知恵蔵 「ヘイトスピーチ対策法」の解説
ヘイトスピーチ対策法
本法では、ヘイトスピーチを本邦外(日本国外)出身者への「差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知」する行為、「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」と定義し、基本理念として「(国民は)不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」と掲げている。基本的施策としては、国に対して、相談体制の整備、人権教育の充実、啓発活動の実施などを定めている。また地方公共団体に対しては、国との役割分担を踏まえながら、実情に応じた施策を実施することを定めている。ただし、禁止・罰則規定がないことから、実効性に疑問の声が出ている。また、どこまでの言動を「不当」とするか線引きが難しく、公権力による恣意(しい)的な解釈・運用を危惧する声もある。
ヘイトスピーチは00年代末頃から、とりわけ在日コリアンの排斥を訴える右派系市民団体のデモ・街宣活動で頻繁に行われるようになり、深刻な社会問題になっていた。日本は、差別扇動行為の禁止を求める国連人種差別撤退(撤廃)条約を採択しており、人権擁護の啓発活動は行ってきたものの、憲法が保障する「表現の自由」を侵害する恐れがあることから、法律による規制には賛否両論があった。法規制の議論が高まるなか実施されたアンケート(「毎日新聞」15年5月実施、対象2310人)でも、法規制賛成46.9%、反対49.1%と伯仲していた。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報