ヘビ(読み)へび(英語表記)snake

翻訳|snake

改訂新版 世界大百科事典 「ヘビ」の意味・わかりやすい解説

ヘビ (蛇)
snake
serpent

有鱗(ゆうりん)目ヘビ亜目Ophidiaに含まれる四肢の退化した爬虫類の総称。

 ヘビ類はトカゲ類と類縁関係にあって両者で有鱗目Squamataを構成する。現生種は14科約2400種で,極地を除く世界の各大陸に広く分布し,日本には亜種を含め陸生33種,海生9種・亜種が分布している。今までに見つかった最大のものはアミメニシキヘビの全長9.9m,最小はロイターメクラヘビの約10cmであるが,大半は1~2mくらい。

体型は極端に細長く,尾は全長の1/6~1/4ほどを占めるが,長いものは約1/3に達し,短いものでは1/10くらい。全身が細鱗で覆われ,多くの種では頭部が大型鱗に分かれる。腹面は胴部が幅広い腹板,尾部では1~2列の尾下板(びかばん),そして総排出腔が肛板(こうばん)となるが,半地中生や水生種では腹板,尾下板ともに退化的で幅狭く,大部分のウミヘビ類では痕跡的で,地中生のメクラヘビ類にはまったく認められない。すべて四肢を欠き,原始的な種では肛板の両側に後肢がつめ状の痕跡として残る。頭部はやや大きく頸部(けいぶ)がくびれるが,地中生では全身が同じ太さの細長い円筒形となる。

 眼は透明な1枚のうろこで覆われてまぶたがなく,耳孔を欠く。頭骨では下側頭窓が形成されず下方が大きく開放され,方骨(ほうこつ)は上側頭骨を介して頭蓋にゆるく関節するため,これと関節する下あごを上下や前後に大きく動かすことができる。また下あごは先端が固着せず靱帯(じんたい)組織で結合するため,左右の下顎骨(かがくこつ)を別々に押し下げて,さらに口を大きく開くことができる。しかしメクラヘビ類は上側頭骨を欠き,下あごの前端は小骨を介して固着するため,口を大きく開くことができない。歯は鋭く細長くて多数あり,上あごでは4列,下あごでは2列が配列するが,毒ヘビでは上あごの一部が毒液を注入する毒牙(どくが)となっている。

 脊椎(せきつい)は200~400個に及ぶ多数の脊椎骨からなり,各脊椎骨は巧妙な連結で,左右に約25度,上下に25~30度も曲げることができる。このような構造により,ヘビは自由に体を長くのばしたりとぐろを巻いたり,また獲物を巻き締めることができる。肋骨は1~2個の頸椎(けいつい)を除くすべての脊椎骨に1対ずつあり,胸骨を欠くため末端が遊離している。肋骨の末端は腹板,中央部は腹板に接する体鱗にそれぞれ筋肉で連結し,歩行の原動力となる。肩帯(けんたい)を欠き,原始的な種では腰帯が棒状またはY字形をした小骨の痕跡として残る。

一般にヘビの眼は大きいが視力は劣り立体視はできないが,動くものはよく見える。ハナナガムチヘビ属Ahaetullaやエダヘビ属Oxybelisなどの樹上生では,吻部(ふんぶ)が幅狭いため視野が前方で交差して立体視ができ,瞳孔(どうこう)も横長の特殊な形状となっている。ほとんどの種では瞳孔が円形であるが,クサリヘビ科ViperidaeやマダラヘビDinodonなどの夜行性のものは縦長。地中生や半地中生の種では眼は小さく,一部では退化している。

 聴覚はほとんどなく鼓膜も欠く。嗅覚(きゆうかく)は鋭敏でヤコプソン器官が発達し,さらに細長く先が二分した舌を出し入れしてにおいの微粒子を口内に取り込み,ヤコプソン器官に接することで獲物の存在を知る。舌はまた空気の振動や流れ,温度差などをも感じとる。

 ニシキヘビ類の上唇板とマムシ類Crotalinaeの眼の前下方にあるピットpit(頰窩(きようか),孔器ともいう)は温度に敏感な器官で,とくにマムシ類のピットは薄い膜で仕切られ,内外2室の微妙な温度差を敏感に読み取る。左右1対のピットは哺乳類や鳥類の体表から発せられる赤外線を立体的にとらえ,暗闇でも正確に獲物に毒牙を打ちこみ,また人を含む危険な敵を攻撃することができる。

 体の伸長に伴い内臓は長くなって湾曲が少なく,一般に左側は退化している。多くの種では左肺が退化し,右肺は長くなって後室部分は胴の1/2ほどに達し,ウミヘビにはほとんど末端まで達するものがある。また気管の後部は気管肺として幅狭い肺組織となっている。容積の大きな肺は空気を蓄えて遊泳中の浮力を増したり,胴を膨らませて威嚇に役だつ。

 毒ヘビはほとんどが世界の熱帯・亜熱帯地域に分布し,約300種が致命的な強い毒をもつ危険種である。また弱毒種で人に対し実害を伴わないものも同数ほど知られている。毒牙には溝牙(こうが)と管牙(かんが)とがあり,毒腺からのびた導管が毒牙の基部に開口している。ヘビ毒は二次的には自衛手段に用いられるが,主目的は獲物に注入して抵抗力を失わせ,効率よく餌を得ることにあり,また毒成分中の酵素は餌の消化をも促す。一般の無毒ヘビは,獲物にかみつき強く巻き締めて窒息死させるが,そのままのみこむものもある。

 餌は生きた哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,魚類で,幼ヘビや地中生のものはミミズ,ナメクジ,昆虫類を食べ,食性は成長に伴って変化する。鳥卵を好むものは,のみこんだあと,発達した脊椎骨の下突起で卵殻を押し割る。

 ヘビの約3/4は卵生で,他はニホンマムシのような卵胎生である。肛門裂は体軸に直角に開き,雄には1対の陰茎があって交尾を行う。1回の産卵数は10~20個ほどで最少は2個,最多は100個あまりで,孵化(ふか)には一般には30~40日を要するが,早いものは日本産のヒメハブなどの1~2日で,ほとんど卵胎生に近い。長いものはエラブウミヘビの約5ヵ月。

 生活圏は広く,平地から4000mの高地に至る,森林,草原,耕地,湿地,荒地,砂漠の地上,樹上および地中に生活し,一部は水中や海洋に及んでいる。また日本産アオダイショウのように人家周辺にすみつくものもある。日本のシマヘビに見られるように,大半が昼行性で日光浴による体温調節で行動し,夜は巣穴に潜る。

 行動は体を左右に波動させるヘビ特有の蛇行運動によるもので,蛇行による力学的な力の合成で前進するとともに,肋骨を支持物に押しつけながら起伏させる。幅広い腹板は複雑な地形に対応してキャタピラの役割を果たすとともに,角張った両端が横滑りを防いでいる。アオダイショウなど好んで木に登るものは腹板がより角張り,これを樹皮に引っかける。樹上生の種は体がより細長く,とくに尾部が長いが,地上生ではマムシ類のように胴が太く尾の短いものもある。胴がとくに太いものや体重の重い大型のニシキヘビ類は,体をのばしたまま腹壁を波打たせ,ほふく運動を行う。

 ミズヘビ類をはじめ多くの種は好んで水に入り,遊泳も巧みであるが,海洋生のウミヘビでは尾部がひれ状に側扁している。日本産タカチホヘビのような半地中生では吻部が長く丸みを帯びるが,土掘り用としてシャベル状に平たくなったものもいる。大部分の毒ヘビを含め夜行性の種では瞳孔が縦長で,昼間は瞳孔を絞って樹上や薄暗い場所で休むが,半地中生のものも夕暮れや早朝に行動する。毒ヘビのうちサンゴヘビMicrurus南西諸島産ワモンベニヘビ類Calliophisなど鮮やかな標識色をもつものは,昼行性であり,いわゆる警告色としての効果をあげている。

 一般にヘビは性質が温和で逃げ足が速く,毒ヘビといえども自衛目的以外に進んで人を攻撃することはない。多くの種は頸部や胴を膨らませ,尾を激しく振動させたり,噴気音で威嚇するが,一部では擬死(ぎし)をして見せる。ほとんどは体色斑紋が有効な保護色となるが,体色は変化しない。尾は自切も再生もしない。

ヘビの起源はトカゲ類を祖先としてジュラ紀に分化したものと考えられるが,化石が少なく,祖先型を系統的に知ることはむずかしい。最古の化石は北アフリカの白亜紀前期の地層から発見された,ラッパレントフィスLapparentophisなどで,現生のパイプヘビ科に近縁である。現生種は主として頭骨,脊椎骨の相違により3群(下目)11科に分類される。

(1)メクラヘビ群 まったく地中生活に適応したミミズ型で,頭頸部から尾部まで同じ太さであり尾がきわめて短い。腹板は分化せず,多くの種では腰帯と後肢の痕跡が小骨として体内に残る。世界の熱帯,亜熱帯に分布し,全長約10~30cm。上あごにのみ歯があるメクラヘビ科Typhlopidae約180種,下あごにのみ歯のあるホソメクラヘビ科Leptotyphlopidae約50種,そして両あごに歯を有し腰帯の痕跡を欠くアメリカミミズヘビ科Anomalepididae約20種が含まれる。

(2)ムカシヘビ群 頭骨の構造が原始的で,多くの種ではつめ状をした後肢の痕跡をもつ。世界の熱帯,亜熱帯に分布し,ヘビの最大種アミメニシキヘビ,アナコンダをはじめ大型種が含まれる。半地中生のパイプヘビ科Aniliidae6種,サンビームヘビ科Xenopeltidae1種,トゲオヘビ科Uropeltidae43種,やすりのような体鱗をもつ水生のヤスリヘビ科Acrochordidae3種および大半が大型種のボア科Boidae65種の4科が属する。

(3)ヘビ群 頭骨の構造などの進化が進んだ一群で,毒ヘビを含む現生種の大部分がこれに属し,3科に分類される。生態環境に適応してさまざまな形態に分化し,分布はヘビ亜目と同じ世界各地に及んでいる。ほとんどが全長1~2m。ナミヘビ科Colubridaeは腹板がよく分化し,腰帯や後肢の痕跡はまったく認められない。日本産無毒ヘビの全種(メクラヘビを除く)をはじめヘビ総数の2/3ほどが含まれる。一部では上あごの後方に溝牙を生じ,少数が毒性の強い危険種。コブラ科Elapidaeは上あごの前部に溝牙を生じ,すべて毒性の強い危険種。コブラアマガサヘビ,サンゴヘビ,ウミヘビ類など約230種が含まれる。クサリヘビ科Viperidaeは上あご前部に可動的な管牙をもつ毒ヘビで,約180種が知られる。ピットをもつマムシ亜科と,これを欠くクサリヘビ亜科および体鱗に顕著な隆条のある樹上生のトゲオマムシ亜科に分類される。

ヘビは他の生物に比べ一般に嫌悪されることが多いが,危険種は毒ヘビに限られ,大型のニシキヘビ類でも人を襲う例はきわめてまれである。無毒ヘビは小鳥や雛,卵を捕食する反面,農林業に大きな被害を与えるネズミ類を捕食して,役だっている。一部がペットとして飼育されるほか,皮革細工の材料として重用され,また医療や民間薬用および食用に供される。
執筆者:

古語は〈へみ〉,各種の蛇を総称し巨大なものを〈おろち〉と呼んだ。そのものを直接ささない忌詞(いみことば)として形が似ているから〈くちなわ〉ともいい,西日本では普通語として用いる。アオダイショウ(アオナブサ),ヤマカガシ,シマヘビ,カラスヘビなどは色彩や形の大小から呼ばれるもので,地方によって同種にも異称が多い。有毒蛇は区別されてヒバカリ,マムシ一名ヒラクチ,南西諸島のハブなどが恐れられる。ハブは反鼻と文字をあて,ハムすなわち〈かむ〉からその名がきたもので,また古語〈へみ〉〈はみ〉のなまったものともいえる。ハブは罪ある者や悪人を見分けてかみつくと信じられ,これを打つと称した。忌詞やこうした伝承から,蛇が古くは神霊の化現とみなされ,その行動を神聖視したと考えることができる。したがって蛇を見ることを忌み,それを直接指さすと指が腐るといって切り捨てるまねをしたり,夜,口笛を吹くと蛇がくるといってこれを戒めた。とくに白蛇は神使(しんし)として神聖視し,屋根裏にすむアオダイショウなどを家の神として敬ったのもネズミの天敵として有益な働きをしたからであろう。ことに蚕を害される養蚕農家などが蛇を尊んだこともうなずかれる。水辺湿地に多く生息するので,水の神の姿またはその使者とみて蛇に雨乞いをし,また水利の豊かなことを祈る習俗も各地にある。祭儀に藁蛇をつくって神社に飾るのもその祭神がもと蛇の姿と想像されたからであろう。

 たとえば諏訪神社などはその一例であるが,古くは神が小蛇の姿をして女人と契ったという三輪山伝説もあって,必ずしも水辺の神のみが蛇と考えられたわけではない。むしろ,これは世界の諸民族に共通の信仰ともいえ,野生動物が人間の女性と通じて生まれた子が,一族の祖となったという伝承の日本版ともいえよう。中世までこの伝承は残って九州の名族緒方氏や越後の五十嵐氏の祖先は大蛇の子孫であると称し,そのしるしとして代々鱗形のあざが身体にあるともいわれ,家紋をうろこにかたどっていた。こうした観念は近世まで民間に残って,山野で働く女性が昼寝などをして蛇にみいられ,蛇の子を生んだとか,そのような場合にどのようなまじないをすれば安全であるといった話が,全国的に伝承されている。そのために現在まで蛇を恐れあるいは憎んで必ず殺す土地があり,天敵がいないためネズミの繁殖がはなはだしい場合もあるという。これらはことに漁村に伝えられ,船では蛇を忌んでナガモノといい,蛇の話をさける風習も広く行われてきた。このほか家系についたつきものとしての蛇霊もあって,壺に小蛇を封じて家の神としてまつり,家運の繁栄を願うとその霊が家系に敵対する他の家人にとりついてこれを悩ませ,飼主の家を守護するといった伝承があり,瀬戸内海沿岸ではトウビョウなどと呼ばれる。これは家の守護霊として福運をさずけ,夢にみても金がもうかるといった蛇についての在来信仰と,中国から伝えられた蛇蠱の話とが結びついたらしい。このように蛇の霊力を認めるところから,蛇の肉や胆に薬効があるとして生きたまま,またはかばやき,乾物,黒焼きなどとして内服し,酒につけておいてその液を飲むなどの方式で,おもに強壮剤として用いることが現代でも盛んに行われ,蛇の捕獲は職業としても成り立っている。とくに毒のあるハブやマムシは薬効も大きいと信じられ,利用者も多い。
蛇婿入り
執筆者:

中国では,古代人は大蛇や毒蛇と闘った経験から,これを畏怖するあまりに蛇を山または水の神霊とみなし,神を人面蛇身に形象するほか,神が蛇を操り,または耳輪にするなどと考えたことが古神話の書《山海経》にも多く見られる。神霊が蛇体であると考えられた結果,山神,水神が大蛇となって人間の処女に通い,またはこれを犠牲として要求するという型の伝承も多い。一方では,蛇の形態や習性から陰性にして邪淫なるものとし,さらに女性に結びつけ,蛇が美女に化し人間の男に通って憔悴(しようすい)させ,のち法術をよくする僧や道士によって調伏されるという〈蛇精の淫〉型の話もあった。これが杭州西湖の雷峰塔に付会されたのが有名な白娘子と法海禅師の物語である。ただし民間の昔話では,母親が子どもを欲しいと願って小蛇を生み,その蛇が成長して妻をめとったのち夜は人に変じたが,最後には皮を焼かれて原形には復さなかったという〈蛇郎君〉の話も行われている。
執筆者:

蛇はその冷たい眼,独特のはい方,毒などから古来魔的な存在として恐れられるとともにあがめられてきた。ギリシア神話には,テュフォンピュトンヒュドラなど,地下や水の世界と結びつく多くの蛇身または蛇そのものの怪物が登場する。死者の魂が蛇の姿をとることは墓の絵や浮彫からよくうかがえるが,これは地下の冥界におもむく死者と地中にすむ蛇との連想に由来すると解釈される。地中にすむ動物として蛇は未来を占う力をもち,神託に役だち,お守りになり,またその身体のすべての部分が民間医療につかわれてきた。

 世界中の民族の間で蛇崇拝やシンボルとしての蛇の存在の知られていないところはないくらいである。エジプトのクヌム,インドのビシュヌ,北欧のオーディンなどは蛇と強く結びついた神で,旧約聖書の《列王紀》下18章4節にはイスラエル人が蛇に香をたいてあがめたことがしるされている。同じ旧約の楽園の蛇は悪,とくに誘惑の原理をあらわし,これは後世しばしば女の首をもつ姿で絵に描かれる。蛇はイブと関係して全人類に罪をもたらしたとか,蛇とユダヤ人の老婆との間からアンチキリストが生まれたとされた。

 しかしまた,聖書に〈蛇のごとくさとくあれ〉(《マタイによる福音書》10:16)とあるように,蛇は昔から賢い存在とされる。それで古代オリエントや古典古代では占いにつかわれた。たとえば白蛇との出会いは吉で,黒い蛇との出会いは凶とされたり,蛇の夢を見るのは死を示すとされた。ゲルマン神話では人間たちが住んでいる大地ミズガルズをめぐる海に大蛇ミズガルズオルムがすみ,大地をぐるりととりまいて自分のしっぽをかんでいる。海が荒れるのはこの大蛇が激怒して尾で海の水を打つからだとされている。この蛇などは海のシンボルと考えられる。また宇宙樹イグドラシルの根もとに竜ニーズヘグがいてそれをかじっている。これは宇宙の存立を害するもののシンボルであろうか,それとも刻々過ぎゆく時のシンボルであろうか。

 また蛇は死んだ人の魂の化身ともされる。この民間信仰は幸福を呼ぶ家つきの蛇と結びつく。ドイツやスイスでは蛇が家にすみつくことを喜び,食事や牛乳を与えて養う。蛇は人間に危険が迫っていることを知らせたり,ネズミの害や火事や落雷から守ってくれる守り神として人々に大事にされた。このような蛇を殺すと家に不幸が訪れるという。家の守り手ということと関連して蛇あるいは竜(ドラゴン)が宝を守るという信仰もドイツ中世のニーベルンゲン伝説やギリシアヘスペリデスの園のリンゴの伝説などに見られる。蛇はさらに何度も脱皮して若返ることから再生と不死身のシンボルになっている。このため強い治癒力をもつとされ,ギリシアの医神アスクレピオスは蛇のからまった杖をもつ。同様の杖は,ヘルメスの持物でもあり,カドゥケウスと呼ばれる。なお,蛇の皮は解熱剤になり関節炎にきき,血は肺病,脂肪は強壮によいとされ,肉を食べると鳥のことばがわかるとされた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビ」の意味・わかりやすい解説

ヘビ
へび / 蛇
snake
serpent

爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目ヘビ亜目に属する四肢の退化した爬虫類の総称。有鱗目Squamataはこのヘビ亜目Ophidiaとトカゲ亜目とで構成され、ヘビの祖先型はトカゲのプラチノータ群Platynotaから分化したものと考えられている。ヘビの現生種は約2500種が知られ、南極を除く世界の各大陸に広く分布し、一部のものは北極圏付近に達している。日本には亜種を含め陸生33種、海生9種が分布している。現生ヘビはほとんどが全長1~2メートルで、最大はアミメニシキヘビPython reticulatusの9.9メートル、最小はロイターメクラヘビTyphlina reuteriなどの約10センチメートルである。

[松井孝爾]

形態

体形はきわめて細長く、尾は樹上性の長いもので全長の約3分の1を占め、地中性の短いものでは10分の1ぐらいで、自切も再生もしない。頭部は大きくて頸部(けいぶ)がくびれるが、地中種では全身が同じ太さの細長い円筒形となる。全身が表皮の角質化した体鱗に覆われ、大半の種が頭部では大形鱗に分化するが、ハブ類、ボア類など一部では頭頂部が細鱗に覆われる。腹面は胴部が幅広い腹板、尾部では1、2列の尾下板に分化し、両者の間は1、2枚の肛板(こうばん)となる。しかし地中種や水生種では腹板、尾下板ともに退化的で幅狭く、大部分のウミヘビ類ではまったく痕跡(こんせき)的である。樹上性では体鱗に隆条(キール)の発達するものが多く、まったくの地上性や地中性では滑らかなものが多い。すべて四肢を欠き、ボア科やメクラヘビ科など原始的なグループでは、つめ状をした後肢の痕跡が肛板の両側に認められ、体内に腰帯の痕跡が棒状またはY字形の小骨として残る。頭骨の側頭窓(目の後方にある開口部)は上側の1個のみで下側頭窓は形成されず、橋もなくて下方が大きく開いている。方骨は上側頭骨を介して頭蓋(とうがい)に緩く関節するため、これと関節する下顎(かがく)を上下や前後に大きく動かすことができる。また下顎骨はトカゲと違って、前端が固着せず靭帯(じんたい)組織で結合するため、左右を別々に押し下げて、さらに口を大きく開くことができる。ただメクラヘビ類は上側頭骨を欠いて方骨が頭蓋に固着し、また下顎前端が小骨を介して固着するため、口は大きく開かない。歯は顎骨の縁に癒着した頂生で、細長く鋭くて後方に曲がり、上顎では上顎骨、口蓋骨に計4列、下顎では歯骨に2列が配列するが、食性によって歯が数少なくなったものもある。毒ヘビでは上顎の1、2本が毒液を注入する毒牙(どくが)となる。脊柱(せきちゅう)は200~400個に及ぶ脊椎骨(せきついこつ)からなり、各脊椎骨は突起によって巧妙に連結され、左右に約25度、上下に25~30度も曲げることができる。したがってヘビは、自由に長い体を屈伸し、あるいは獲物を巻き締めることができる。1、2個の頸椎を除き、すべての脊椎骨には1対ずつの肋骨(ろっこつ)があり、胸骨を欠くため末端が遊離する。各肋骨は末端部で腹板に、中央部では腹板に接する体鱗とそれぞれ筋肉で連結し、歩行の原動力となる。

[松井孝爾]

生理

ヘビの目は、眼瞼(がんけん)が固着して1枚の透明な鱗(うろこ)で覆われ、側頭部に位置するため立体的視覚をもたず、視力は劣る。しかし至近距離で動くものはよく見える。ハナナガムチヘビ属Ahaetullaやエダヘビ属Oxybelisなどの樹上性の種では、吻部(ふんぶ)が細長くて側扁(そくへん)し、視野が前方で交差して立体的視覚があり、瞳孔(どうこう)も横長の特殊な形状をしている。ほとんどの種は瞳孔が円形で、クサリヘビ科や日本産のマダラヘビ属Dinodonなど夜行性の種では縦長。メクラヘビ類では目は退化している。聴覚は鈍く、耳孔も鼓膜も欠くが、地上を伝わる振動には敏感である。ヤコブソン器官(鼻腔(びこう)の一部が左右に膨出してできた1対の嚢状(のうじょう)嗅受容器(きゅうじゅようき))が発達し嗅覚は鋭敏で、さらにヘビ特有の舌による嗅覚作用が加わる。すなわち、先端が二分した舌を出し入れさせて、空中に漂うにおいの微粒子をヤコブソン器官まで運び、獲物や天敵の存在を察知する。舌はまた空気の振動や流れ、温度差なども感じ取る。したがってヘビは行動時や獲物に接近したとき盛んに舌を出し入れする。ニシキヘビ亜科の上唇板とマムシ亜科の目の前下方にあるピットpit(頬窩(きょうか))は、恒温動物の体温から出る赤外線に敏感な器官である。とくにマムシ類のピットは構造的に優れ、暗夜でも、左右1対のピットで立体的に獲物や天敵の位置をとらえて、正確に毒牙を打ち込むことができる。ヘビの内臓は細長い体形に比例して長くなり、湾曲が少ない。多くの種では左肺が退化して右肺のみ長くなり、後室部分が胴の中央部まで達している。肺は遊泳の浮力を増したり、胴を膨らませて威嚇するのに役だち、また強く息を吐き出してシューッという威嚇の噴気音をたてる。ウミヘビには肺の後室がほとんど胴の末端部まで達するものがあり、空気を蓄えて海に潜る。

[松井孝爾]

毒と捕食

毒ヘビは大半が世界の熱帯・亜熱帯に分布し、約300種が致命的な毒をもつ危険種であり、人間には被害を与えない弱毒種がほぼ同数ある。上顎前端または後部に1、2対の毒牙をもち、口腔腺(こうこうせん)(唾液腺(だえき))の一種である耳下腺または唇腺から変化した毒腺を、両頬部に備えている。毒牙には歯の側面に溝のある溝牙(こうが)と、溝が完全に閉ざされて注射針状になった管牙(かんが)とがあり、毒腺とは導管で連絡する。毒牙の位置によって、ブームスランDispholidus typusやマングローブヘビBoiga dendrophilaなど溝牙を上顎後部にもつ後牙類、コブラやウミヘビなど溝牙を前部にもつ前牙類、そしてマムシやクサリヘビなど上顎前部に可動的な管牙をもつ管牙類(可動牙類)に大別される。ヘビの毒は各種酵素と毒性タンパク質などの複雑な成分からなり、おもな毒成分に出血毒、神経毒、心臓毒、溶血素などがあって、種によって成分構成が微妙に異なる。毒の主目的は獲物に注入して抵抗力を失わせ、効率よく餌(えさ)を得ることで、また成分中の酵素は餌の消化を促進させる効果がある。毒は二次的には自衛手段に用いられ、人畜に危害を与える。一般の無毒ヘビは獲物にかみつき胴で巻き締めて窒息させるが、小さな餌はそのまま飲み込む。餌は生きた哺乳類(ほにゅうるい)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などで、小形種や幼いヘビはミミズ、ナメクジ、昆虫類をとらえ、食性は成長に伴って変化する。鳥の卵を好むものは発達した脊椎下突起で卵殻を破る。ヘビは弾力性に富んだ頭骨構造により、口を大きく開いて大きな餌を飲むことができる。胸骨を欠くため肋骨は自由に開閉し、皮膚には伸縮性があって、餌を通過させる。消化力が強く、獲物は数日で毛やつめの一部を残してすべて消化される。

[松井孝爾]

生態

ヘビの約4分の3が卵生で、ほかはマムシ類などの卵胎生である。肛門裂(こうもんれつ)は体軸に直角に開き、ここから後ろが尾である。雄には1対の半陰茎hemipenisがあって交尾を行い、1回の交尾で数回の受精が可能である。1回の産卵数は平均10~20個ほどで、最少は2個、最多はニシキヘビ類の100個余りである。普通、孵化(ふか)には30~40日を要し、短いものは南西諸島産のヒメハブTrimeresurus okinavensisなどが1、2日で卵胎生に近く、長いものはエラブウミヘビLaticauda semifasciataの約5か月である。

 世界の各地で適応放散の結果、平地から4000メートルの高地に至る森林、草原、湿地、荒れ地、砂漠の至る所に生活圏を広げ、地上、樹上および地中から海洋にまで生息している。一部が居住区周辺にすみつき、家屋内にも入る。卵は大半が放置され自然孵化するが、誕生後は終生単独で生活し、少数が繁殖期に集合したり冬眠で集まる以外は、群れをつくることがない。音声を出さず行動も静かなため、生息数のわりには人目に触れることが少ない。変温動物であるため体温調節は日なたと日陰との移動によって行い、索餌(さくじ)以外はあまり行動しない。行動はヘビ特有の蛇行運動によるが、この運動による力学的な力の合成で前進するとともに、肋骨の先端を支持物に押し付けて起伏運動する。このとき、筋肉で肋骨と連結する腹板は、複雑な地形に対応して連続的に歯止めの役割を果たし、角張った両端で横滑りを防いでいる。好んで木に登る種類では腹板の両端が角張り、これを樹皮にひっかける。蛇行にもいくつかのタイプがあり、胴の太いクサリヘビ類やニシキヘビ類では体を伸ばしたまま腹壁を波打たせる匍匐運動(ほふくうんどう)であり、砂漠にすむサイドワインダーCrotalus cerastesやツノクサリヘビCerastes cerastesは特有の横ばい運動を行う。海生のウミヘビでは尾部が著しく側扁してひれ状となる。毒ヘビのサンゴヘビ属Micrurusなどは鮮やかな標識色(警戒色)をもつが、大半は色彩斑紋(はんもん)が有効な保護色となっている。しかし、体色は変化せず、性別による色彩変異も少ない。一般にヘビは性質が温和で、毒ヘビですら原則として自衛以外に人間を攻撃することがない。多くの種は頸部や胴を膨らませ、尾を激しく振って威嚇する。

[松井孝爾]

系統と分類

ヘビはトカゲ類を祖先として三畳紀に分化したと考えられるが、化石が少なく系統的な祖先型を知ることはむずかしい。最古の化石は南アメリカのパタゴニアにある白亜紀後期の地層から発見された全長約2メートルのディニリシアDinilysiaなどで、現生のアニリウス科Aniliidaeと近縁である。現生のヘビは主として頭骨や脊椎骨の相違によって次の3群(下目)11科に分類される。

〔1〕メクラヘビ群 地中生活をするミミズ型の小形種。頭部から尾部まで円筒形の同じ太さで、尾がきわめて短い。頭部以外は同大の細鱗に覆われ、腹板は分化しない。多くの種では腰帯と後肢の痕跡が小骨として残る。世界の熱帯・亜熱帯に分布し、全長約10~30センチメートル。メクラヘビ科Typhlopidae約180種は上顎にのみ歯があり、ホソメクラヘビ科Leptotyphlopidae約50種は下顎にのみ歯をもつ。これに対し、アメリカミミズヘビ科Anomalepididae約20種は両顎に歯があり腰帯の痕跡を欠く。

〔2〕ムカシヘビ群 頭骨の構造が原始的で、多くの種にはつめ状の後肢痕跡がある。世界の熱帯・亜熱帯に分布し、ヘビの最大種アミメニシキヘビ、アナコンダEunectes murinusをはじめ大形種が含まれる。半地中性で原始的なアニリウス科6種、キセノペルティス科Xenopeltidae1種、ウロペルティス科Uropeltidae43種、水生のヤスリヘビ科Acrochordidae3種、および大形のボア科Boidae65種の5科が属する。

〔3〕ヘビ群 頭骨の構造などの進化が進んだ一群で、毒ヘビを含む現生種の大部分が属する。分布域はヘビ亜目全般と同じで、大半が全長1~2メートル、適応放散してさまざまな形態に分化している。

(1)ナミヘビ科Colubridae 日本産無毒ヘビ(メクラヘビを除く)の全種をはじめ、現生ヘビの総数の3分の2ほどが含まれる。腹板はよく分化し腰帯や後肢の痕跡はまったく認められない。一部の種が上顎後方に溝牙をもち、さらにそのうちの少数が毒性の強い危険種である。

(2)コブラ科Elapidae コブラ、サンゴヘビ、ウミヘビなど約230種が含まれる。上顎前部に溝牙を生じ、すべてが毒性の強い危険種。神経毒が主成分である。

(3)クサリヘビ科Viperidae 約180種が属し、ピット器官をもつマムシ亜科と、これを欠くクサリヘビ亜科やトゲオマムシ亜科に分類される。上顎前部に可動的な管牙をもち、毒性の強い危険種が多い。出血毒が主成分である。

[松井孝爾]

人間生活との関係

ヘビは一般的な風習としては嫌悪されるが、危険種は毒ヘビに限られ、大形のニシキヘビでも人間を襲う例はきわめてまれである。無毒ヘビは小鳥とその雛(ひな)や卵を捕食するものの、農林業に大きな被害を与えるネズミ類をとらえ、役だっている。一部がペットにされ、また皮革細工の材料として重用される。近年では毒成分なども医療に用いられるが、本体は古くから世界の各地で民間薬用や食用に供されてきた。

[松井孝爾]

文化史

外国

ヘビの出現をなんらかの予兆と考える所は多く、たとえば中世のヨーロッパ、アラビア、南アフリカのバントゥー系諸族などでは吉兆としたが、シレジア地方(ポーランド)では吉兆ではあるが不幸が起こる前兆とも考え、ノルウェーでは不吉とした。またヘビはその生態から、地界や水と関係し、しばしば地下神に結び付けられたり、死者の霊魂とみなされた。水神、雨神、作物神としても崇拝され、インド、ケララ州のドラビダ人の間では、雨と豊作をもたらすほか、生産力や生殖力をもつと信じられている。そのため不妊の女性が石像のヘビに祈ったり、コブラを神聖視してけっして殺さず、コブラに捧(ささ)げるための牛乳を入れたコップを家の庭に置いておく。

 日本の奄美(あまみ)地方では、ハブにかまれるのは、神とくに水神への信仰不足を知らせるためという。メキシコ神話に出てくる羽の生えたヘビ神ケツァルコアトルは、風や雨、トウモロコシの栽培と深い関係がある。商業の神、医学の神と結び付けられることもあり、WHO(世界保健機関)のマークにもヘビの姿がデザインされているほか、ヘビが財宝を守っているという伝説はヨーロッパ各地にある。

 反面、ヘビは呪力(じゅりょく)をもつと考えられ、イタリアのロマニア地方では妖術(ようじゅつ)や邪視を防ぐため壁にヘビの絵をかくが、ゾロアスター教ではもっとも邪悪な存在とされて、みつけしだい殺される。古代イスラエルでも、エデンの園のヘビは悪の象徴である。

 このようにヘビが善と悪の二面性および呪力をもつとされるのは、ヘビには足がなくてウロコがあるため陸上動物と魚類との区分を乱し、さらに生息場所が地上だけでなく、地下、樹上、水辺、人間の住居にも出没するという空間区分をも乱す、中間的、変則的な動物であるためと考えられる。

[板橋作美]

日本

ヘビのように人間と特殊な関係をもっている動物は少ない。日本でも古代から、山の神、水の神、雷神としてのヘビの信仰が伝えられており、記紀には八岐大蛇(やまたのおろち)についての物語や、大和(やまと)の御諸山(みもろやま)の祭神大物主命(おおものぬしのみこと)が蛇体であったことが記されている。

 諸地方の神事や雨乞(あまご)いには蛇体をつくって引き回す例が多く、奈良県御所(ごせ)市の野口神社では、蛇祭(じゃまつり)といってこの蛇体を村中引き回すが、家々ではこれにみそ汁をかけるため、汁掛祭(しるかけまつり)ともよんでいる。島根県出雲(いずも)地方では、梅雨神(つゆがみ)といって梅雨期だけに岩の割れ目からヘビが頭を出すというが、これは田植開始のたいせつな兆候から生まれた信仰と思われる。長野県佐久(さく)市などには、蛇の枕石(まくらいし)、蛇石(へびいし)といって、雨乞いをするときにこの石の所で経を読むという。また民家では、ヘビを土蔵の守り神とする例が多くみられ、とくに白蛇がよいとされるが、一方、白蛇は弁天様(べんてんさま)(弁才天)の使いともされ、鎌倉の円覚寺には、白ヘビがとぐろを巻いた上に弁天様が座している像がある。

 ヘビについての昔話や伝説は全国各地に語られている。昔話には、ヘビが人間の婿(むこ)あるいは女房の姿となって結婚し、最後に幸福に終わるという「蛇婿入り」「蛇女房」などがあり、和歌山県の道成寺縁起(どうじょうじえんぎ)として知られる「安珍清姫(あんちんきよひめ)」のように、人が執念のあげく蛇体になるという伝説もある。愛媛県をはじめ四国には、蛇筋(へびすじ)、蛇持(へびも)ちという憑き物(つきもの)持ちの家があると伝えられているほか、越後(えちご)(新潟県)の五十嵐(いがらし)家や九州の緒方家などには、蛇の子孫という古くからの家伝も伝えられている。

[大藤時彦]

 『和名抄(わみょうしょう)』に、ヘミ、クチナハ、ヲロチ、カラスヘミ、ニシキヘミなどの異名が掲げられているように、古くはヘミとよばれた。記紀などに早くからみられ、須佐之男命(すさのおのみこと)が八岐大蛇を退治する話、大国主神(おおくにぬしのかみ)が須勢理毘売(すせりびめ)に求婚して蛇の室に入れられる話、神体が蛇である大物主神が人の娘に通って正体が知られる話(三輪山伝説(みわやまでんせつ))などがよく知られている。『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』の行方郡(なめかたぐん)条には夜刀の神(やつのかみ)(角のある蛇という)が田の耕作を妨げた話、香島郡(かしまぐん)条には蛇が角(つの)を折ったという角折(つのおれ)の浜の話、那賀郡(なかぐん)条には人の娘が神の子の小蛇を産んだ話があり、他の国の風土記にもいくつか説話が記されている。『日本霊異記(にほんりょういき)』中巻には、蟹(かに)が恩返しに、蛙(かえる)を救うために蛇の妻となろうとした娘を助ける話などがあり、『今昔物語集』をはじめとして説話文学には蛇の話が数多く語られ、邪淫(じゃいん)や執着にまつわる内容の話などが伝えられている。『仏足石歌(ぶっそくせきか)』には、人間の肉身を不浄の物として、「四つの蛇(へみ)五つの鬼の集まれる穢(きたな)き身をば厭(いと)ひ捨つべし離れ捨つべし」という歌謡がある。『蜻蛉日記(かげろうにっき)』中巻には、蛇が肝を食う夢の記事があり、『枕草子(まくらのそうし)』の蟻通(ありどおし)の明神の説話にも蛇が出てくる。『うつほ物語』「俊蔭(としかげ)」には「悪を含める毒蛇」とあり、『堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)』「虫めづる姫君」には、作り物の蛇に驚く場面がある。『徒然草(つれづれぐさ)』には、蛇に食われたときに用いる薬草のことや、祟(たた)りを恐れずに蛇塚を崩した話などが書かれている。季題は夏。

[小町谷照彦]

『『学研の図鑑 爬虫・両生類』(1973・学習研究社)』『中村健児・上野俊一著『原色日本両生爬虫類図鑑』(1976・保育社)』『吉野裕子著『ものと人間の文化史32――蛇』(1979・法政大学出版局)』『『小学館の学習百科図鑑36 両生・はちゅう類』(1982・小学館)』『日高敏隆監修『日本動物大百科第5巻 両生類・爬虫類・軟骨魚類』(1996・平凡社)』


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世界大百科事典(旧版)内のヘビの言及

【池】より

…池のもつ意義にはそのおもなものとして,灌漑(かんがい)のことがまず取りあげられなければならない。つぎに文学に現れる池,また庭園の池を考えなければならない。庭園の池は最初から鑑賞もしくは造園上の風趣をそえることに目的があるが,文学の中に取り入れられた池は,むしろ灌漑池として築造された池のすぐれた景観が,人工池ではあるが自然を背景とした美しさによって,人の心をゆすぶるものである。 平安時代の文学者たちは京都,奈良の各地に,いわゆる名池なるものをつくっている。…

【サタン】より

…使徒時代以後は,キリスト復活によってサタンは一度敗北したが,絶えず神に敵対し策謀をめぐらすものとして,また反キリスト教勢力を動かす力として言及される。サタンは,エデンでイブを誘惑したヘビや,ミカエルによって天上を追われた竜とも同一視される。
[サタンの図像]
 西洋美術にはサタンはひんぱんに登場し,その姿は多様である。…

【水神】より

…水の妖怪であるが,水神が河童の姿をとったと想像される民間伝承は多い。また水神は,竜やヘビ,ウナギ,サル,クモなどの姿をとると信じられている。とくにヘビは,東アジア,東南アジアに共通して,水神の使令とみなされてきた。…

【タコ(蛸∥章魚)】より

…頭足綱八腕形目Octobrachiataに属する軟体動物の総称。潮間帯から深海帯まで分布し,マダコ科を中心に世界におよそ200~250種くらいすむと思われているが,分類の形質となる硬い組織に乏しいため分類が確立しておらず,確実な種数はつかめていない。日本近海には30~40種前後のタコが分布している。
[構造]
 体は一般に筋肉質に富んでいるが,浮遊性あるいは深海性の種は柔軟で,あるものは寒天様である。体は,胴,頭,腕(足)の3部分からなる。…

【ナーガ】より

…ナーガは仏典においてもよく言及され,天竜八部衆の一つである。同じく八部衆に属する摩睺羅伽(マホーラガ)は大蛇のことであるが,ニシキヘビなどの大蛇を指すようである。ミャンマー国境に近いナガランドには,ナガ族という種族が住んでいて,ナーガの末裔と称し,独自の習俗を保存している。…

【巫蠱】より

…中国で他人に危害を与えるために行われた呪術。甲骨文にすでに蠱()の字があり,虫(ちゆう)(蛇の類)が器中にいるのをかたどる。外から及ぼされる祟りを意味したらしい。後世の説明であるが,器の中に多くの蛇を入れておくと互いに喰い合う。最後に残った1匹には大きな呪力があり,それを用いて他人に害を与えられるとされた。日本のつきものと同様に,蠱をあつかう家すじがあると考えられたらしく,《捜神記》には,蠱を行う家にとついだ嫁が知らずに缸(かめ)の中の大蛇を殺したところ,その家は死に絶えたとある。…

【蛇婿入り】より

…蛇が男になって人間の娘に求婚するという内容をもつ,異類婚姻譚に属する昔話群の総称。蛇婿入譚は内容から〈苧環(おだまき)型〉〈水乞(みずこい)型〉〈蛙報恩型〉に大別される。〈苧環型〉は,夜中に娘のところに見知らぬ若い男が通ってくるのを怪しんだ親が,男の着物に糸を通した針を刺させ,男が帰ったあとその糸をたどっていったところ蛇のすみかに至り,そこで蛇の親子の会話を立ち聞きして娘に宿った蛇の子を堕(おろ)す方法を知る,というものである。…

【梵鐘】より

…仏寺で時を知らせ,衆を集めるために用いる鐘(かね)。〈梵〉はサンスクリットのブラフマンbrahmanの音訳で,〈神聖〉〈清浄〉を意味する。ほとんどが銅とスズの合金(青銅)の鋳造品で,鐘楼や鐘楼門を寺域に建てて吊(つ)るし,撞木(しゆもく)で撞(つ)き鳴らす。俗に鐘,釣鐘(つりがね)とも呼ぶが,古くからその形状や由縁によって多くの異称がある。おもなものに突鐘(つきがね),洪鐘(こうしよう),撞鐘(どうしよう),鴻鐘(こうしよう),蒲牢(ほろう),鳧鐘(ふしよう),九乳(くにゆう),青石(せいせき),華鯨(かげい),霊鐘(れいしよう)などがあげられる。…

【竜】より

…現在の民話の中に竜王や竜女がしばしば出現するほか,旧暦2月の春竜節には冬のあいだ眠っていた竜を呼びおこす種々の行事があり,また端午節には竜船の競争が行われるなど,季節の行事の中に水と豊作をつかさどる竜の農業神的な性格をみることができる。【小南 一郎】
[日本]
 日本では竜はしばしばヘビと同一のものの形象として現れ,特に水や水神,あるいは嫉妬にもえる女などが竜の姿をとるとされることが多い。俱梨迦羅(くりから)竜王信仰竜神
[西洋]
 西洋では竜をドラゴンdragonと呼ぶが,これはヘビを意味するギリシア語drakōnに由来する。…

【留守神】より

…神無月(かんなづき)(旧暦10月)には,日本中の神々が出雲の出雲大社に集まるという伝えが平安時代からあるが,そのとき留守居をするという神がある。一般には,オカマサマあるいは荒神(こうじん),恵比須,大黒,亥子(いのこ)の神を留守神としているところが多く,これらの神は,家屋に定着した家の神である点で共通する。武蔵の総社である六所明神(大国魂神社)や信濃の諏訪明神(諏訪大社)など,各地の大社には,神の本体が蛇なので出雲に行かないという伝えがある。…

【ワラビ(蕨)】より

…広義にはシダと同義とされるが,狭義には酸性にかたよったひなたの斜面や松林などにみられるコバノイシカグマ科の夏緑性草本をいう(イラスト)。春の初めに若芽を摘んで食用にするのは日本の古くからの習わしで,現在でも山菜の代表の一つである。根茎は地下深くを長く横走するので,斜面が焼かれても生きており,焼畑などでも早くから芽を伸ばしてくる。根茎からデンプンを取って作ったのがワラビ餅であるが,最近のワラビ餅はジャガイモなどのデンプンを使っている。…

※「ヘビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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