上注目されている少数部族。身長は低く (成人男子の平均身長は 155cm前後) ,体格はきゃしゃである。皮膚は濃褐色であり,頭髪は波状毛であるが,ひげや体毛は少い。長頭で,額は後退し,眉稜は発達している。オーストラロイドと似るが,その顔が低いため子供のような印象を与える。人種学的に特異な存在であり,コーカソイドの原始型という説,また,コーカソイドとオーストラロイドの古代混血種という説などがあり,定かではない。人口は数百ないし数千にすぎないといわれ明確ではない。主たる生業採集狩猟で,かつては洞穴や岩陰に住み,隣接するシンハラ族から獣や蜂蜜などと引換えに斧や鏃を得る沈黙交易を行なった。社会組織は一夫一妻の単婚家族が基本となる。死者が出ると遺族は死体とともに住居を放棄し,骨だけになった頃に帰ってくるいわゆる遺棄葬を行う。宗教生活の中心は死者の霊魂慰撫にあり,死者の霊が乗移るカプラーレと呼ぶシャーマンが重要な役割を果す。かつては旧石器文化を類推させるものとして人類学者の興味が集中したが,今日ではシンハラ族に吸収されて急速に衰退しつつあり,固有の言語も失われつつある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ベッダ族」の意味・わかりやすい解説

ベッダ族 (ベッダぞく)
Vedda
Veddah

スリランカの南部山岳地帯に住む民族。シンハラ人のこの島への移住(前5世紀ころ)以前にこの地に定着していた未開民族。形質上では南インドの山岳地帯の諸民族や,東南アジアの先住民と関係が深いといわれる。しだいにシンハラ人と同化して平地に定住する傾向を示し,言語のうえでもシンハラ語を採用し,本来もっていた独自の言語を失いつつある。1964年の調査報告では800という人口があげられるが,現在ではその本来の文化を保持しつづけるコミュニティはきわめて少なくなりつつある。元来は洞窟や岩陰を住居とし,物質文化のうえではきわめて単純な生活を営み,弓矢を用いての狩猟と野生の植物,はちみつの採集を基本とするものであった。社会組織のうえでは一夫一婦の単婚家族を基本とする。彼らの宗教的側面では死者崇拝が顕著である。カプラーラと呼ばれるシャーマンを媒介として,祖先霊とこの世の子孫とが交流すると信じられている。
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世界大百科事典(旧版)内のベッダ族の言及

【スリランカ】より

…スリランカ第1の大河であるマハウェリMahaweli水系(335km)を開発し,乾燥地帯を灌漑して穀倉化し,南西地方の住民を移住させる計画が長期的に進められている。
[住民,言語]
 先住民族はベッダ人Veddaであるが,今日では1000名弱の人口に減少し,固有のベッダ語もしだいに失われつつあるとみられている。総人口の約74%を占めるシンハラ人が多数民族であり,低地シンハラ人と山地シンハラ人とに区分され,それぞれ適用される身分法が異なる。…

※「ベッダ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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