ヘラジカ(読み)へらじか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘラジカ」の意味・わかりやすい解説

ヘラジカ
へらじか
[学] Alces alces

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目シカ科の動物。シカ類中の最大種で、オオジカともよばれる。体長206~310センチメートル、肩高174~235センチメートル、体重350~800キログラムに達する。北ヨーロッパ、シベリア東部、中国北部、カナダ、アメリカ合衆国北部などに分布する。ヘラジカはアメリカとヨーロッパでは呼び名が異なる。ヨーロッパではエルクelkと称されるが、アメリカではエルクとはワピチをさし、ヘラジカをよぶ場合は、アルゴンキン人が称していた「小枝を食べるもの」という意味のムースmooseを用いている。

 ヘラジカの外見的な特徴は、手のひら状に広がった大きな角(つの)と、ウマのような長い顔、長い足、盛り上がった肩部、のどにある肉垂れなどである。巨大な角は4月に生え始め、8~9月初旬に完成し、12月から翌年1月初旬に脱落する。発情期は秋で、この時期の雄は凶暴になる。基本的には単独生活をしているが、子は1年は雌親についている。水辺好み湖岸の森にすみ、夜明けごろや日没後に活動する。時速56キロメートルの速度で走ることができる。また、水中によく入って潜水し、5メートル以上潜って30秒水中にとどまっていることもある。ヤナギポプラサトウカエデなどの芽を好んで食べる。天敵オオカミハイイログマなどである。寿命20年。ロシアなどでは馴致(じゅんち)して車を引かせたりすることもある。

増井光子


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改訂新版 世界大百科事典 「ヘラジカ」の意味・わかりやすい解説

ヘラジカ (篦鹿)
Alces alces

別名オオシカ。北アメリカではmoose,ヨーロッパではelkと呼ぶ。長さ2mにも達する,手のひら状にのびる巨大な枝角をもつ大型のシカ。偶蹄目シカ科の哺乳類中もっとも大きく,体長240~310cm,肩高140~235cm,尾長5~12cm,体重200~825kg。上唇が幅広く下あごにおおいかぶさるように発達し,シカというよりはむしろウマを思わせる頭部(顔)をもつ。体色は,暗褐色,赤褐色,灰褐色など。北アメリカとユーラシアの北部針葉樹林に広く分布する。とくに水辺近くにすんで,ヤナギ,ポプラ類の葉や小枝を好んで食べる。幅広い上唇は,これらの食物を摘みとるのに適している。雌雄ともふつう単独でくらし,9~10月の交尾期には,雄は他のシカ類のようなハーレムをつくらず,1頭の雌と一時的なつがいをつくる。雌は妊娠期間242~250日で,春に1産1~2子を生む。子は誕生時で,体重が11~16kgある。寿命は最長で27年。ロシアでは,肉と乳の生産を目的に本種の家畜化が試みられ,ある程度の成功を収めている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘラジカ」の意味・わかりやすい解説

ヘラジカ
Alces alces; moose; elk

偶蹄目シカ科。アメリカではムース,ヨーロッパではエルクと呼ばれる。現存する最大のシカで,体長 2.5~3m,体高 1.4~2m,体重はときに 800kgをこえる。手のひらのような形をした雄大な角をもち,開いた左右の間隔は 2mにもなる。体色は灰色あるいは灰茶色で,喉に肉瘤がある。夏季は単独あるいは小群で,冬季には大群をつくって生活し,夏季には好んで水浴や泥浴をする。アメリカ北部,北ヨーロッパ,シベリアなどに分布する。

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百科事典マイペディア 「ヘラジカ」の意味・わかりやすい解説

ヘラジカ

オオジカ,ムース,エルクとも。偶蹄(ぐうてい)目シカ科。最大のシカで肩高1.6〜2.3mほど。体重400〜800kg。雌は雄の約4分の3。角は巨大で枝分かれし,手のひら状。体毛は灰褐〜黒褐色で,腹部は淡褐色。北半球北部に分布する。寒帯林地帯の沼地を好み,水草,樹皮,コケ類などを食べる。走るのが速く体は重いが,ぬかるみを自由に渡る。1腹1〜2子。

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