プロウィンキア(英語表記)provincia

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プロウィンキア」の意味・わかりやすい解説

プロウィンキア
provincia

古代ローマが獲得したイタリア外の領域。属州と訳される。元来プロウィンキアの語は政務官の権限,領域をさし,イタリア本土に限定されていた。第1次ポエニ戦争後獲得したシチリア,次いでサルジニアは最初の海外領土で,ローマはこれに貢納義務を課し,2名の法務官 (プラエトル ) を任命してプロウィンキアを設定した。しかし前 198/7年ヒスパニアの併合以後は新たな法務官は設けず,執政官 (コンスル ) ,法務官の命令権をもつそれぞれの官職経験者を総督として派遣した (→プロコンスル , プロプラエトル ) 。以来プロウィンキアは海外属領を意味することになり,ローマの進出,騎士身分 (エクイテス ) の台頭によってその範囲は急激に拡大した。属州総督の任期は1年だったが,次第に有名無実となり,長期にわたって任にあり,徴税,貢納により巨額の富を獲得する者も現れた。ポンペイウス (大ポンペイウス) ,ユリウス・カエサルはその典型で,プロウィンキアを経済的基盤とするだけではなく,私兵を徴集するなど,みずからの勢力基盤としてこれを搾取,利用した。皇帝アウグスツス (在位前 27~後 14) 以後プロウィンキアは皇帝直轄と元老院管轄に分れたが,エジプトなど重要な穀物供給地は皇帝直轄となり,ブリタニアダキアなど新しい領土もすべてそうなった。プロウィンキアはローマ,イタリアの物資供給,兵士調達地であり,属州の有力者は皇帝礼拝団体などを通じてローマとの結びつきを求めた。しかし帝政が進むにつれて経済的自立性が強まり,帝国上層にプロウィンキア出身者が輩出するにいたり,212年カラカラ帝の勅令で全属州民にローマ市民権が付与された結果,イタリアとプロウィンキアとの実質的な差異は消滅した。なおプロウィンキアの呼称自体は単なる行政区画名として残存した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「プロウィンキア」の意味・わかりやすい解説

プロウィンキア
provincia

古代ローマでは公職者の職務領域,例えばプラエトルの法秩序維持などをいい,ポエニ戦争以後はイタリア以外のローマ領(属州)もさす。属州の獲得と維持は古代帝国ローマの発展と表裏するが,国法上,属州はローマ国土でなく戦地で,属州住民は(ローマと同盟関係にある都市や部族を除き)従属外人とされ,総督が軍隊を率いて統治した。共和政期には一貫した属州政策の欠如から悪政と搾取が横行し,アウグストゥス以降,元首の強権による全属州の掌握と安定が図られた。1,2世紀に東方で新属州を加え,西方属州を中心にローマ化も進み,212年のアントニヌス勅令は帝国の全自由人にローマ市民権を与えた。3世紀後半,元首権力の基盤たる属州軍が元首廃立を繰り返した。大混乱収拾後,ディオクレティアヌスはイタリアを含め全国を101属州に再編し,文官と武官の分掌統治を導入したが,やがて官僚組織の巨大化,硬直化が実効を失わせた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プロウィンキア」の意味・わかりやすい解説

プロウィンキア
ぷろうぃんきあ
provincia ラテン語

元来は古代ローマの官職の職務領域を意味したが、のちに職務領域としての「属州」を意味するようになった。この意味変化は、紀元前227年新たに追加された2人のプラエトル(法務官)が、最初の海外領シチリアとサルデーニャ・コルシカを職務領域としたことから始まった。属州はその後しだいに増加し、とくに共和政末期ポンペイウス、カエサルによる征服は著しく海外領を増大させた。属州設置にあたっては、征服将軍は元老院の意を受けて属州法を発し、そのなかで境界、政治体制、課税、裁判権、自由・同盟市の承認などローマ統治との関係を定めた。しかし属州総督の権限は在任中ほとんど無制限だったので、多くの属州は総督の収奪に苦しんだ。徴税を担当した請負人publicaniの搾取も属州人を苦しめた。帝政期には全属州は皇帝と元老院とで分掌され、しだいにきめの細かい統治が行われるようになり、紀元2世紀初めまでは属州も拡大した。属州のローマ化も進み、属州出身者で元老院議員や皇帝になる者も現れた。

[弓削 達]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「プロウィンキア」の意味・わかりやすい解説

プロウィンキア

一般には,古代ローマの属州。元来は公職者の権限領域の意。ポエニ戦争以後に獲得したイタリア半島以外の海外領土で,総督が軍隊を率いて統治。共和政期には属州政策は一貫性を欠き搾取が横行したが,アウグストゥス以降は元首の強権によりその安定が図られ,属州のローマ化も進んだ。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「プロウィンキア」の解説

プロウィンキア
provincia

元来は古代ローマの政務官の権限領域の意。一般にポエニ戦争以後にローマが獲得したイタリアの外の海外属州をさす。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android