プロノイア(英語表記)pronoia

改訂新版 世界大百科事典 「プロノイア」の意味・わかりやすい解説

プロノイア
pronoia

語源的には,まず〈配慮〉,つづいて〈管理〉を意味するギリシア語で,11世紀以後のビザンティン帝国において,国家が下賜する条件付の土地所有(厳密には,特定の地域からの一定の租税収入額の移譲の一形態)を指す専門用語となった。同制度はバルカンのビザンティン領土を併合した南スラブ人国家やベネチア領ダルマツィアのスカダル地方でも普及した。条件付とは,本来プロノイアが,受給者本人の生涯に限って(後に初めて世襲化),ストラテイアstrateiaとよばれた対国家義務の提供を代償として与えられる点にある。義務の内容は,受給者が主として軍人(ストラティオテスstratiōtēs)であるところから,軍事奉仕(重装騎兵としての)だと考えられるが,彼が同時に提供したと考えられる兵員数については,スカダルのベネチア文書に明文の記載があるにすぎない。

 この制度の趣旨は,ビザンティン国家がその財政機構を通じていったん徴集した租税を俸給として軍人に支払う方式にかわって,俸給財源としての,一定租税額をもった特定の地域を,俸給取得者に直結し,後者自らにその徴集をゆだねる点にある。その結果,まず国家の地方財政管理組織の解体が,ひいては徴税権をゆだねられた者への当該地域の住民の隷属化が生まれることになった。この点でプロノイアは,同制度とよく比較される同時代の西ヨーロッパ封建制度における封土レーン)や,イスラムイクターうち,とくに後者と部分的に共通する性格を有する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プロノイア」の意味・わかりやすい解説

プロノイア
pronoia

摂理」の意のギリシア語。理性的な神の観念と連関した概念で,プラトンにもみられるが,顕著な形で現れるのはストア派自然学においてである。宇宙は理性的な霊魂としての神によって支配されている一つの大きな生物体であり,一見偶然であるかにみえる自然的存在の生成消滅の諸原因は,実はすべてを合目的的に形成する内在的な神の理性的な摂理,完全な知恵によって連関しており,自然的存在の全体と諸部分もそれゆえ密接に連関している。この観念は主として新プラトン主義に継承された。

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